161話「倉庫番」
赤、青、青、赤、青、青、青・・・・・・。
二色の不ぞろいな壁が行く手を遮っている。
赤はレンガが積み上げられた壁。
青は・・・・・・何だろう、コレ・・・・・・スライム?
指で突いてみると寒天のように弾力があり、ぷるぷると震えた。
透明度は無く、向こう側を見ることは叶わない。
「妙な場所に出たな。魔物の気配は今のところ感じないのだが・・・・・・むぅ・・・・・・いや、この青いのは魔物・・・・・・なのか?」
「どうだろう・・・・・・魔力は感じるけど、魔物の気配はしないような・・・・・・するような・・・・・・。でも、敵意を向けられている感じはしないね。」
「どちらにせよ、これじゃあ先に進めそうにないわね。」
「このぐらいの壁ならボクでも乗り越えられそうだよ。」
壁は天井までは届いておらず、運動が得意な者なら何とか乗り越えられそうな程度。
俺やフィーなら強化魔法を使えば問題無く越えられそうだ。
ただ、ニーナにとっては少し高い気もするが・・・・・・。
「じゃあ行ってみて、ニーナ。」
「まかせて!」
助走をつけてレンガの壁を蹴り、同時に風の魔法を使って一気にニーナが壁を駆け上がった。
おぉ、巧い。
――ゴンッ!!
「ふぎゃっ!!」
見えない天井に頭をぶつけ、落ちてきたニーナを触手で受け止めた。
頭を抱えてのたうつニーナ。
「やっぱりダメだったね。」
「みたいね。」
「ぐぅ~っ・・・・・・や、やっぱりって・・・・・・どういうこと!?」
「そりゃあ今までの迷宮を鑑みれば何かあると思うでしょ。それに、飛び越えられても荷物持っていけないし。」
「そういうことは・・・・・・早く言ってよぉ・・・・・・!」
「ごめんごめん。」
恨みがましい目を向けてくるニーナの頭を撫でる。
「あ、あの・・・・・・後ろに・・・・・・か、階段があるよ。」
フラムの指した方へ目線をやった。
後ろの壁に四角い入り口が開いており、壁に沿って上り階段が設置されている。
「行ってみるしかなさそうだね。」
入り口から覗き込んで見上げると、さっきニーナが頭をぶつけた見えない天井よりも上に行けそうだ。
「荷車は無理かな。一旦荷物は置いて様子を見に行こう。キシドーとメイは荷物を見てて。」
魔物の気配は無いようだが、音を立てないよう一段ずつゆっくり上っていく。
特に見えない天井があった高さは慎重に進んだが、結局何も無かった。
3~4階分の高さを上った階段の終着点は、がらんとした大きめの部屋。
壁にポッカリと開いた大穴には窓の代わりに見えない壁があり、そこから階下の壁で通れなかった部屋を一望できる。
階下の部屋は迷路になっていた。
レンガ造りの壁が迷路を形成し、要所を邪魔するように青いブロックが配置されている。
迷路を抜けた先には扉があり、そこから次の部屋へ進めるのだろう。
「あの青いのは壁ではなかったのね。」
「みたいだね。これで進み方も分かったよ。」
「え・・・・・・、本当なの?」
「うん、青いのを動かせば通路を確保できる筈だよ。まず最初に一番右のを奥に動かして、それから――」
横に立つリーフに手順を説明していく。
要するにゲームの倉庫番のようなパズルになっているのだ。
「確かにアリスの言う通りに動かせば進めそうなのだけれど・・・・・・そもそもアレ、動かせるのかしら?」
もっともな話だ。
ブロックと表現したが、最初は壁と思っていたほどデカい。
スライムの重さは分からないが、水と同じだとしても1000キロは超えるだろう。
実は見た目より超軽いってのも有り得そうだけど。
「動かせる・・・・・・と思いたい。とにかく試してみないと分からないね。」
「ねぇねぇ、アリス。コレ何だろ? えーっと、さい・・・・・・はいち?」
ラビの方へ振り返ると、壁に「再配置」と書かれたボタンが設置されている。
「再配置、ね。青いのを間違えて動かした時に押せば、元に戻せるんじゃないかな。」
試しにポチッと押してみる。
「ちょっ・・・・・・!? 押して大丈夫なの!?」
・・・・・・・・・・・・何も起きない。
やはりブロックを動かしてみるしかないか。
「下に行って確かめてくるよ。何人かはこっちに残って、合図したら今のボタンを押してみて。」
パーティを二つに分け、サーニャとフラムを連れて下に戻った。
ボタンでの変化が無かったことを確認し、最初に動かすべきブロックの前に立つ。
「ほ、ほんとに、動かせる・・・・・・の?」
改めてそそり立つブロックを見上げる。
・・・・・・・・・・・・無理かも。
「うーん・・・・・・とにかく押してみるよ。」
強化魔法で身体能力を向上させ、グッと力を込めてブロックを押す。
ダメだ、ビクともしねぇ!
