12話「見学会最終日(欠席)」
無駄にデカくて重厚な扉の上には学長室と書かれたプレート。
とりあえず扉をノックしてみた。
中から老人の声で返事が返ってくる。
「どちら様かな?」
「アリューシャと申します。こちらに呼び出されたので窺いました。」
重そうな扉が音を立てて開いていく。
「入りなさい。」
「失礼します。」
出迎えてくれたのは、入学式で見た学院長だ。
「少し待ってもらえるかの。」
「はい。」
そう言って学院長は部屋の奥にある扉にノックする。
「来られましたぞ。」
扉の奥からは少女の声で返事が。
「通せ。」
部屋の奥の扉がゆっくりと開いた。
「さあ、どうぞ。」
学院長に促されるまま奥へと足を進める。
おおよそファンタジーとはかけ離れた光景がそこにはあった。
畳にちゃぶ台に・・・テレビ?
ガチャリ、と扉が閉められる。
中には先程の声の主であろう少女が一人いた。
年齢は10歳くらいだろうか。
薄い桃色の髪が腰まで真っすぐ伸びており、少しだけ垂れた瞳は紅い。
その少女の口から発せられたのは、もう戻る事の出来ない故郷の言葉だった。
『さて、えーっと、ようこそ異世界へ。ってところかな?』
『に、日本語・・・?』
『うん、そう、日本語。まぁ分かると思うけど、オレも転生者の一人ってわけです。』
『なるほど・・・。その姿で日本語喋ってると凄い違和感がありますね。』
『ははは、それはお互い様でしょ。』
『まぁ・・・確かにそうですね。それで、どうしてここに?』
『アンケートに書いてくれましたよね?だから挨拶しておこうかと。』
『やっぱりそうですか。入学式の日に書いたやつですよね?』
『そうそう、それでこの世界の情報とかも必要でしょう?』
『そう・・・、ですね。まだ分かっていない事も多いですし。』
『じゃあ改めて自己紹介からいきましょう。オレはレンシアです。中の人は・・・ま、これはいいですかね。一応五百歳・・・くらい?』
『ご、ごひゃく・・・!?』
『まぁ、それは後で説明します。』
『わ、分かりました。俺はアリューシャです。年齢は六歳ですね。』
『それで、この剣作ったのはアリューシャさん?』
レンシアがどこかからか剣を取り出した。
それは紛れもなく俺が土で作った剣だ。
『そうですけど・・・、どこでそれを?』
『ルーネリアさんが売りに来たんですよ。』
『ああ・・・、なるほど。お陰でこの学院に入学できました。』
『これ一本で金貨二枚取られたんだけど。』
『高ぇ。』
『よし、堅苦しいのは無しでいいよな。』
『だな、よく考えたらお仲間だもんな、魔法使い同士で。』
『それは言うなし。』
*****
レンシアの話によると、彼女(彼?)は魔術学院を創設した張本人だそうだ。
不老の魔法で歳を取らなくなっているので今まで生きている、これからも。
他の転生者も不老の魔法で歳を取らない者が多数いるらしい。
総称して【魔女】だとか【永遠の魔法少女】だとか自称しているという。
俺もその魔法を受ける事が可能らしい。
魔力消費が多いが、転生者の魔力ならば問題無いという。
ただし、九歳になってから。
身体の細胞が新鮮で、術に耐えられる程度に育っており、生理がきていない必要がある為。
それらを勘案すると九歳~十歳がボーダーラインとなっているようだ。
ちなみに条件を守らなければ魔法が失敗して死ぬと聞かされた。
注意点は【不老】の魔法であって、【不老不死】の魔法ではないので、殺されれば普通に死ぬという事。
男性の場合は前例がないため、分かっていない。
というのも、転生者には女性しか生まれないためだ。
DTを捨てると魔力が消失してしまうため、女性しか生まれないようになっているらしい。
なんてこったい。
そして、転生者達が住まう【魔女の塔】と呼ばれる場所があるようだ。
