150話「ステータスオープン! 的な」

『ん・・・・・・戻ってきたのか・・・・・・?』


 目を開いて周囲を確認する。

 エレベーターの扉以外に何も無い壁。

 床に描かれた大きな魔法陣。


 小屋は役目を果たした為か、跡形もなく消え去っている。

 傍らには服の入った脱衣籠。入れた時と同じ状態のままだ。


『くっ、ダメだ・・・・・・起き上がれない・・・・・・ヤベェな、このフカフカ・・・・・・。』


 固い床だとかなり辛かっただろう。先人に感謝。

 じんわりと暖かいフカフカに顔を押し付ける。

 これなら裸のままでもずっと寝ていられそうだ。


『・・・・・・そういや裸だった。・・・・・・まぁいいか、もうちょい寝よ。』


 グゥウウウウ~。

 腹の虫が盛大に鳴く。

 レンシアが言っていたように魔女化に三~四日かかっているなら、その間は何も口にしていない事になる。

 そりゃ腹も減るわ。


『・・・・・・いや、我慢してもうちょっとだけ寝よう。』


 グゥウウウウ~。


『・・・・・・。』


 グゥウウウウ~。


『・・・・・・・・・・・・。』


 グゥウウウウ~。


『だああ!! やっぱ無理だ! 確か制服のポケットに携帯食が・・・・・・って、何だこれ?』


 脱衣籠の傍に置かれた物を手に取る。

 いつぞやのカップ麺だ。至れり尽くせりかよ。

 蓋の所に付箋が貼ってある。

 <腹が減ってたらコイツを食え。あと目覚めたら呼び出しボタンを押すように。>


『ボタン・・・・・・? あぁ、これか。』


 カップ麺の影になっていた所に、ファミレスなんかでよく見かける呼び出しボタンが置いてあった。

 二回ほどボタンを押し込んでから、カップ麺の蓋を開ける。

 粉末スープの香りに刺激され、腹の虫が騒ぐ。


『あ、お湯・・・・・・・・・・・・は魔法で作れば良いか。』


 お湯を注いで蓋を閉め、丁度良い大きさだった呼び出しボタンを上に乗せる。


『三分・・・・・・三分か・・・・・・くそっ、長い・・・・・・!』


 そう思うと余計に腹が減ってくる。

 携帯食に手を出してもいいが、後で必要になった時に困るしな・・・・・・。


『よし、フカフカだ・・・・・・フカフカで気を紛らわせよう!』


 もう一度、ダイブする様にフカフカに顔を埋めた。


*****


『おい、起きろよ、アリス!』

『ん・・・・・・? ・・・・・・・・・・・・ハッ! ラーメンは!?』


『・・・・・・しっかり食い終わってるじゃねえか。』


 そういやそうだった。

 食ってからまた横になったんだった。


『てか、まだ服も着てねえし・・・・・・。』

『あぁ、悪い。ちょっと待っててくれ。』


 脱衣籠に突っ込んだまんまの制服を引っ張り出し、袖を通していく。


『そういや神サマに会ったぜ。魔女になった奴はみんな会ってるのか?』

『あっちで目覚めた奴はな。目覚めなかったらそのまま送り返されるらしい。』


『・・・・・・なるほど。それで、何でひょっとこ?』

『オレの時はマーブル的なチョコの眼鏡の形したやつだったよ。』


『・・・・・・そうか。』

『しかも何でか一個だけ食べた状態だったんだよ!』


『なんかスマン・・・・・・。』


 まぁ、話も聞けたし運が良かったという事にしておこう。

 着替え終わり、最後に髪を纏めて完成。


『さて、身体に異常は無いか?』


 手を握ったり開いたり、足を伸ばしてみたり首を回してみたり。

 痛みは無く、特に違和感も無い。


『うん・・・・・・今のところは大丈夫そう。』

『しばらくは様子見だな。それと、コイツは返しておくぜ。』


 レンシアからギルド証を受け取る。


『・・・・・・色が変わってる?』


 ギルド証として使われている魔晶石の色が濃い赤色に変わっている。


『魔女専用の色だ。この目と同じな。』

『そういや、瞳が赤くなるんだっけ。俺のも変わってるのか?』


『あぁ、しっかりな。・・・・・・ほれ。』


 向けられた手鏡を覗くと、レンシアと同じ色の瞳をした自分の顔が写っていた。


『結構印象が変わるんだな。』

『すぐに慣れるさ。それより、新しいギルド証の使い方を説明しておく。』


『何か機能が増えてるのか?』

『見れば分かる。起動語は”ゲームメニュー”だ。』


『”ゲームメニュー”・・・・・・おおっ!』


 起動語を唱えた瞬間、目の前にどこかのネトゲで見たようなUIがパッと浮かんできた。

 視界の上の方には[Status]とか[Item]とか書かれたボタンがズラリ。

 下方には自分のHPや状態情報らしき表示。


 これが・・・・・・これが噂のVRMMOってやつか!!


