216話「さまよえる弾丸」
「グギャアアアアアーー!!!」
俺の”洗浄(クリン)”もどきを受けた死魔の王が悲鳴を上げて身体を仰け反らせた。
今までの攻撃と違い、魔法を当てた部分の靄が大きく抉れている。今までとは明らかに異なる反応。
「マジで効いてるみたいだな。」
しかし、抉れた部分も時間が経てば戻ってしまう。
確かに言われた通り効果はあるが、それでも決定打というほどではなさそうだ。
連発して八割ほど身体を削ってみても、すぐに再生してしまった。
俺の魔法がダメなのか?
チャットで言っていたように、”洗浄(クリン)”の魔法は難解だ。俺も理屈は分かっていない。それでも使えるのは、魔力の動きをそっくりそのまま模倣して魔力操作しているからだ。
そのため威力や範囲のアレンジ程度なら可能なのだが、肝心要の部分はブラックボックス状態なのである。
しかし魔法が発動しているということは、少なくともコピーは完璧なはずだ。
>効いてるっぽいんだけど、何発くらい当てれば倒せるんだ?
<普通に一発だけど。どんな感じで効いてる?
>魔法を当てた部分が吹き飛ぶんだけど、すぐに再生しちまう。
<そっちじゃなくて本体をやらないと。その辺に魔鉱石の鎧を着た死体が転がってない? それが本体。
>無いけど・・・・・・魔鉱石の瓦礫ならある。たぶん本体の死体はその下敷きだな。掘り返すしかないか・・・・・・。
<何それどういう状況? それと本体は死体じゃなくて、瘴気を吸った魔鉱石の方。
て事は、あの瓦礫の山が本体になるのか。言われてみれば、あそこから湧き上がってきているように見える。
あれに”洗浄(クリン)”をかければ倒せる・・・・・・のか?
危機感を覚えたのか、死魔の王の攻撃が更に激しくなってくる。さっきから防壁を張りっぱなしだ。
加えて眷属たち。この部屋には居なくなったようだが、別の場所で戦っている獣人たちが取りこぼした眷属が群れで襲い掛かってくる。
触手の一撃を受けた眷属の頭が弾け、壁に染みを作った。頭の無くなった体を押しのけ、踏みつけながらすぐに次の眷属が現れる。
「しつこい!」
獣人たちはこの部屋に近づけないため、こちらへ来た眷属は全て俺が片付けなければいけないのだ。あぁ面倒くさい!
さっさと親玉を倒してケリをつけたいところだが、俺にとっては死魔の王よりも普通に物理攻撃してくる眷属の方が脅威であるため、放っておくことも出来ない。
死魔の王を倒せば眷属も消滅するならボス狙いでいくんだけど・・・・・・。
「とにかく数を減らさないと・・・・・・そうだ!」
地面に魔力を流し、土の壁を形成していく。場所は部屋の入口。
部屋にいくつかあった入口を、自分の入ってきた箇所だけ残して他を全て土の壁で塞いだのだ。
これで相手しなければならない眷属の数がグッと減る。獣人たちに押し付けた形になるけど・・・・・・まぁ、彼らの戦いぶりなら問題無いはずだ。
あとは残った入口に群がっている眷属どもを倒せば一息つけるだろう。
複数本の触手を操り、群がる眷属の頭を次々潰していく。
一か所に絞ってしまえば、狭い入口に殺到してくる眷属を倒せばいいだけなので時間はかかったが危なげなく一掃することが出来た。
さて、次の一波が来る前に目の前の大元をどうにかしないとな。
「今度は瓦礫の方を狙って――」
魔法を撃つ。
魔鉱石の瓦礫に当たった魔法は眩い光を放ち始め、気付けば視界を白一色に染め上げていた。
「ちょっ・・・・・・何この光!? 聞いてないんだけど!?」
驚くべきはその魔力消費量。こうしている間にも、身体の中から魔力が際限無く抜けていく。普通の人間なら一瞬で干上がっているところだ。
「ギィェェエエエエエエーーーー!!!」
魔法はかなり効いているようで、死魔の王は断末魔を上げながら影の身体をのたうち回らせている。魔法に曝されている時間に比例し、気配も削がれていっているようだ。
しかし――
「くっ・・・・・・どれだけ魔力使うの、コレ。」
崩れそうになった身体を、膝をついて支える。
転生者の身で魔力が湯水のように溢れていても、魔法を使った時に疲労を感じないわけではない。
ちまちま使う分には大した問題ではないが、一気に魔力を消費してしまえば感じる疲労も大きくなってしまうのだ。
普段なら使う魔力を調節すればいいだけなのだが――
「制御・・・・・・できない・・・・・・っ!?」
おそらくはこの魔法のブラックボックスによる挙動だろう。浄化が終わるまで発動し続ける、といったところか。しかも普通の汚れじゃないしな・・・・・・。穢れって書いた方がしっくりくるやつだ。それを百年以上熟成させているのである。そらお掃除するのも大変だわ。
・・・・・・やっぱ良く分かってない魔法を変に使うべきじゃなかったか。
危険な魔法と言ってしまえばそうだが、こんな幽霊退治みたいな使い方は想定してないだろうしね・・・・・・そもそも掃除するための魔法だし。
それでもアイツに効果的なのは事実。こうなりゃ我慢比べだ。
膝をついた姿勢のままゆっくりと息を吸い込む。
「追加の魔力だ、もってけドロボー!」
魔力を消費すれば疲れる。だが、言ってしまえばそれだけである。転生者の魔力が枯渇することはない。多分。
無駄に長引かせるよりも、威力を上げて虫の息になっている死魔の王に一気に止めを刺してしまおうという考えだ。
そして、その目論見は成功した。膨れ上がった光が死魔の王を包み込み、一息で消滅させたのだ。
穢れが消え去ると、発動していた魔法も徐々に収束していく。
しかし、今度は新たな問題が発生してしまった。
「もう動きたくねぇー・・・・・・。」
思った以上に疲労が濃く出てしまったのである。泥で汚れてしまうのも厭わず、両手足を地面の上に投げ出す。
「少しここで休んで・・・・・・って、何か近づいてきてる? ・・・・・・あぁーそうか、まだ眷属が残ってるんだっけ。」
もう死魔の王は倒したので、まだ死体が埋めてあったとしてもこれ以上眷属が増えることはないので、後は残処理だけだ。
「まぁ、魔力はまだ余ってるし、来たら倒せばいいか。」
しばし身体を休ませていると、引きずるような足音が聞こえてくる。やはりこっちまで来てしまったようだ。
のそのそと上体を起こし、入口の方へ視線を向ける。
「数は1体・・・・・・触手は疲れるし、こっちでやるか。」
親指と人差し指でL字型を作り、敵のやって来る方向へ構えた。いわゆるガンマンスタイルである。
魔力を人差し指の先端へ集め、凝縮させていく。更に近づいてくる足音。もうすぐそこまで来ていた。息を止め、狙いを定める。
人型の眷属が、入口に姿を現した。
「発射!」
放った魔力の弾丸が空気を切り裂きながら眷属へ向かって飛んでいく。
しかし、弾丸は眷属のすぐ脇をすり抜け坑道の壁を抉った。
「・・・・・・もっとガンシューやり込んどけば良かったかも。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます