11話「見学会二日目」

 見学会二日目。

 魔法騎士科の見学会は屋内訓練所で行われる。

 ここでも料理科が屋台を出しているようだ。


 見学者は意外と女子が多い。他学年まで混じっている。

 まぁ、見学というよりは魔法騎士科の生徒に黄色い声援を送っているだけだが。


 定刻の鐘が鳴り響く。

 先程までゆったりと談笑していた魔法騎士科の生徒たちは、訓練場に一糸乱れぬ姿で整列した。

 その先頭に一人の騎士が現れる。

 どこの王子かと思うほどの金髪ロン毛のイケメンだ。

 女子達がざわめき出す。


「よくぞ参られた、未来の騎士達よ。」


 怒鳴っているわけではないのによく通り、響く声にざわめきが静まる。


「私はクレードル。魔法騎士科の講師だ。今日のこの見学会が、君達の選ぶ未来の指標になればと思う。では、早速始めていこう。」


 魔法騎士とは。という先生の講釈が始まった。


 まぁ、ぶっちゃけて言ってしまえば魔法の武具を装備できる騎士の事だ。

 魔法の武具は特殊な魔鋼と呼ばれる金属で作られており、資質が無い者が扱えば重く、脆くなるという。


 この学科では騎士となるための授業が行われる。

 まずは騎士にならなければ魔法騎士への道は無いからだ。


 そして先生に騎士としての資格があると判断されると、魔法の武具が貸し出される。

 以降の授業はその武具を装着しての授業になるようだ。

 並んでいる先輩達の中にちぐはぐな装備をしている人がいるのは、一部がその魔法の武具だからだろう。


 ただし、この魔法騎士科の単位を取っても騎士や魔法騎士としての地位が確立される訳ではない。

 それは各国の採用試験などで決められる事だからだ。

 まぁ、ここの単位を持っていれば有利なのには変わりないが。


 見学会では、授業で普段行っている模擬戦の見学と、魔鋼のふれあい体験があるようだ。


「さて、他に質問がある者は?」


 説明中にも何度が質問している人がいたが、もう手を挙げるものはいない。


「いないようだな、それでは普段の訓練風景を見てもらおうか。」


 先生は整列している生徒達の方へ向き直る。


「散開陣形!」


 先生の掛け声に反応し、まるで一つの生物のように陣形を組み替えていく。

 最後は二つのグループに分けられ、模擬戦が行われる。


 その間、希望者は魔鋼ふれあい体験が出来る。

 場所が少し離れており、模擬戦が見辛くなってしまうためか、こちらの方は人気が無いようだ。


 俺は当然ふれあい体験だ。


「私はあっちの方行くけど、皆は?」

「模擬戦は人が多そうだし、私もそっちにするわ。」


「ゎ、私・・・も。」

「わたしもそうする。」


「確かに人かこれだけ多いとな・・・私もそうしよう。」

「じゃあボクもそっちにしよっかな。」


「ほんとうにいいの、ニーナ?」

「うん、そっちの方も興味あったし、それに・・・。」


 ニーナが少し声のトーンを落とす。


「普段見てるアンタらの訓練の方が凄いしね。」


 いやまぁ、普段俺達がやってるのとはまた別の訓練だしな。

 あれだけ息を合わせて動く事が出来るのは普通に凄いと思う。


*****


 少し出遅れてしまった所為か、ふれあい体験は私たちが最後尾だ。

 と言っても人が少ないので待ち時間はそんなに無いだろう。


 前の方からは「うっ・・・・・・お、重・・・い。」などといったうめき声が聞こえてくる。

 補助人として魔鋼の傍に立っているのは先程先生に指名された冴えない青年だ。

 女子がこちらに来なかったのはその所為もあるだろう。


 じりじりと列が進み、私たちの番が近づいてくる。

 模擬戦の方からは歓声が引っ切り無しにあがっていて、大盛り上がりだ。

 こちらの方は終わった者はほとんど屋台へ行っている。

 ここでも他と違う食べ物を用意しているようだ。


 間もなく俺達の順番になった。

 冴えない青年が俺達に声を掛ける。


「つ、次はキミ達の番だよ。重いから気をつけてね。」


 まずはヒノカとリーフが拳大の魔鋼のインゴットを手に取る。


「こ、これは確かに重いな。この大きさでこれとは・・・。」

「・・・っそうね。よくこんなの持って戦えるわね。」


「あまり無理はしないでね。あ、預かりますよ。」

「ありが・・・とう。」


 リーフが補助人の青年にインゴットを手渡した。

 青年はそれを片手で受け取り、台の上に戻す。

 ヒノカの分も同様に台の上に戻した。


 はたとある事に気が付き、青年に質問してみる。


「お兄さんの装備は・・・もしかして全部魔鋼製ですか?」

「ああ、うん、そうだよ。まだまだ重いけれどね。」


 結構な重装備だ。他の生徒にもこれほどの装備をしている人はいない。

 落ちこぼれているからではなく、優秀だから補助人に選ばれたようだ。


 次はニーナとフィーがそれぞれインゴットを持ち上げているが、ニーナの反応とは対照的に、フィーは平然としている。


「うおっ・・・、重いね・・・フィー。」

「そう・・・?」


 強化魔法を使っているからだろうかと、魔力を視てみた。

 確かに強化魔法は全開だが、妙な魔力の流れがある。

 制御しきれずに溢れた魔力がインゴットへと流れ込んでいるのだ。


 もしかして、魔力を流し込めば軽くなるのか・・・?