『そのメニューは使用者にしか見えない。操作は初期設定ならタッチで出来る。目線とか脳波にも変更できるけど・・・・・・そっちは慣れが必要だな。』

『ほうほう・・・・・・って、俺のHPが1しかないんだけど!?』


 死に掛けじゃねーか!


『生きてるか死んでるか位の判定しか出来ないからな。心電図表示に変えればもうちょっと細かく見られるぞ。』

『・・・・・・MPが文字化けしてるのは?』


『その表示は仕様。オレらの魔力はチートみたいなものだし。』

『・・・・・・なるほど。』


 なんか最初の感動が一気に冷めてきた。


『一応聞いておくけど、レベルは? 1になってるけど・・・・・・。』

『メニューを起動した状態で魔物を倒すと経験値が貯まる。一定値貯めればレベルアップだ。』


『レベルが上がるどうなる?』

『知らんのか。ファンファーレが鳴る。あ、でも鬱陶しいって苦情が多かったからデフォルトOFFだけど。』


 戦闘中にそんなもん鳴ったら下手すりゃ命に係わるし、当然と言えば当然だろう。


『・・・・・・強くなったりは?』

『する訳ないじゃん。ゲームじゃないんだし。』


『デスヨネー。』


 残念機能しか付いてないのか・・・・・・コレ。

 とりあえず[Status]と書かれたボタンをタッチしてみると、ゲームでお馴染みの項目が並んだ画面が表示された。

 のだが・・・・・・。


『ステータスの項目、どれも値が空白なんだけど・・・・・・。』

『そこは体力測定とかして自分で入力するんだよ。今からやるか? 結構時間掛かるけど。』


『いや、今度で良い・・・・・・。』


 次は[Skill]の画面を表示させてみる。

 が、取得スキル一覧には何も載っていない。代わりに入力フォームがある。


『スキルのページはどうなってるんだ?』

『アイコンとスキル名、説明文とかを入力して追加ボタンを押せば一覧に登録される。アイコンは申請すれば新しいのを作ってもらえるぞ。』


 まさかの自己申告制かよ!?

