215話「ファブる」
死魔の王が再び金切り声を上げ、黒い霧を拡散させた。襲ってくる魔力の波を、薄い魔力の障壁で受け止める。黒い霧は魔力の密度が低く、防壁に当たればそのまま霧散していった。防ぐのはかなり簡単だ。
そのまま喰らっても大して効かないけど、身体に悪いと分かっているものを無防備に浴びるのは気分的によろしくないしな。
「それじゃあ次はこっちの番!」
触手で死魔の王の身体を薙ぐように攻撃してみる。・・・・・・ダメだ。獣人たちの攻撃と同じ様に靄を少し散らす程度で終わってしまった。
そしてまた放ってきた幻惑魔法を魔力障壁で防ぐ。幻惑魔法が効かない苛立ちか焦りか、何度も連発してくる。てか、それしか攻撃方法無いのか?
こちらもこちらで攻めあぐねている。
水の魔法も、風の魔法も、土の魔法も効果が殆ど無い。魔法といっても生成した水やらをぶつけてるだけだから物理攻撃と大差無いのかもしれない。
アンデッド相手なら火の魔法が効きそうだけど、こんな場所で使ったら酸欠になりそうだしな・・・・・・。
次の手を考えていると、周囲からボコッ・・・・・・ボコッ・・・・・・と音が聞こえはじめた。周りを見渡すと、壁が崩れ、地面が盛り上がり、死者が這い出してきている。
ここまでの道中を考えればボス部屋に伏兵がいるのも当然といえば当然か。確かにこの数に一斉に襲い掛かかってこられたら少々厄介だが、ただそれをジッと待ってやる義理も無い。
触手をフル稼働させ、死者が這い出す前に頭を潰して倒していく。
「壁やら地面やらに埋めたのが失敗だったね。」
刀を突き付けて挑発してやると、またも金切り声を上げて幻惑魔法を飛ばしてきた。こちらも魔力障壁で対応する。
幻惑魔法で相手を同士討ちさせ、その死体を操って戦わせる。おそらくコイツの攻撃パターンはこんなところか。
強いといえば強い。軍隊のような集団相手ならその能力を遺憾なく発揮できるだろう。しかし、俺みたいな一個人相手ではその力も半減以下である。
「ただ、こっちも決め手に欠けるんだよねぇ・・・・・・。」
水球で包んでみたり、強風で吹き散らしてみたりもしたが、これも効果なし。魔力を込めた剣で斬ってみる。効果なし。殴ってみる。効果なし。これならと思った治癒魔法も効果がなかった。
何やったら倒せるんだコイツ!? こんな時、攻略サイトでもあれば・・・・・・・・・・・・あ、wikiがあったか。
これ以上考えてても仕方ないとメニューを起動させ、仮想キーボードに指を走らせる。
項目【死魔】・・・・・・【死魔の王】・・・・・・弱点・・・・・・浄化魔法。あった!
で、浄化魔法ってどんな魔法だ? 見たことないんだけど・・・・・・成仏させる感じか?