 補助人の青年の魔力も確認すると、微弱ではあるが確かに装備に魔力が流れている。


「キ、キミ・・・もしかして・・・。」


「ありがとうございました。」

「あ、ああ、預かります。」


「こ、こっちも、お願いします・・・っ。」

「はい、預かりますよ。」


 青年が受け取ったインゴットを台へ戻す。

 ようやく俺の番だ。

 まずは普通に持ち上げてみる。


 ・・・・・・重っ!!

 とてもじゃないが六歳児の力では持ち上がりそうにない。

 今度は魔力を流し込みつつ持ち上げる。

 軽くなっている。


 どうやら魔力を込めれば込めるほど軽くなるようだ。

 ただ、その効果は魔力を増やすごとに小さくなっていく。


 反対に魔力供給量を徐々に減らしていくと段々と重くなってくる。


 どうやら魔力を込めている間だけ軽く、丈夫になる感じか。

 微弱な魔力でも結構な効果があるため、魔力量の少ない人でも扱う事は出来そうだ。

 魔力量が少なければその分活動時間は短くなるかもしれないが。


「キ、キミも・・・もしかして・・・?」

「あ、ありがとうございました!」


 ポカンとこちらを見る青年に慌ててインゴットを返し、皆のところへ戻る。


 少し実験しすぎたようだ。バレてないといいけど。

 もう少し触ってみたかったけど、どっかで手に入らないかなー・・・。


 俺が終わるのを待っていたニーナが声を上げる。


「よし、皆終わったね、あそこのお店行ってみようよ!」


 幸い、見学会の終わりまではまだ時間がある。

 まだ楽しむ時間は十分にあるだろう。


 そして、そこでもまたアンナ先生と鉢合わせるのだった。


*****


 場所は変わり、第二グラウンド。

 剣術科の見学会場だ。

 魔法騎士科程ではないが、ここも賑わっている。


 生徒達の前に立ったのは鎧に身を包んだ老人だ。


「よう来たな、お主ら。ワシは剣術科の講師、レーゲルじゃ。」


 剣術科では、騎士が学ぶ剣術を教えているようだ。

 魔法騎士科でも同様の授業はあるが、こちらがより実戦に近い戦い方になるらしい。


「―――説明はこんなとこかの。それじゃあワシの生徒たちに型を披露してもらうとしよう。一から十の型まで通しじゃ!始め!」


 整列していた先輩達は隣の者とペアになり、剣を交える。

 全員が息を合わせて動く様はダンスでも見ているようだ。


 生徒達が剣を納め、実演が終わる。


「どうじゃったかの。まだ時間がある事じゃし、希望者には型の一つでも教えてやるぞい。剣を持っとらん者には練習用の剣を貸し出すでの。」


 見学者達はそれぞれに別れていく。

 ヒノカが興味を持ったようで、参加する気のようだ。


「ふむ、異国の剣術も面白そうだな、誰か参加しないか?」

「じゃーボクが付き合うよ、一応知ってるしね。フィーとアリスも参加しなよ。」


「うん、わかった。」

「なら、お姉ちゃんのペアは私かな。リーフとフラムはどうする?」


「私達は遠慮するわ。向こうのお店であなた達の分も買ってきておくわね。」

「が、頑張って・・・。」


 俺たちもそれぞれに別れた。

 各々にペアを組み、十分な広さをとって整列する。


「結構集まったの。それじゃあ前で生徒達にゆっくり実演させるから、お主らはそれを見て動いてみるといい。始め!」


 先生の掛け声に合わせて身体を動かしていく。

 村の近くの河原での稽古を思い出し、そんなに前の事ではないのだが、少し懐かしくなる。


「お姉ちゃん。」

「・・・ん?」


「なんだか懐かしいね。」

「・・・・・・うん。」


 ゆっくりとフィーと剣を交えた。

 隣ではニーナとヒノカが同じ様に剣を振るっている。


「そうそう、やっぱりヒノカは凄いね。」

「そちらが合わせて動いてくれているからな、ニーナ先生。」


 あちらも問題はないようだ。


「ほう、ここのちびっ子達はええ動きをしとるの。」


 先生が俺達の前で足を止めた。


「ありがとうございます。」


 俺たちも一旦手を止める。


「誰かに習った事があるようじゃな。」

「えーと、村に居た頃にボクのお婆様から習いました。」


 ニーナが答える。


「ほほぅ、なら少しワシと手合わせしてもらえるかの。」

「え、・・・あ、はい!」


 ニーナと先生が向き合い、剣を構える。


「お、お願いします!」

「いつでも好きなように打ち込んで来て構わんぞい、魔法もな。」


