15話「先輩とおしごと」

 依頼書をドリーグから取り戻した俺は、カフェスペースの席に着いた。

 ため息を吐いた俺にヒノカが声を掛けてくる。


「大変だったみたいだな。」

「うん、稼ぎはその分良かったけどね。」


 巻き上げた金品をテーブルの上に並べていく。


 財布の中には銀貨30枚ほど。

 彼の持っていた剣や短剣も柄や鞘に宝石が使われたりと、結構値打ちが高そうだ。

 貴族か、それに近い人間だったのだろうか。


 思った以上の収穫にリーフが少し怯む。


「でも・・・金品を奪ったりして良かったのかしら?」

「決闘を仕掛けて来たのは向こうだしね。それに奪ったのは私じゃないし。」


「ドリーグさん・・・だったかしら?」

「うん、私達の試験官をしてくれた冒険者の人だよ。要は命の代わりにお金で手打ち、ってことでしょ。」


「でもアリスは命まで奪う気は無かったんでしょう?」

「どうだろ・・・。でも、元通りにくっつく事は無かったかもね。」


「どういう事かしら?」

「最後に撃とうとした魔法に投げ付けるつもりだったから。火の魔法だったらこんがり焼けちゃってたね。」


「ぅ・・・。」


 想像したのかリーフが顔をしかめる。


「だからドリーグが止めたんだろうけど。」

「まぁ、高い授業料になってしまったという訳だな。」


「学院よりは安いよ。」

「ふっ・・・、確かにそうだな。」


 俺とヒノカのやりとりに、今度はリーフがため息を零した。


「ふぅ・・・まぁ、いいわ。それで、フィーが連れて来たこちらの先輩は・・・?」

「えーっと、さっきの人に絡まれた時に声を掛けてくれたんだけど・・・巻き込まれ損、・・・的な?」


「あぅ、酷くない!?でも・・・その通りかも・・・、はぁ。」

「私もいきなり斬りつけてくるとは思わなくて。咄嗟に腕を引いたんですけど、本当に怪我はないですか?」


「うん、ありがとう。あなたが助けてくれなかったら大怪我してたと思う。そうだ、自己紹介がまだだったね。私はマルネリッタ。三年で十五歳よ。マルネって呼んでね。」

「私は一年のアリューシャです。それからパーティメンバーの―――。」


 各々が自己紹介を終え、リーフが首を傾げながら俺に問う。


「それで、どうして決闘なんてことになったのかしら?」

「私が持ってた依頼書を渡せって絡んできたんだよね。」


 件の依頼書をテーブルに広げた。

 内容を読んだヒノカが当然の疑問を口にする。


「報酬がかなり安い気がするのだが・・・、どうしてこんなものを?」

「たぶん私が持ってたから簡単な依頼だと思ったんじゃないかな。渡したら内容も見ずに持って行っちゃったし。」


 俺の華麗な推理にリーフが納得の顔を見せる。


「あー・・・、確かにそれはありそうね・・・。」


 同じく依頼書を見ていたマルネが声を上げる。


「これは冒険者用の依頼で、学院生じゃ受けられないよ?依頼なら学生用の掲示板から探さなくちゃ。」

「いえ、私達は冒険者の資格も持っていますので。・・・”情報(インフォ)”。」


 ギルド証の情報を表示して見せる。


「えっ・・・ランク・・・C!?それじゃあ他の子たちはもっと・・・!?」


 驚きの表情を見せるマルネにリーフが否定する。


「いえ、ランクCはアリスだけで、残りはFと見習いです。」


 それでも羨望の眼差しを向けるマルネ。


「それでも、冒険者の子がいるんだ・・・。凄いんだねぇ、私のパーティには一人も居ないよ。」


 俺もマルネに問いかけてみる。


「パーティの誰かが冒険者の資格を取ったりしないんですか?」

「む、無理だよそんなの~。あなたたちなら課外授業も問題無いでしょうね。羨ましいなぁ。」


「課外授業?」

「大体はこの依頼書と同じ内容だよ。この辺りは魔物が多いから。違うのは報酬が無いってところね。要は魔物の駆除を授業と称してやらされるって訳。」


「それだと戦闘の出来ないパーティは大変だと思うんですが・・・。」

