ポチャふるまち

@pochay78

第1話

ポチャが死んだ、と母から電話連絡が入った。


雪みたいな真っ白な犬だった。


母によると。歳をとってからはいつも家の中にいるポチャが、死ぬ時は門の前で誰かを待つように弱い足腰で必死に耐えていたという。

「死ぬ前に雄太を待っていたんだと思うよ。」と母は言った。俺は九州の実家に二日後帰省した。実家に帰ると小さくなったポチャが、いれものにおさまっていた。


すこしまぬけそうな表情をしていて人懐こいポチャ。そんなポチャは俺の初めてにして一番の友達だった。


俺が8歳のころポチャは家にやってきた。ポチャが来たその日は、ポチャがあまりにも可愛すぎてトイレにいかないであやしていたら、小便をもらしてしまった。

ポチャと俺の距離が縮まったのは9歳の夏のことだった。それはポチャも一緒に家族で田舎のばあちゃんのところに行った時だ。ばあちゃんが着物を着つけてくれたので俺は自分が西郷隆盛になったような気分になり格好つけてポチャと散歩にでた。調子に乗って田舎道を歩き遠くにいきすぎ迷ってしまった。ほうぼう迷い、俺は喉が乾いてしまった。ポチャの白い足も汚れてしまっていた。夕方まで迷い続けたが、ある農家の人が話かけてくれ、ばあちゃんの家まで送ってくれたので助かった。そのとき飲んだ水と食べたおにぎりのおいしかったこと。俺とポチャはあわせて十四個おにぎりを食べた。俺とポチャはコンビになった。

喧嘩したこともあった。俺が中学に入ってバスケ部に入った時、ポチャが俺のバッシュ(バスケットボール用のシューズ)をかんで駄目にしてしまった。おれは一週間ポチャのことを無視した。一週間たって、ポチャへの怒りが消え、ポチャに骨をやったがポチャは食べなかった。ポチャはそれから一週間おれの手から物を食べなかった。今思うとそれはポチャの仕返しだったのだと思う。

あの時はポチャに助けられた。それは俺が中三で受験まっただなかの時だった。俺はいつもいらいらし、神経質になっていた。そんな折、気晴らしにポチャと散歩に出かけた。いつもと違う道をなんとなく歩いていたらポチャがいきなり動きを止めた。そこは今まで行った事のない公園の前だった。おれとポチャはその公園に入り適当に散歩したが、ポチャがすべり台にのぼりたがった。すべり台に上って景色を見ると、大きな夕日が空に昇っていた。その景色をみるとなんだかいらいらした気持ちがすっと消えた。


ポチャお前を忘れないよ。

俺はポチャの骨を少しかじり飲んだ。これからも一緒だよ。

雪が降ってきた。ポチャ、雪みたいに真っ白だったお前。お前が降ってくれればいいのに。俺の目から雪みたいに冷たい涙が頬を伝った。


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