19話「WANTED」
レンシアの街へ辿り着いた頃には既に陽は傾き、夕焼け色になっていた。
夕日に照らされた街並みは少し懐かしい感じがする。
「や、やっと着いたー・・・。」
ギルドの中は戻ってきた冒険者や学生たちで溢れているのが扉の外からでも分かる。
「では、報告を済ませてしまいましょうか。それから皆でお風呂と食事に行きませんか?」
「そうですね、すぐに終わると良いのですが・・・。」
中に入ると、思った通り人でごった返していた。
学生用の窓口は長蛇の列。俺達と同じ様に戻ってきた人達だろう。
冒険者用の窓口は学生用に比べると少ない。
まぁ、普通の冒険者に学校は関係無いからな。
レーゼ達と別れて冒険者用の窓口に並んだ。
「嬢ちゃん達、並ぶ所間違ってねえか?」
すぐ後ろに並んだパーティの冒険者に声を掛けられる。
「いえ、大丈夫ですよ。」
そう言ってギルド証を見せる。
「ああ、悪ぃな。間違えて並ぶ奴が多いからよ。」
「いえいえ、心配してくれてありがとうございます。」
更にそのパーティの別の冒険者が声を掛けてくる。
「おい、お前【心斬の】じゃねえか?」
【心斬の】とは俺が冒険者になった頃に不本意ながら付けられた二つ名である。
声を掛けて来た冒険者には確かに見覚えがある、というか一度見たら忘れられない大男だ。
何度かパーティを組んだ事がある。
「あれ・・・、デック?」
「なんだ、この嬢ちゃんと知り合いなのか?」
「おうよ、セイランに居た頃はこいつの父親と一緒に何度か組んだ事がある。変な兜被ってやがるから気付かなかったぜ。」
「久しぶり、これは今日の仕事の戦利品で、嵩張るから被ってたんだよ。」
兜を脱いで脇に抱える。
「久しぶりだな、見ない内にデカく・・・いや、ちっこいまんまだな!ガハハハッ!」
彼から見れば大抵がちっこい奴だ。
しかし、デックの活動場所はこの辺りではなかった筈だが・・・。
「どうしてこんな所まで来てるの?」
「あ、あぁ・・・、それはな・・・・・・深~~~~~い理由があんだよ。」
「コイツ、馬車乗り間違えて今は帰りの馬車代稼いでるんだよ。ギャハハハ!」
「あ、おいテメエ!」
しょうもない理由だった。
冒険者と言っても、それこそピンからキリまでいる。
デックは腕は立つが、頭がよろしくないタイプだ。
まぁ、それが多数派なのだが。
「デックなら馬車代くらい、すぐ稼げるんじゃないの?」
「当たり前だろ、もうとっくに稼いでるぜ。折角来たんだから楽しんでるって訳だ。ここは飯も美味いしな。お前こそ、どうしてこんな所にいるんだ?【土剣屋】はどうした。」
【土剣屋】とは俺の父親、エルクに付けられた二つ名だ。
折れてしまった剣の代わりに俺の作った土の剣を使っているうち、いつの間にかそう決められていたらしい。
「私はお姉ちゃんと魔術学院に通うために来てるだけで、お父さんはこっちには来てないよ。」
「本当かよ、アイツそんな稼いでやがったのか。戻ったら鱈腹奢って貰わねえとな。」
「あー・・・学費は私のお金だからそれは無理だと思うよ。」
「ホントかよ!?・・・・・・いや、お前ならやりそうだな、ったく。それなら、お前に奢って貰えば良いか。」
「・・・子供に集らないでよ。」
「いやいや、子供である前に立派な冒険者様だろうが。」
「いつも子供扱いしてた癖に。」
「そうだったか?ガハハハッ!まぁ、向こうへ戻る時には言伝なりあればその時に聞いてやるぜ。格安でな。」
「ちゃんと戻れるの?」
「当たり前だろうが、同じ失敗は三度くらいしかしねえよ!多分な!」
「・・・三回くらいは失敗するんだ。」
ようやく受付の順番が回ってきた。
デック達との会話を終え、完了の手続きを行う。
帰り道にもヴォルフやゴブリンを倒しているので数は問題無い。
「え・・・と、失礼ですがこの黒い耳は?形はオークの様ですが・・・。」
あの黒いオークの耳だ。
「ええ、そうですね。黒い大きめのオークでした。」
「しょ、少々お待ち下さい!」
職員が慌ててギルドの奥に消えた。
首を傾げて待っていると、職員の代わりにドリーグが出てくる。
俺の顔を見るや、呆れたような顔で口を開いた。
「またお前か。」
「そっちこそ、実はギルド職員なの?」