「そこは先生が色々調整してくれるんだよ。」


「随分大雑把なんですね。」

「目的は魔物の駆除だからねぇ。でも冒険者任せだとお金が・・・ね。」


「自分で持ってきておいてなんですが、よっぽどじゃないとこんな安い依頼は受けませんしね。」


 何せ魔物一体で銅貨5枚換算だからな。


「うーん、そうだねぇ。これなら学生用の依頼の方が割が良いよ。どうしてこの依頼を受けようと思ったの?」

「街周辺の地形を見るついでに出来そうな依頼で、一番楽そうなのがこれだったので。」


「ええー・・・。薬草探しとかの方が楽だと思うけど・・・。」

「この辺りだと指定の薬草とかを探すより、魔物との遭遇率の方が高いと思いまして。」


「それはそうだけど・・・、危ないよ?採取なら魔物が出たら走って逃げればいいし・・・。」

「街の近くじゃなければ、走って逃げた方が危ない気がしますが・・・。」


「そ、そうなの!?」

「例えば・・・ヴォルフと森の中で駆けっこして勝てますか?」


「無理だよそんなの~。」


 俺がマルネにした問いに、フィーも答える。


「勝てるよ?」

「いや、お姉ちゃんはそうだろうけど。」


「アリスも勝てるよ?」

「うん、そうだけど今は一般的な人の話だからね、お姉ちゃん?」


 ヒノカ、ニーナ、リーフの三人も盛り上がっているようだ。


「森の中、というのが少々厄介だな。」

「ボクだって強化魔法さえ使えたら・・・!」

「走って音を立てれば他の魔物にも気づかれてしまうから、村では目を逸らさずゆっくり後退しろと教えられたわね。」


 リーフの情報にマルネが声を上げる。


「そんなのでいいの!?」

「相手が弱い魔物なら、ですけれどね。」


「強い魔物だと?」

「祈って走るしかないです。」


「うぅ~、それじゃあダメじゃない!」


 頭を抱えるマルネに声を掛ける。


「街の周辺ならそこまでの魔物は出ないから大丈夫ですよ。もし出れば冒険者が我先にと狩りに行くでしょうし。」

「冒険者って変わってるのね・・・。」


「それより、マルネ先輩も依頼を探しに来られたのでは?」

「いけない、そうだったわ!」


「学生用の依頼・・・もうほとんど残ってないみたいですけど・・・。」

「っ!!ちょ、ちょっと見てくる!!」


 マルネは席から立ち上がると、掲示板前の人だかりに突っ込んで行った。

 それを見送った俺は皆を見回す。


「・・・えっと、それじゃあ私たちはこの依頼で良いかな?」


「私はそれで構わないぞ、採取などは正直その・・・面倒だしな。」

「私も構わないわ。薬草なんかは確認しておくわね。もし採取の依頼をするなら周辺の探索が終わってからにしましょう。」

「それでいいよ。」

「異議なーし。」

「ぉ・・・お任せ、します。」


 反対意見は無いようだ。


「じゃあここで待ってて。依頼を受けてくるよ。」


*****


 依頼の受注を済ませて席へ戻ってくると、もみくちゃにされたマルネが頭を抱えて座っていた。


「うぅ~どうしよ~。」


 机に突っ伏したままのマルネに声を掛ける。


「どうかしたんですか?」


 顔を上げたマルネが涙目で答えた。


「出来そうな依頼がもう残って無いの・・・。」

「どんなのが残ってるんです?」


「採取の依頼なんだけど、どれも危険なのばっかり・・・だから残ってるんだけど・・・はぁ・・・。またテリカちゃんに怒られる~・・・。」

「そんなに危険な依頼なんですか?」


「何箇所か回らないといけないんだけど、魔物が出易い所を通らないとダメなの。」


 マルネの説明に俺は少し思案する。

 魔物が出易いなら、受けた仕事をこなすには好条件だ。

 最後に念を押して聞いておく。


「場所は分かってるんですね?」

「それは大丈夫なんだけど・・・。やっぱり危ないかなぁ・・・。」


「なら、私達が護衛でついて行きますよ。」

「いいの!?」


「そこには多分行ったことは無いと思うので探索のついでに・・・。」