 ニーナが剣を走らせ、先生がそれを迎え撃った。

 ニーナの剣が弾かれ、間合いが離れた瞬間にニーナが水の弾を放つ。


「”水弾(アクバル)”!」

「なんの、”水盾(アクルド)”!」


 先生は自ら向かい来る水の弾へと突進し、水の盾で相殺させた。

 その勢いに任せ、一気に間合いを詰めて斬りかかる。


「なっ!?」


 態勢を立て直せずに追撃を受けたニーナは堪らず剣を飛ばされてしまった。


「ま、参りました・・・。」

「そう落ち込むでない、その歳で見事な腕じゃのう。」


「い、いえ、ありがとうございました。」

「ところで・・・。」


「・・・何でしょう?」

「お主の祖母というのは、ルーネリアではないかの?」


「は、はい、そうです!でもどうして・・・?」

「いやなに、騎士だった頃に縁があっただけじゃよ。闘い方もそっくりじゃったしの。」


*****


「おっと、そろそろ時間じゃの。みな撤収の準備をしてくれるか。」


 生徒達が貸し出されていた剣を回収していく。


「見学会はこれでお終いじゃ。残り時間は好きにするとええぞ。」


 俺達はリーフとフラムを見つけ、合流する。


「お疲れ様。美味しそうなのは一通り買ってきてあるわよ。」

「す、凄かった・・・。」


 そしてもう一人。


「うんうん、凄いねぇキミ達。レーゲル先生に見込まれるなんて。」

「アンナ先生・・・・・・。」


「いやぁ、向こうで偶然この子達と会ってね。キミ達が参加していると聞いて応援に来たんだよ。」


 その両手は既に料理で塞がっている。


「中々いいものを見られて良かった、とりあえずバレる前にそろそろ戻るね。それじゃ!」


 去っていく先生を見送り、リーフから自分の分を受け取った。


「ふむ、これも美味いな。」

「何で魚の形してるの、これ?」

「・・・はむはむ。」


 フィーは頭から食べる派らしい。

 食事を楽しんでいると定刻の鐘が響き渡る。


「とりあえず人気所は終わったわね。」

「そうだな、次はどうする?」


 俺は少し思案してから提案する。


「今日はこれで終わって、明日はバラバラでいいんじゃないかな。」


 それぞれの見たい所はすでに行ったので、あとは個々で興味のあるものを見れば良いだろう。

 なにせ、数が多すぎるからな。


「そうね・・・、願書だけ受け取っておきましょう。」

「明日だと混んでいるだろうからな。」

「じゃあ皆で貰いに行こうか。」


*****


 寮の部屋に戻り、受け取った願書用紙を眺めている。


「うーん、やっぱり魔道具科かなぁ。」


 他の者も同様に願書と見学会案内との睨めっこを行っている。

 そんな中、コンコンとノックの音が響いた。


 リーフが扉を開いて応対に出る。

 話し声は聞こえるが、何を話しているかまでは聞き取れない。

 少ししてリーフが戻ってきた。


「アリス。寮長さんが貴女によ。」

「うん、ありがとう。」


 何の用事だろうか。

 考えても始まらないので応対に出る。


「えっと・・・こんにちは。」

「あなたがアリューシャさん?」


「はい、そうです。」

「学院長があなたをお呼びだそうよ。明日の朝に学長室へ来るように、との事よ。」


「学院長が・・・ですか?」

「ええ、校舎内に入ればすぐに校内図があるから、場所はそれで確認して頂戴。」


「分かりました。ありがとうございます。」

「用件は以上よ。忘れないようにね。」


「はい。」


 寮長さんはそのまま仕事は終えたと去っていた。

 一体なんの用事だろうか。

 首を捻りつつ部屋へと戻る。


 俺の様子を見たヒノカが声を掛けてくる。


「どうかしたのか?」

「学院長に呼び出されたみたい。」


 それに驚いたニーナが声を上げた。


「えっ・・・アリス何やったの!?」

「・・・さぁ?」


 リーフが顎に手を当て、唸るように呟く。


「厄介事にはならないで欲しいわね・・・。」


 対してヒノカは楽観的だ。


「まぁ、アリスなら問題ないだろう。最年少だからと興味でも持たれたんじゃないか?」


 大方そんなところだろう。

 もしかしたら、あのアンケートについてかもしれない。


「そんなのならいいけどね。とりあえず明日行って来るよ。」


 明日は見学会の最終日だが、学科は決めてあるし問題ない。

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