やはり見た目どおりの重さだったようだ。しかし――
――ズズ・・・・・・ズ・・・・・・。
「おわっ・・・・・・! 動き出した・・・・・・。」
ブロックが力を加えていた方向に勝手に動き出し、ちょうど1ブロック分進んで止まった。
おそらく、一定時間押せばその方向へ1ブロック分移動するのだろう。
このブロックは、そのための魔物であるらしい。
ラビの持っている短剣ならあっさり壊せたりするかもしれないが・・・・・・何されるか分からないし、極力手を出さない方が無難か。
ズズ・・・・・・ズ・・・・・・。
「おわっ!?」
いきなり隣のブロックが動き出した。
いや、俺は何もしてな――
「ホントにゃ! 動いたにゃ!」
「・・・・・・あの・・・・・・サーニャ。勝手に動かすのは止めてね・・・・・・。」
「えー! つまんないにゃ!」
「じゃ、じゃあ指示するからその通りに動かしてくれる・・・・・・?」
「んー・・・・・・わかったにゃ!」
詰んでしまったので、上から見ているリーフたちに合図を送る。
離れて様子を見ていると、動かしたブロックがぷるぷる震えながら元の位置へ戻り始めた。
予想通りだ。
「それじゃあお願いね、サーニャ。」
「まかせろにゃ!」
サーニャに指示を出し、その通りにブロックを動かしていく。
力はそれほど必要ではなく、3秒程もたれかかるだけでも動くようだ。
フラムがそれでコケた。
パズル自体は簡単だったため、程なくして奥の扉へと辿り着いた。
全員合流し、いざ新天地へ――
――カチャカチャッ。
「あれ・・・・・・開かない。」
「鍵穴があるわね、その扉。」
「うん・・・・・・見たときから嫌な予感はしてたけど。」
鍵穴に触手を突っ込んでみるが、やはり通常の鍵とは異なる造りだ。
鍵を見つけてこないとダメらしい。
「やっぱりあの辺りかなぁ・・・・・・。」
パズルを解くために一切関係の無かったエリア。
おそらくそちらに鍵か、何らかのヒントがあるのだろう。
「アリスちゃん、これ・・・・・・。」
ラビから手渡されたノート。
そこには上からの見取り図と、ブロックの初期位置が記されていた。
「おおっ、これがあればすごく楽だよ。ありがとう、ラビ。」
見取り図とにらめっこしながらシミュレーションを開始。
こちらも簡単なパズルのため、すぐに目当ての物が見つかりそうだ。
「・・・・・・よし、いけそうかな。ちょっと見てくるね。」
「待ちなさい、アリス。一人で行く気?」
危険が無かったとはいえ、ここは迷宮内。
単独行動は褒められたものではない。
何より皆に心配をかけさせてしまう。
「あーっと・・・・・・サーニャとフラム・・・・・・あと、お姉ちゃん。お願いできる?」
3人を連れ、先ほどは無視していたエリアへ。
サーニャに指示を出してブロックを退けていくと、上からはブロックの陰に隠れて見えなかった場所に宝箱が置かれている。
罠が仕掛けられていないのを確認して宝箱を開けると、中には1本の鍵と・・・・・・色々な惣菜パンがぎっしりと詰まっていた。
アイテムが落ちていない分を宝箱で補うようになっているらしい。
食料は有難いと言えば有難いのだが・・・・・・。
「・・・・・・パン!」
「うまそうにゃ! 食べていいにゃ!?」
「他の皆が待ってるし、後でね・・・・・・。」
鍵とパンの山を抱えて戻った俺たち。
・・・・・・って、もう皆して食ってやがる!?
いや、迷宮でも皆ちゃんと食べてるんだよ? 三食きっちり・・・・・・。
ま、まぁ・・・・・・食欲が無いよりは良いか・・・・・・。
「開けるよ、皆。」
・・・・・・聞いちゃいねえな。
鍵を差し込むと薄い光を放ちながら、鍵穴に吸い込まれるようにして消えていく。
同時にカチャンと錠の上がる音が聞こえた。
ノブを回し、扉を開く。
そこには、更に大きくなったパズル部屋があった。
この後、総数50ものパズル部屋を攻略する羽目になる事を・・・・・・俺たちはまだ知らない。
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