「依頼受けてくる!」


 マルネが栗色の髪を躍らせながら掲示板の方へと駆け寄る。

 彼女は人がまばらになった掲示板から吟味して依頼書を一枚剥がし、受注手続きを行うため受付に向かった。

 それを見届けたヒノカが俺に問う。


「周辺の探索は良いのか?」

「それはまた別の機会でもいいかなと思って。行った事の無い場所だろうし、目的から外れてるとも言い難いしね。それに、ついて行けば採取場所も分かるから。」


「そうね、白紙の状態で探すよりも効率的だわ。」


 受注を済ませたマルネが息を切らせて戻ってくる。


「う、受けて来たよ・・・。ちょ、ちょっと待ってて、私のパーティの子も呼んでくるから!」


 そしてそのままギルドを飛び出して行ってしまった。


「・・・もう少しゆっくり出来そうね、飲み物を買ってくるわ。」


*****


 フィーが三つ目のパフェを注文しようとした時、ギルドの入り口からマルネが姿を現した。


「ごめんねー、遅くなっちゃって。」


 マルネの後ろには少女が三人。彼女らがパーティメンバーのようだ。

 赤褐色でワイルドヘアーの少女が黄金色の瞳で俺達を一瞥し、マルネに問いかける。


「この子たちがマルネの言ってた護衛かい?」

「うん、そうだよ。この子たちすご・・・あいたっ!」


 自慢げに胸を張ったマルネの頭頂部にゴンと拳が振り下ろされた。


 マルネに拳骨した子とは別の女の子が頭を下げる。

 同時に金色の長い髪が垂れ下がり、育った果実がゆさゆさと主張した。


「本っ当にごめんなさいね、あなた達。マルネさんが無理に頼んでしまったのでしょう?」


 その青い瞳からは清楚で誠実な感じが伝わってきて、うっかりシスターと呼んでしまいそうだ。

 マルネが拳を落とした少女に抗議の声を上げる。


「いったーい、テリカちゃん何するのー!」

「マルネ、あんたこんな子達を護衛にしようって何考えてんのさ!」


「だ、だからぁ~・・・。」

「そうですよ、マルネさん。よく見れば一年生の子たちではないですか。」


「レーゼちゃんも話聞いてよぉ~・・・。」


 その様子を見て、もう一人の少女が薄桃色のお団子頭を揺らしながら笑う。


「ぷぷぷ、マルネちゃん怒られてるー♪」

「うぅ・・・ミゼルちゃんまで・・・。」


 話が進みそうにないのでこちらから声を掛ける。


「あ、あのー・・・?」


 レーゼと呼ばれた少女が再度頭を下げた。

 そして再度、揺れた。


「ごめんなさいね、マルネさんがご迷惑をお掛けして。こちらの依頼は破棄させます。」

「い、いえ、そうではなくて―――」


 事情をかいつまんで説明する。


「それでは・・・本当にあなた方が護衛を・・・?」

「はい、提案もこちらからですので、その・・・。」


 マルネとテリカと呼ばれた少女の方をちらりと見る。

 頭をグリグリとされていたマルネが解放された。


 涙目でテリカに抗議するマルネ。


「だ、だから最初に言ったのにぃ~。」


「一年生の子だなんて聞いてないよ。」

「そうですよ、一年生の子を危険に晒す訳にはいきません。」


「そんなに危険なんですか?」

「ええ、何度か行った事がある場所なのですけれど、魔物に遭わなかった事は無かったです。それで危険なので其処には行かないという事になったのですが・・・。」


 レーゼがマルネを見てため息を吐いた。


「遭遇した魔物っていうのは?」

「ゴブリン、コボルド、ヴォルフ・・・それにオークなんかもいました。」


 どれも低ランクの仕事で見るような魔物だ。


「それくらいなら問題ありません。」

「それくらいって・・・どれも冒険者の方が相手にするような魔物ですよ?」


「あ~・・・、レーゼちゃん。その子、冒険者なんだよ。ランクCの。」

「嘘、ですよね?」


「い、いやいやホントだって!あれ見せてあげてよ、アリスちゃん!」


 マルネが懇願するように瞳をこちらに向ける。

