64話「赤と緑のまだら模様」
ゴロリ、とカウンターにいくつかの鉱石を並べた。
いずれも迷宮で手に入れ、荷車に積んであった物である。
それを持って俺達は鍛冶屋へやって来たというわけだ。
「これで何か作れますか?」
「コイツヲ見ロ!」
鍛冶屋のゴブリンに問いかけると、ある冊子を渡された。
ページを開くと中は一覧になっており、品物のスペックや必要材料等が小さな写真付きで書かれている。
「じゃあ・・・・・・これで鉄のナイフを。」
試しに鉄鉱石一つとお金を渡し、一番簡単そうな鍛冶を依頼してみる。
「マカセロ!」
材料を受け取ったゴブリンは駆け足で奥にある作業場へと入っていった。
奥からカン、カン、カン、ジューーーという音が聞こえ、一分もしない内戻って来たゴブリンの手には一本のナイフが握られていた。
「デキタゾ!」
出来上がったナイフを受け取る。
どう見ても普通のナイフだ。
怪訝そうな顔でヒノカが耳打ちしてくる。
「随分早かったが・・・・・・大丈夫なのか、それは?」
「うん・・・・・・見たところ普通のナイフ・・・・・・だと思うけど。」
まぁ、実際なら数時間や数日かかる作業なのだろうが、こんな所で待っていられないしな。
ナイフをヒノカに手渡すと、しげしげと眺め始める。
「確かに・・・・・・素人目ではあるが、問題は無い・・・・・・ようだな。」
ナイフを預けたまま冊子のページを捲っていくと、覗き込んでいたニーナが「あっ」と声を上げた。
「なにこれ!ずっとお腹いっぱいになるって書いてるよ!」
「ど、どれにゃ!?」
「みせて!」
食いしん坊達がワラワラと寄ってくる。
まんぷくサークレット。防御+5。装着中は満腹中枢が刺激され、常に満腹感を味わえる。
・・・・・・らしい。
防御って意味あるんだろうか。
「あ、これ昔から危険物指定されてるから、持って帰っても売れないよ。見つかったら没収されちゃうかも。」
ラビの言葉に絶望の色を見せながら詰め寄るサーニャ達。
「どうしてにゃ!?」
「な、なんか昔に餓死者がたくさん出たんだって。」
その説明にリーフが首を傾げた。
「餓死・・・・・・?書いている事とは逆のようだけど。」
「そ、それは私にも・・・・・・。呪い・・・・・・とか?」
リーフとラビが俺の方へ視線を向けてくる。
「うーん、多分だけど・・・・・・コレを付けても空腹を感じないだけなんじゃないかな。」
「ぅぅ~~~、あちしに分かるように説明するにゃ!」
また無理難題を。
「ん~・・・・・・お腹減ったらご飯を食べるよね?」
「そんなのあたりまえにゃ!」
「じゃあ逆に、お腹いっぱいの時にご飯を食べたいと思う?」
「おなかいっぱいなら・・・・・・・・・・・・いらないにゃ!」
なんだその間は。
「お腹が減るっていうのは、サーニャの身体がご飯が必要だよって合図を出してる事なんだ。」
「あちしの身体・・・・・・凄いにゃ!」
「でもコレを付けてる間は、どんなにお腹が減ってても「お腹いっぱいだよ」って合図を出し続けるようになっちゃうんだよ。」
「それの何がいけないにゃ?」
「ご飯を食べないと死んじゃうよね?」
「それはそうだにゃ!」
「本当はご飯を食べなきゃいけないのに、ずっとお腹いっぱいだったら食べられないでしょ?」
「ご飯食べられないにゃ!?・・・・・・お、恐ろしいにゃ!こんなのは作っちゃダメだにゃ!!」
何かちょっとズレている気もするが、本人が納得してるなら良いか。
ともあれ、こんな物を拾って付けたら呪われてて外せない、なんて事態になったら悲惨だ。
毎食、最初からクライマックスの大食い大会の様になることだろう。
危険物指定されているのも頷ける。