俺はこの世界の魔法が使えない代わりに魔力操作で同じ現象を起こす事ができる。練習すれば応用も可能だ。ただ、元の現象を見たことが無ければどうにもならない。
そして俺はこの世界に転生してから一度も浄化魔法とやらは見たことが無い。そもそも今の今まであんなのと対峙するって場面が無かったしな・・・・・・。
「あー、もう! まだ死体埋めてあったのかよ!」
新たに這い出してきた眷属のもぐら叩きのように潰していく。だが・・・・・・。
「やっぱ、埋めてあるのはこの部屋だけじゃないよねぇ・・・・・・。」
鉱山中に忍ばせていた伏兵を起こしたらしい。結構片付けたと思ってたのに、まだ隠してやがったのか。
さすがにこの部屋から出て、片っ端から潰していくのは不可能だ。となればここで迎え撃つことになるわけだけど・・・・・・この閉鎖空間で囲まれるのは少し不味いな。
魔法で地面に穴を掘って逃げることは可能だが、放置して逃げてしまえば戦力増強のため更に眷属を増やそうとするだろう。今までは目立たずに行動していたみたいだが、事ここに至ってしまっては気にする必要もない。
そうなってしまえば、村の人や獣人たちが犠牲になってしまうかもしれない。それは少し寝覚めが悪い。
「結局、戦うしかない・・・・・・か。」
その覚悟を決めた時、獣人たちの遠吠えが坑道内に木霊した。同時に、戦闘の気配。残っている獣人たちが眷属と戦っているようだ。
雑魚は任せろ、ということらしい。尚も続く木霊の応酬。きっと彼らはそれで互いに鼓舞しあっているのだろう。そう考えると、少し肩が軽くなった気がした。
「よし・・・・・・それじゃあ、こっちも何とかするしかないかな。」
今一度、死魔の王を見据える。
黒い靄のような、霧のような、煙のような身体。胴から頭と両手が生えて、下半身にあたる部分は紐の様に魔鉱石の瓦礫に繋がっている。
その姿はやはり怨霊と呼ぶのがしっくりとくる。いや、地縛霊か? あの場から動けなさそうだし。
どちらにしろ幽霊だが・・・・・・幽霊退治もしたことないんだよなぁ・・・・・・。幽霊っぽい友達はいるけど。
浄化魔法が弱点らしいが、wikiにはその【浄化魔法】の項目が存在していない。それしか手掛かりが無いのになんで肝心なとこで役に立たないんだ!
いや、愚痴ってても仕方ない。とにかく誰か知っていないか聞いてみよう。そのためのチャットだ。
>浄化魔法の詳細求む。大至急。
<浄化魔法? 何それ。
<聞いたこと無いな。
<まさかとは思いますが、この「浄化魔法」とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。
<www
>wikiに書いてあるんだよ!
<いや、無いぞ。
<そんなページないな。
<まさかとは(ry
>死魔の王の弱点のとこだよ!
<死魔の王って、そんなページ・・・・・・あるやん! 懐かしいどころの話じゃねぇ。
<あー・・・・・・なるほど、それで浄化魔法。そう言われると確かに間違ってない気もする。
<知っているのか雷電!?
<うむ。
>いいからはやく教えてくれ! こっち戦闘中なんだけど!
<え、なんで戦闘中にチャットなんかしてんの?
<ヒクわー。
<安価で戦うつもりか。
>いや違うから! その死魔の王と戦ってんの! なんか全然攻撃効かないの!
<絶滅したんじゃなかった?
<死魔の王「トリックだよ。」
<発生条件を知ってれば生み出せないことはない。
<つまり、何者かによる陰謀・・・・・・!?
<話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!!!
<な、何だってーー!?
<な、なんだってー!?
<なんだってー!?
>そういうのはいいからマジで教えてくれ・・・・・・。こっちは獣人に犠牲者が出そうなんだ。
<何故それを早く言わない!
<ケモ耳の損失は世界の損失!
<浄化魔法ってのはたぶん”洗浄(クリン)”の事だね。
「はぁ・・・・・・!?」
やっと得られた回答の意外さに、思わず声を漏らしてしまう。だってその魔法は――
>掃除の魔法だろ、それ?
<まぁそうだけど、その魔法に含まれる浄化作用のどれかが効くらしい。
>どれか? らしい?
<あの魔法は複雑過ぎて全容が解明できてねーんだよ。だから魔法陣も完成してない。
<一言で「綺麗にする」って言っても中身は何だそれ状態だからなー。
<でもまぁ死魔の王を倒せることは間違いない。実際倒したことあるし。とりあえず試してみたら?
>分かった。やってみる。
死魔の王は変わらずそこに佇んでいる。眷属たちを操るので忙しいのか、幻惑魔法を撃ってくる気配はない。ホントに総力戦って感じの数を出してきているみたいだからな。
獣人たちに負担はかかっているだろうけど、その分ヤツは無防備だ。
「さて・・・・・・お掃除してみるか。」
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