学院よりも辺鄙な場所だが、転移魔法を使えば一瞬で行けるとか。
流石魔法だぜ。
暫く話し込んでいると、ボーンボーンと部屋の時計が定刻を告げた。
レンシアが時計を見上げる。
『おっと、もうこんな時間か。』
レンシアの目線を追うように俺も時計に視線を向けた。
いつの間にか、かなりの時間が立っていたようだ。
『見学会も終わりか、願書出さないとな。』
『スマンな、時間とらせて。』
『いや、学科は決めてあったから問題ない。』
『魔道具科なら漏れることはないか。むしろ一人にならない事を祈った方がいいかもな。』
『マンツーマンは流石にキツイわ。』
レンシアに部屋を送り出された後、皆との集合場所へ向かった。
既に皆揃っているみたいだ。
俺の姿にニーナとヒノカが気付く。
「お、やっとアリスが来た。」
「遅かったな、今まで学院長のところに居たのか?」
「うん。遅れてごめんね。」
「呼び出されたのだから仕方ないわ。それより、そろそろ行きましょう。」
「うむ、そうだな。皆、願書は持っているな?」
それぞれ願書を手に掲げ、全員持っていることを確認する。
「よし、じゃあさっさと行こう!」
元気の余っているニーナが駆け出し、皆がそれに続く。
願書の提出を終え、あとは結果を待つのみだ。
*****
翌日、結果を受けて全員が部屋に集合している。
俺が問いかける。
「皆、どうだった?」
顔色で大体分かるが。
ヒノカ、リーフ、フィーは合格。
それぞれ第一志望の学科へ行けたようだ。
俺も勿論合格。
というか自分しか居なかった。
そして明らかに落ち込んでいるニーナとフラム。
聞かずとも不合格だと分かる。
「ぅ~、あんなに人が多いなんて~。」
「・・・・・・ダメ・・・でし、た。」
ニーナはともかく、フラムには何と声をかければいいものやら。
少し沈んだ空気の中、リーフが口を開いた。
「まぁ、落ちてしまったものは仕方ないわ。次はどうするか決めてあるの?」
二次願書は今日が締切だった筈。
「もう剣術科も戦術科も一杯なんだよ~。」
「・・・ぅ、考えて・・・なぃ・・・。」
どうやら二人とも決まっていないようだ。
そんな二人にヒノカが提案する。
「ふむ・・・、ならアリスの所へ行くのはどうだ?魔道具科なら余裕はあるのだろう?」
「余裕どころか今は私一人だよ・・・。」
フラムの顔にパッと華が咲いた。
「・・・ぁ、そ、そうす、る!」
言うや否や願書に記入を始めるフラム。
「え、ちょ・・・そんなので決めていいの?」
「・・・・・・ダ、メ・・・?」
泣きそうな顔でこちらを見つめてくる。反則だそれは。
「いや、ダメじゃないけど・・・本当に他に行きたい所無いの?」
フラムがフルフルと首を振る。
そんなフラムを見て、ヒノカが考えを口にした。
「フラムの場合、知らない人間がいる所よりはよっぽど良いと思うぞ。それに、何かあればアリスが助けてやれるだろう?」
「うーん、それもそうだね。私も一人で授業受けるよりはそっちの方がいいかな。よろしくね、フラム。」
「・・・ぅ、うん!」
フラムの学科が決まり、残ったニーナにリーフが声を掛ける。
「ニーナ。貴女はどうするの?」
「魔道具科かぁ・・・。目をつけてたところは全部一杯だし、ボクもそうするよ。」
こちらもあっさりと決まる。
「よっし、じゃあフラムと願書出してくるよ!」
「・・・ぇ・・・わっ。」
ニーナはフラムの手を掴むと、引きずってそのまま部屋を飛び出していった。
「あの切り替えの早さが羨ましいわね。」
「全くだ。」
無事に二人の願書は通り、魔道具科の生徒数は三人となったのだった。
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