「俺もそうなんじゃないかと思ってるよ。書類仕事を出来る奴もやりたがる奴もいねぇんだ。それで、お前らがこいつを倒したんだな?」
ドリーグが黒いオークの耳を摘まんで見せる。
「うん、採取に向かう途中で。」
「分かった、詳しい話を聞きたい。こっちへ来てくれ。」
付いてこいとギルドの奥へ進むドリーグ。
「ちょっと待って、他のパーティも一緒だったんだけど、そっちは?」
「此処にいるのか?」
「向こうで並んでるよ。」
学生用の受付に並ぶ列を指差す。
「ふむ・・・、受付の方は何とかするから呼んで来てくれ。」
「それじゃ呼んで来るよ。」
*****
マルネ達との合流後、ドリーグにギルドの奥の部屋へと通された。
部屋は広い会議室で、席に着くよう促される。
「面倒をかけてすまねえな。とりあえず黒いのに遭った場所と状況を説明してくれるか。」
レーゼ名乗りを上げ、これまでの状況を簡単に説明する。
「ハハッ、こいつらが護衛か。そりゃ頼もしいな。」
「ええ、本当に。」
説明が終わったのを見計らい、ドリーグに問う。
「それで、あの黒いのがどうかしたの?」
「あぁ、そいつは特別討伐対象だったんだよ。」
要は指名手配というやつだ。
倒せばボーナスが出る。
「そんな情報出てたっけ?」
「いや・・・、正確にはまだ決定前の段階だったんだよ。」
となれば・・・、ボーナスは無しか。
「なんだ、それなら別にこんな話聞かなくても・・・。」
「一応確認は、な。倒されたヤツの手配書なんか貼ってたら間抜けだろ?その逆もな。」
「まぁ、それもそうか。」
「それに、情報を持ってきたパーティから聞いて、その黒いのを狙ってた奴らも居るだろうしな。」
「なるほど、それで確認はもう大丈夫?」
「そうだな・・・、その兜はどうした?」
ドリーグが俺の持っている兜を指さす。
「黒いのが使ってたんだよ。ちょっと研究に使おうと思って持って帰ってきた。」
「・・・そうか、以上だ。」
「この兜がどうかしたの?」
「情報を持ってきたパーティの何人かが戻らなくてな。その内の一人が身に着けてた物だ。」
遺品、というわけか。
「じゃあこれ返した方が・・・。」
「いや、そいつはもうお前の物だ。取り上げたりはしねえよ。何に使うつもりかは分からんが、その方がアイツも納得するだろう。」
「分かったよ。」
コンコン、と会議室内にノックの音が響く。
全員の視線が扉に集中するとガチャリ、と音を立てて開かれた。
入って来たのはギルドの制服を来たクールそうな女性職員と温和そうなお爺さんだ。
女性職員が頭を下げて口を開く。
「失礼します。」
ドリーグがお爺さんに向かって手を上げ、軽い挨拶を交わす。
「よぉ、どうしたんだ、ジイさん?」
「黒いオークを倒した可愛い勇者がいると聞いてな。見に来たんじゃよ。ふむふむ・・・、確かにめんこい子らじゃのう。」
ジイさんがマルネ達をジロジロと眺める。
特にレーゼの胸辺りを。
「あ、あのー・・・、私達は護衛をして貰っただけで、倒したのはあの子達ですよ。」
「それは・・・真か?」
「一番ちっこいのがこの間ランクCに合格した奴だよ。」
「ほうほうほう、この子がそうかい。」
ズイっとこちらに寄って来る。
「ど、どうも・・・。」
「とてもそんな風には見えんがのう。」
「俺にだって見えねえよ。邪魔しに来たんなら出てってくれ、ジイさん。」
「つれない奴じゃのお。ホレ、あれを渡してやってくれ。」
ジイさんが職員に目配せすると、職員から袋を手渡される。
中には銀貨が20枚入っていた。
「あの・・・これは?」
「賞金じゃ、特別討伐対象のな。」
「でも、依頼はまだだったのでは?」
「確かに手配前じゃったが、本来ならその倍以上になっとったんじゃないかの。こちらとしてはその分経費が浮いとる訳じゃから、気にするでない。倒したのも事実なのじゃろ?」
「それは俺が保証するぜ。」
「分かりました、有難く頂いておきます。」
「そうじゃそうじゃ、遠慮などせんでええ。それじゃワシは戻るぞい。」
カカカと笑いながら部屋を出ていく。
職員のお姉さんも一礼し、ジイさんの後を追って出ていく。
「今の人は・・・?」
