第37話 空き巣?
「どしたの?」
僕のくだらない愚痴に、さっきまでふんわりと優しい微笑を浮かべていたフミの顔が強張っている。
「開いてる……」
差し込んだままの鍵をゆっくりと引き抜き、フミが不安な目で僕を見た。
まさか、空き巣?
留守を狙った泥棒?
どっちも一緒なのに、若干のパニック状態のせいで思考にまとまりがないながらも他の可能性も考えた。
もしや、今更ながらの“あの人”が来ている、とか……。
フミにふられ、背中を丸めてこの部屋を去っていったあの人の顔が脳裏を過ぎる。
やっぱりフミが忘れられなくて、よりを戻しにきたのか? まさか、奥さんと別れて一緒になろうなんていう展開だとしたらごめんだぞ。フミは、もう僕の彼女になったんだからな。今更やってきたって、もう遅いんだからなっ。
勝手な妄想を繰り広げ、あの人の顔を脳内から追払っい、僕はフミを背中に回し庇うようにしてゆっくりと玄関のドアノブを捻り中に踏み込んだ。
一歩入った玄関には、見慣れない女性物のパンプスが一足。
背中にいるフミを無言で振り返ると、自分のではないというように首を振ってジェスチャーしている。
女性の泥棒?
パンプスじゃ、見つかった時に逃げにくくないか?
余計なお世話をのんきに思いつきはしても、緊張感に体は強張っている。
もしかして、あの人の奥さんが乗り込んで来てるんじゃないだろうな。だとしたら、そうとう面倒くさい状況じゃないのか。今更、フミに会ってどうする気だ? 弁護士沙汰にでもしようってところか?
あの人繋がりの面倒くさい状況を妄想しつつも、泥棒ということの方が確率的には高い気がして、物音を立てないように靴を脱ぎリビングのドアへ近づくと、中からはテレビの音声が聞こえてきた。
泥棒の癖に寛いでるのか!?
随分と肝の据わった泥棒じゃないかよ。それともあの人の奥さんが勝手に来たにもかかわらず、待ちくたびれてテレビ観賞とか?
どっちにしてもふざけている。
リビングのドアを開けて中に滑り込むようにして入っていくと、僕よりもほんの少し若いか同い年くらいの女性が、フミのお気に入りにしているマグカップでコーヒーを飲みながら床に座りこみ、テレビを観ながらまさに寛いでいるのが目に入った。
カップの中身がどうしてコーヒーって判ったかっていえば、部屋中にコーヒーのいい香りが漂っていたからだ。
それにしても、あの人の奥さんにしては若すぎる。と冷静な観察ののち、心の中で悪態をつく。
泥棒の癖に生意気な!
不法侵入は、立派な犯罪なんだぞ。
女だからって、容赦しないからな!
だいたい、フミのカップを勝手に使うなんて百年早い。
それらを口に出しはしないものの、僕はかなり意気込んでいて、次には、誰だっ! なんて、よく考えれば泥棒相手にちょっと間の抜けたセリフを言おうと口を開きかけたのだけれど、そんな僕よりも一瞬早く、フミが驚きの声を上げた。
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