 俺はギルド証の情報を表示し、全員に見えるように見せた。


「ランク・・・C・・・間違いない、ですね。」

「こんな小さな子が・・・かい?」


 二人の反応を見てフフンと鼻を鳴らすマルネ。


「ほらー、言った通りでしょ!ミゼルちゃんも何か言ってあげてよ!って何食べてんの!?」


 ミゼルと呼ばれた少女はフィーと並んで座り、いつのまに買ってきたのかパフェを突いている。


「パフェだよぉ~?おいしい~!」

「そうじゃなくてぇ!」


「じゃあ・・・なんの話だっけ~?」

「マルネ・・・ややこしくなるんだからミゼルに話を振るんじゃないよ。ミゼルは黙ってパフェ食ってな。」


「うぅ・・・。」

「ふぁ~い。ぱく。」


 テリカがやれやれと首を振り、場を仕切り直す。


「えーと、それで・・・結局依頼はどうするんだい?」

「破棄しましょう。いくら冒険者とはいえ一年の小さな子に危険な事はさせられません。」


「で、でもそれじゃあお金どうするの?」


「別に、あと半月くらいは大丈夫だろう?」

「そうですね。心許ないのは確かですが、命には代えられません。」


 雲行きが怪しくなってくる。

 話が決まってしまう前にマルネ達の会話に割り込んだ。


「あのー、いいですか?」


 マルネが代表して応える。


「どうしたの、アリスちゃん?」

「どちらにしろ私達はこの仕事をするつもりなので、魔物と遭遇できるなら大歓迎なのですが。」


 先程受けた依頼書をマルネ達に見せる。


「随分安いの依頼じゃないか。こんなの受けたのかい?」

「周辺の探索ついでに気軽に出来そうなのがこれだったので、先輩方に案内して貰えるなら心強いです。」


 テリカとレーゼが顔を見合わせる。


「申し出は有難いのですが、その・・・失礼ですが・・・本当に大丈夫なのですか?」

「もし先輩方が危険だと判断されれば、その時は引き返します。それで構いませんか?」


「・・・分かりました。それでは準備をして学院の門の所で落ち合いましょう。」


 こうして俺たちは準備のために学院寮へと戻った。


*****


 部屋に戻った俺達は各々準備を進める。

 早々に荷物を纏めたリーフが口を開いた。


「少し揉めていたみたいだけど、丸く収まって良かったわ。」

「うん、皆良い人そうだったね。」


 荷物を確認しながらヒノカがリーフとフラムに目を向ける。


「リーフとフラムは大丈夫なのか?」


「えぇ、魔物と戦った経験ならあるわ。」

「ぇ・・・ぁ・・・わ、私・・・は・・・・・・・・・・・・ご、ごめん、なさぃ。」


 項垂れるフラムの頭を撫でながらヒノカに話す。


「気にしないで。フラムには私が付いてるから、ヒノカ達は好きに戦ってくれたらいいよ。」


 俺の言葉にヒノカの瞳が静かに燃え上がった。


「ふむ、ならこちらは役割を決めて動いてみようか。ちょうど授業で言われているしな。」


 リーフが頭を捻る。


「役割・・・ねぇ。フィーとニーナが前線、ヒノカが私の守り、私は魔法で前線を援護、というところかしら?」

「それが良さそうだな、・・・私としては前線に立ちたいが。」


 話を聞いていたニーナが会話に割って入る。


「そんなことしなくてもボク達なら大丈夫じゃない?」

「だからこそ、だ。普段から出来ていなければ、いざという時にも出来ないだろう?」


 ヒノカと同じく気合いの入ったフィーがコクリとヒノカに同意する。


「れんけいは大事。先生が言ってた。」


 俺はフラムの鞄の口をキュッと縛り、フラムに背負わせた。


「よし・・・っと、皆忘れ物は無い?」


「大丈夫よ。」

「問題無い。」

「うん。」

「準備完了だよ!」

「だ、大丈夫・・・です。」


 部屋を出て集合場所に向かうと、すでにマルネ達が待っていた。


「お待たせしてすみません。」


「ううん、私達もついさっき来たところだよ。」

「日も高くなってきましたし、少し急ぎましょう。」