迂闊に触らないように気を付けなければ。
まぁ、とは言っても闇で流されたりはしていそうだな。
それこそ、使い捨ての奴隷にでも付けておけば食事を与えなくても良いのだから。
すぐガタが来て死ぬだろうけれど。
「この冊子貰って良いですか?」
「イイゾ、持ッテケ!」
「そんな物、どうするのだ?」
「宿に戻ってからじっくり考えようと思って。ここじゃゆっくり出来ないしね。」
「ふむ、だがさっきの話を聞いた限りでは碌な物が無さそうだが・・・・・・。」
「まぁ、その時はその時だよ。」
俺達は鍛冶屋を後にし、今度は合成屋へとやって来た。
去年は合成に使えそうな物が無かったのでこの店はスルーしていたが、今回はいくつか使えそうな物を拾っているのだ。
中に入ってカウンター越しに店員のゴブリンに話しかけた。
「合成をお願いしたいんですけど。」
「ワカッタ、コッチニ来ナ!」
店員に案内され、店の奥にある扉をくぐる。
そこにあったのは・・・・・・そう、マシンだ。
大きな筒型の機械が二本、更に大きな筒型の機械に繋がれている。
「使イ方ハソコニ書イテアル!好キニ使イナ!」
店員が指した壁には説明が書かれた紙が貼られていた。
小さい方の筒二本に合成元になる素材と合成する素材を入れ、お金を投入してレバーを引くと大きい方の筒に合成されたアイテムが出てくるらしい。
ハエ人間でも作れそうだ。
「ラビ、去年のナイフ持ってるよね?ちょっと貸して欲しいんだけど。」
「うん、いいよ。・・・・・・はい、これ。」
礼を言って受け取ったナイフを合成元となる筒へ入れると、筒に付いているモニタに入れたナイフの情報が表示された。
鉄のナイフ+2。攻撃3(+2)。鉄製のナイフ。
今度はもう片方の筒へ先程作ったナイフを入れた。
鉄のナイフ。攻撃3。鉄製のナイフ。
二本の筒にアイテムを入れた事により、大きな筒のモニタに合成後のアイテム情報が表示される。
鉄のナイフ+3。攻撃3(+3)。鉄製のナイフ。
要するに強化値が+1されて攻撃力が増えるらしい。
これ・・・・・・意味あるのか?
まぁ、物は試しである。
大きな筒にあるスリットにお金を投入し、その隣のレバーを引いた。
バチバチッと一瞬プラズマが迸り、大きな筒からチーンと音が響く。
どうやら出来上がったようだ。
大きな筒を開くとモワっと煙が広がり、中にはナイフが一本転がっていた。
「どうなったの・・・・・・?」
「ちょっとだけ強くなった・・・・・・筈。」
「そうなの?何も変わってない感じがするけど・・・・・・。」
「微々たるものだろうしね。もう少し試してみるよ。」
で、色々合成してみた結果出来上がったのが鉄のナイフ+9。
更にモニタには特殊効果が付与されたことが表示されている。
【掘削】―――鶴嘴に付いていた特殊効果だ。
岩を掘ったり出来たのもこれのお陰か。
きっとこのナイフでも掘れるようになっている筈だ。・・・・・・壊れないと良いけど。
まぁ、今まで使ってきた鶴嘴は壊れていないので、きっと大丈夫だろう。
おまけで出来たもう一つ。
武器は武器、防具は防具としか合成出来なかったため、残っていた防具を全部合成した物だ。
鉄の籠手+5。【軽量化】。
なるほど、持ってみると確かに軽くなっている。
最初と比べると、半分ほどの重量だ。
だが、それ以上に問題点がある。
「ヒノカ・・・・・・これ使える?」
受け取ったヒノカは籠手をはめてみるが・・・・・・。
「ダメだな、大きすぎる。これなら無い方が動き易くて良い。」
「だよねぇ・・・・・・。」
サイズの合う者がいないのだ。
調整用のベルトを締めれば女性でも扱えるのだが、さすがに子供の身体には合わない。