 自分で自分のスキルの説明文書くとか、悲し過ぎるだろ・・・・・・そんなの。


『まぁ、その辺はネタ機能だからそんなに落胆するな。例えばアイテムのインベントリなんかは役に立つぞ?』


 言われて[Item]のボタンをタッチする。

 出てきたのは四角い箱状の半透明の空間が二つ。

 どちらもボーリングの球がピッタリ収まりそうな大きさだ。

 その内一つには錠のアイコンが付いている。


『この箱は?』

『どこでも使えるロッカーみたいな感じだよ。箱の大きさまでなら何でも入れられる。』


 たまにレンシアが何処からともなく物を取り出したりしてたのはコイツを使ってたのか。


『それは便利そうだな。鍵の付いてる方は?』

『課金すれば使えるようになる。』


『課金制か・・・・・・。』

『アイテム枠で課金は常套手段だしな。けど、その価値は十分あると思うぜ?』


『ちなみに一枠いくら?』

『金貨一枚。』


『たっか!』

『でも劣化性能とはいえ、ネコ型ロボットのポケットみたいなもんだからな。』


 そう言われると安いような気もする。

 試しに鍵の掛かった箱に触れてみると、『解除には金貨一枚必要です。』みたいな説明のメッセージウィンドウが表示された。

 メッセージウィンドウの下部には『コイン投入口』と書かれたスリットが空いている。

 ここにお金を入れれば良いらしい。


 財布から金貨を取り出して投入すると、箱に表示されていた鍵のアイコンがスゥっと消えた。

 これで使えるようになったようだ。そして、その隣に新しい鍵の付いた箱が現れた。

 まだ増やせるらしい。


『これ何枠までいけるの?』

『いくらでも。必要になれば買い足せば良いよ。増やし過ぎたら管理が面倒だけど。』


 レンシアの言葉を耳に入れながら、インベントリの設定項目を目で追っていく。

 箱は総体積が変わらなければ、くっつけたり分割したりもできるようだ。

 キチンと整理して使えばかなり役立つだろう。


 他にも温度調整などの項目が並んでいるが、その殆どがロックされている。

 やはり解除にはお金が必要らしい。


『課金要素が多いな。』

『研究費とかマンションの維持費に冒険者ギルドの管理費やら、色々使われるから全く残らないけどね。』


『そうなのか・・・・・・。』


 俺が思っているよりも魔女たちの懐事情はよろしくないのかもしれない。


『あと主な使える機能はWikiとチャット、バザーくらいかな。』


 [Wiki]のボタンに触れると、魔女Wikiと書かれたページが表示された。

 この世界の歴史から、各街や村の地図と商店評価、魔法一覧、料理のレシピなど多岐に渡る情報が載せられている。

 適当に目を通すだけでもかなりの時間が必要そうだ。


 読むのは次の機会し、今度は[Chat]のページを開いてみる。

 全体チャットのウィンドウにログが流れ出す。


『テキストチャットか。随分シンプルだな。』

『軽さを追求するとそうなったらしい。』


 それでも個人チャットやグループチャットなんかの最低限の機能は備わっているため、特に困る事は無さそうだ。

 ポンとお知らせのアイコンが灯る。


『フレ申請しておいた。寝てる時以外は立ち上げっ放しでオンラインになってると思うから、何かあればチャットをくれればいい。』

『了解。』


 レンシアの申請を承諾してから、次の[Shop]ボタンにタッチする。

 新しいページが開き、出品されている商品の一覧が表示された。

 新着で登録された商品からズラリと表示されている。


『みんな色々出品してるんだな。・・・・・・使用済みパンツって防具カテゴリなんだ。』

『・・・・・・言うな。』


 ほぼノリで出品してやがるな、コレは。

 商品リストをスクロールさせていると、ある物に目が止まる。


『何この・・・・・・鉄の棒+9999とかいうの。』


 どう見ても鉄パイプなんですけど。


『あぁ、迷宮産の武器だな。強化できるの知らなかったのか?』

『知ってるけど・・・・・・こんなに強化値いくの?』


『+10万までは試したって聞いた事がある。+3000くらいまで鍛えれば全モンスワンパンだから、それ以上は自己満だけど。』


 迷宮産武器で検索してみると、強化値3000の物が多い。次点で9999。この辺は気分の問題だろう。


『しかし随分安いな。+3000の一番安いので銀貨10枚じゃねえか・・・・・・。』

『やろうと思えばいくらでも作れるしな。手間は掛かるけど。それに加えて、今は迷宮行く奴も少ない。』


 一本持ってれば良いんだから、そりゃあ供給過多にもなるか。


『でもそれだけ鍛えようと思ったら何回も潜らないといけないんじゃ・・・・・・。』

『運が良けりゃ一回だ。採掘スポットにさえ行ければ良いからな。』


『一回で? どうやるんだ? 荷車使ってもそんなに持てないぞ。』

『インベントリを四次元化して採掘した鉱石をブッ込むだけだ。』


『四次元化・・・・・・って設定にあったやつか。いくらでも入るの?』

『あぁ、ただ中身が見られなくなるから普段使いには向いてない。小さく分割してそれだけ四次元化するのがお勧めだ。詳しい事はWikiの迷宮攻略ページ参照な。』


 攻略ページ・・・・・・当然あるわな。

 ネタバレを防ぐために今は見ない事にしよう。


『このギルド証ってロストしたらどうなるんだ?』


 レンシアの言った方法で迷宮産武器を鍛えるなら、このギルド証を持ち込まなければならない。

 となると、当然ロストするリスクも発生する。


『再発行は金貨一枚。アンロックした機能は全て初期化で復旧措置は無し。ポンポン失くされても困るしな。』


 元の状態に戻そうと思えば、また同じだけ課金しないといけないのか・・・・・・。肝とサイフが一気に冷えそうだ。

 皆と一緒に行く分には持ち込む必要も無いだろうけど。


『さて、少々脱線しちまったが、主な機能はそんなもんだ。あとは注意事項。』

『何だ?』


『使用中は常時魔力を消費するから、転生者以外には使わせないように。オレらは年中無休で使用してても問題ないけど、普通の人間ならすぐに魔力が枯渇するぞ。』

『・・・・・・気を付けるよ。』


 そもそもプライベートな物だから貸し借りはしないだろうけど、悪戯なんかには注意したほうが良さそうだ。


『こんなもんかな。他に何かあるか?』

『・・・・・・そういや、俺が寝てからどれくらい経ってる?』


『四日後の深夜。予定通りだな。』

『ちょうど見学会が終わったところか。・・・・・・魔道具科はどうだった?』


『さ、今日はもう休むと良い。部屋も用意してあるからな。』

『・・・・・・ゼロか。』


 しかし、随分準備が良いな。

 それだけ手馴れてるって事か。


『分かった。そうさせてもらうよ。』

『じゃ、案内するからついて来てくれ。』


 俺とレンシアはエレベーターに乗り込み、がらんどうになったその場を後にした。

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