「レーゼちゃん、その前に忘れてる事があるよ。」

「あら、何か忘れていましたか・・・?」


「自己紹介だよ!」

「うふふ、そうでしたわね。私はレミューゼ。レーゼと呼んで下さいね。」

「アーテリカ。テリカと呼んでくれ。」

「ミゼルはミゼルだよ~。」


 こちらも各々名乗り、自己紹介を終えた。


「それでは皆さん、少し急ぎ足で参りましょう。最初の採取場所までに休憩出来るところがあるので、お昼はそこで。」


*****


 全員で街道を進む。

 総勢10名。かなりの人数だ。

 仕事さえ無ければちょっとした遠足気分。


 道は舗装されて歩き易いが、少し外れるとそこはもう森の中だ。

 太陽が真上を過ぎたあたりで、休憩所が見えてきた。


 先頭を行くレーゼが俺達を振り返る。


「お昼はあそこで摂りましょう。」


 休憩所に着く。

 マルネたちはシートを敷き、その上に荷物を下ろす。

 本当にピクニックに来ているようだ。

 俺達は荷物が嵩張るのでそんな物は持ってきていない。


 シートの上にドカリと腰を降ろしたマルネが空を仰ぐ。


「ふーっ、やっと着いたー。やっぱ馬車に乗りたいよねー。」

「そうですけど、お金が掛かってしまいますからね。」


 そんな会話をしながらマルネ達は慣れた手つきでお弁当を広げ始める。

 対して俺達は携帯食を取り出して終わりだ。


 そんな俺達にレーゼが心配そうに声を掛けてくる。


「貴方達・・・お昼はそれだけ?」

「そうですよ。荷物が嵩張ると動き辛くなってしまうので。」


「ダメよ、そんなのじゃあ!私達のを分けてあげるから一緒に食べましょう?」

「それだと先輩達の分が・・・。」


「うーん、それならその携帯食を分けてくれればいいわ。そうしましょう!」


 レーゼの提案にマルネも乗り気だ。


「そうだよ、こっち座りなよ。」

「じゃ、じゃあお願いします。」


 二人に押し切られ、皆でシートの上に座っていく。

 俺も座ろうとシートに足を踏み入れるとレーゼに腕を掴まれた。


「うふふ、アリスちゃんはこっちよ。」

「え・・・?え・・・?」


 そのまま引っ張られレーゼの膝の上に座らされた。


「あ、あのー・・・?」


 後ろからギュッと抱きつかれ二つの柔らかい塊に埋もれそうになる。


「やっぱり可愛いわー、アリスちゃん!」


 広げられたマルネ達のバスケットには色々なサンドイッチがギッシリと詰まっている。

 四人で食べるにしても量が多い。


「お弁当はいつもレーゼちゃんが作ってくれるんだけど、なんか今日は量が多いような・・・。」

「いや、明らかに多いな・・・。」


 これを腹に納めてしまえば携帯食が入る余裕などなくなるだろう。


「ミゼルは多い方が嬉しいな~。」

「うふふ、今日は可愛い子が沢山いるから張り切りすぎてしまいまして。」


 赤らめた頬を両手で隠すレーゼ、だが俺の身体はしっかりとホールドされている。

 フィー達の方に目を向けるが、巻き込まれない為にか、誰も目を合わせてくれない。


「それじゃあアリスちゃん、どれが食べたい?」

「え、えっと・・・じゃあ玉子のを・・・。」


 レーゼはバスケットからたまごサンドを取ると俺の口元へ運ぶ。


「はい、あーん。」

「・・・・・・・・・・・・ぁーん。」


*****


 ギッシリと詰まっていたバスケットも空になり、昼食の後片付けを行う。

 休憩所はすっかり元通りの姿に戻った。

 マルネが鞄を背負い、声を上げる。


「さて、そろそろ行くよ~。ここからは森の中を進むからね!」


 マルネは休憩所の奥へ進み、簡易な柵に沿って何かを探し始めた。


「えっと~・・・あ、あった!ここを進んで行くよ!」


 マルネの示した場所を見ると、獣道が森に飲み込まれる様に続いている。

 俺達はマルネの案内で森の中へと足を踏み入れたのだった。

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