第5話

夢を、みた。

誰かが綺麗な声で何かをつぶやいているのだ。

聞いたことのある声だが、なぜか、思い出せなかった。

何度も聞いたのに。

聴こえたのに。

あぁでも・・・

(すごく、眠い)

久しぶりに熟睡できそうだ。

父さんの酔っぱらった声は聞こえないし、近所の子供の声も聞こえない。

高校は決まったし、朝寝坊しても・・・

「いいわけあるかっ!」

「・・・・・・うるせぇぞ・・・颯斗」

「のんびり寝てる暇ないっつぅの!ここどこだよ!」

「はぁ?何言って・・・・・は?」

俺はまだ、夢を見ているのか?

目覚めた千里と颯斗の目に映ったのは、木。

森だ。

しかし、暗い。5m先を見るのにも苦労するほどだ。

「は・・・・」

冗談だろ・・・

試しに颯斗の頭を軽くマジで殴ってみるが、夢じゃなさそうだ。

「痛いんだが・・・」

「知るか。ついでに、質問だ」

「へ?」

Where is youあなたは今どこにいますか?」

「・・・・・・・・・しらんわっ!!」

そうだろうな。

ここは、きっとあの声の主が住まう場所。

とうとう、連れてこられてしまった。

しかも、颯斗まで巻き込んで。

「なぁ、なぁ!ここって、いわゆる異世界ってとこだよな?」

「・・・・・信じたくはないけどな・・・・」

「す・・・・・・・・・・・・・・げぇ!!」

は?すごい?

なんでそんなにのんきなんだ?

颯斗は目をキラキラと輝かせている。

まだまだ子供の部分が見え隠れしていたが、それがもろにでている。

「夢じゃないよな?!暗いけど夜?明るくなるのかな?!異世界だし綺麗かな?」

「・・・・・くっ・・・!はははっ!!」

はしゃいでいる颯斗を見て、千里は久しぶりに大声で笑った。

父親はいない。馬鹿なことを言ってくる奴もいない。

ここにいるのは、気を許せる幼馴染だけ。

ここに来たのも、よかったのかも。

「颯斗」

「んぁ?」

「どうせまだ暗いんだ。寝よう?明るくなってから動けばいい。」

「・・・そうだな」

颯斗は、うんうんとうなづき、ごろりと横になった。

ほどなくして軽いいびきが聞こえてくる。

千里はふっと微笑んだ。

昔はあんなにいやだったのに。

母さんに、父さんに好かれたくて。

必死になって。

聴こえてくる声を否定して・・・・





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