ヒノカやリーフが使うにも、もう少しの時間が必要だろう。
「仕方ないね、キシドーに着けておこう。」
鎧の上に鎧を着けるとかよく分からないことになってしまったが、腐らせておくよりは良い。
売っても良かったのだが、それは少し勿体無い気がしたのだ。
「次はこれを合成してみよう。」
ボロい鞄から二本の瓶を取り出してそれぞれの筒へセットすると、合成結果が表示される。
どうやら可能なようだ。
「それは・・・・・・傷薬と解毒薬かしら?」
「うん、一つに出来ないかなと思って。」
傷薬【解毒】。
モニタに表示されている合成結果だ。
傷薬に解毒の効果が付いたという、そのままの意味だろう。
合成すると一本の瓶が出来上がる。
大きさも重さも中の量も変わっていない。
どちらかの効果しか必要ない時に使うのは少し勿体無いが、二本持ち歩く手間を省けるのだ。
ただ、傷薬の赤色と解毒薬の緑色がまだら模様を作り、あまり使いたくない感じに仕上がっている。
「ねぇ・・・・・・大丈夫なの、それ?」
「・・・・・・多分。皆の分はどうする?」
俺の言葉にそれぞれの鞄から二本の瓶を取り出し、完成品と睨めっこを始めた。
気味が悪くて軽い方を選ぶかを真剣に迷っているのだ。
まぁ、確かに毒にしか見えないが・・・・・・。
結局、皆は軽い方を選択し、モノを見ないようにして鞄に納めたのだった。
*****
翌日。
俺達は再び鍛冶屋へと訪れていた。
今日の内に持っている鉱石類を処分してしまうつもりなのだ。
カウンターに水晶、金、銀の鉱石を並べる。
「これでセイントナイフをお願いします。」
今持っている材料で作れる一番良い武器である。聖なる力が宿っているらしい。
長剣なども作れたが、持ち運びが楽なナイフを選択。
これを元にして合成強化を行うのだ。
それを人数分。
強化するのはラビの持つ一本だけだが、残りは副武器として使う。
全員に行き渡ったのを確認し、残った水晶で指輪を作った。
これは着けていると魔力が上がるらしい。
効果が如何ほどかは分からないが、換金率が良いのだ。
製作費を差し引いても鉱石のままより高く売れる。
それに、この指輪なら持ち帰って売ることも出来るだろう。
更に余っていた鉱石でナイフを作る。
鉄やら銀やらのナイフが十数本。これで鉱石は全て売り切れた。
鍛冶が終われば今度は合成だ。
合成屋に入り勝手知ったるで合成マシンの前に陣取る。
先程作ったセイントナイフを合成元の筒に入れ、ラビの持っている鉄のナイフを材料側に入れた。
セイントナイフ+9。攻撃20(+9)。【聖属性】【掘削】。
更に材料側に余った鉱石で作ったナイフを入れていく。
材料側には複数個の素材を入れる事ができ、合成料は据え置きでお得なのだ。
一本追加するたびに強化値が増え、最終的にセイントナイフ+24となった。
出来上がった物をラビに渡し、他の仲間達に声を掛ける。
「えーっと、ヒノカとニーナとお姉ちゃん、あとサーニャもさっきのナイフ貸して。」
「どうするのだ?」
「これを合成させるんだよ。」
ナイフを合成元側へ、余っている鶴嘴を材料側へ放り込む。
セイントナイフ+1。攻撃20(+1)。【聖属性】【掘削】。
これで嵩張る鶴嘴を持ち歩く必要がなくなるのだ。
残していた4本の鶴嘴をそれぞれのナイフに合成し、持ち主へ返した。
こうして便利な機能を持つ武器を合成していけば、今後の攻略も楽になるだろう。
荷物が重いと大変なんだよね。
その思考に答えるように、すっかり軽くなった荷車の車輪はカタカタと軽快に回るのだった。
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