「このギルドで一番偉いジジイだ。俺のジイさんでもある。だからこんな所で扱き使われてんのさ。」
ドリーグも大変なようだ。
「ま、とりあえず俺の用事は終わりだ。後はお前らの依頼を片付けねえとな。依頼書をよこしな。」
俺とレーゼがそれぞれの依頼書をドリーグに手渡す。
「魔物討伐の方は問題ねえだろ。こっちの採取物はどうなってる?」
「は、はい、こちらに。」
レーゼ達が机の上に採取した物を並べ、ドリーグが確認する。
「こっちも大丈夫そうだな。少しここで待ってろ。」
ドリーグが依頼書と納品物を抱えて部屋から出ていく。
ホッと緊張が解け、マルネ達が口を開く。
「き、緊張しました・・・。」
「な、なんだか凄い事になっちゃったね。」
「もうミゼルお腹ぺこぺこ~。」
「そうだね、報告が終わればゆっくりするか。」
少し時間が掛かりそうなので、今の内に報酬を分ける事にする。
袋から銀貨を2枚ずつ取り出し、マルネ達も含めた全員に配る。
「後は報酬の1枚かな、銅貨に換えて貰おうか。」
「それはアリスに預けておいて、必要な消耗品や食材のお金はそこから出すようにしましょう。今回の準備も殆どがアリス任せだったし、一番適任だと思うわ。」
「ふむ、確かにそうだな。皆が慣れるまではそれで良いんじゃないか。」
「ボクもそれでいいよ。」
「わたしも。」
「わ、私・・・も、それで・・・。」
「私は構わないけど・・・でも結構大金だよ?本当に良いの?」
「今回のお金だって貴女が負担してるじゃない。私達から集めた分だけじゃ、あれだけ揃えるのは無理だと思うのだけれど。」
確かにちょっと奮発して良い装備を揃えたのは事実だが・・・よく分かるな。
まだ貯金がかなりあるので特に問題は無いのだが。
「良い物は丈夫で長持ちするしね。迷ったら良い方を買えとお父さんも言ってたし。」
「それで、私達の装備はいくらくらいだったのかしら?」
「んー・・・一人銀貨10枚くらいかな。」
「じゅっ・・・はぁ!?」
ちょっと本格的なキャンプ用品や登山装備みたいな感じだ。
そんなに驚く程ではないと思うが。
「少し・・・いえ、かなり金銭感覚がおかしい気がするのだけれど・・・。」
「安い装備だと遠征中に壊れたりする確率だって高くなるからね。ある程度は良いのを使った方が良いんだよ。」
「そうは言っても・・・最初に集めたお金じゃ銀貨5枚にも満たないわよ?」
「差額を請求したりはしないから、安心してよ。それに長く使うものも多いし、次からはそんなに掛からないから。」
「はぁ・・・もう、分かったわ。」
そう言ってリーフは銀貨を1枚袋に戻す。
「リーフ・・・?」
「み、皆のために使うお金なのだったら私だって・・・そ、その・・・少しは協力したいわ。」
皆が袋に銀貨を入れていく。
「って、全部は止めなさいフラム。」
2枚全部を入れようとしたフラムの手をリーフが止めた。
「でも・・・わ、私は何も・・・。」
「貴女だって役割は果たしたんだから、ね。」
フラムの手から1枚だけ抜き取り袋へ入れ、残りはフラムに握らせる。
「折角なのだし、貴女の好きな事に使えば良いと思うわ。」
「す、好きな・・・事・・・?」
「そうよ、何か無いの?欲しい装飾品とか。」
「と、特には・・・。」
「うーん、それじゃあこんなのはどうかしら。」
ゴニョゴニョとフラムに耳打ちする。
「う、うん・・・そう、する・・・。」
「ふふっ、頑張ってね。」
*****
しばしの時が経ち、ドリーグが部屋へと戻ってきた。
「待たせちまったな。」
俺とレーゼに報酬が手渡される。
「こっちが魔物討伐の報酬、そんでこっちが採取依頼の報酬だ。」
「ありがとう、ドリーグ。」
「ありがとうございます。」
それぞれの依頼完了の手続きを終え、会議室を出る。
「長々と悪かったな、助かったぜ。」
ドリーグの言葉にレーゼと俺とで応えた。
「いえ、こちらこそ助かりました。まだ並んでいたでしょうから。」
「それじゃあまた、ドリーグ。」
「おう、次に会うのはランク試験か?ハハハ!」
「考えとくよ。」
ドリーグに別れを済ませ、俺達はギルドを後にした。
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