星空の彼方

流民

第1話

 その日天気はあまり良くなかった、天気予報では午後から雨の予報だったのだが、この日を逃せば地球に向かってくる彗星、そうB・B彗星を見逃すことになる。

 だから僕達天文部は前日の放課後からテルテル坊主を天文台にいっぱいぶら下げて今日の日が晴れる事を祈った。

 が、結果この通りだ。雨はまだ降っていないが、それでも今にも降りだしそうな空。

 それでも何とか望みを託して放課後天文部の部員は部室に集まってみんなで晴れる事を祈っていた。

 そして日も沈み、どんよりとした雲も夜の闇でほとんど解らなくなってきた頃、僕たちの祈りが通じたのか雲が急に無くなり、夜空が見えだした。

「おっ! なんだかみんなの祈りが通じたみたいだぞ!」

 部長がそうみんなに向かって話し、部員たちは窓の外を見て確認する。

「やったー、本当に晴れてきたね」

 天文部の紅一点、小夜ちゃんの喜ぶ声を聞いて、部室を出てみんなそろって天文台の方へ向かっていく。

 天文台は校舎の一番上に据え付けられており、口径二〇センチの望遠鏡が据えられている。

 ドームのシャッターを手動で開け、望遠鏡を夜空に向ける。

 そして部長が彗星を探す為に、望遠鏡の操作を行い彗星の方に自動で望遠鏡を向ける。

 どーむの方は男子部員三人がかりでハンドルを回して向きを変える。

 ずいぶんとぼろがきていて、三人で回してやっと動くほどだ。

「どれどれ……あれ? おかしいな……」

 部長がそう言って手に持っている雑誌と望遠鏡の座標を見比べる。

「どうかしたの部長?」

「いや……確かにこの座標で見えるはずなんだけど……ほら」

 そう言って部長は僕に望遠鏡を覗かせる。

「何も……見えないね」

 僕は覗いていた望遠鏡から顔を上げ、部長の方を振り向く。

「座標間違えてない?」

 僕がそう言うと部長は手に持っている本を差出それに書かれている座標と、望遠鏡の座標を見比べさせる。

「……合ってるね……なんでだろう?」

 そう言って僕はまた望遠鏡を覗きこむ。

 その時望遠鏡の向こうで何かチラリと光る物が見えた。

「あ、あったあった」

 僕のその言葉に皆が反応して見せろ見せろと騒ぎ出す。

 取りあえずはレディーファーストと言う事で部長が小夜ちゃんに一番に見せた。

 皆は部長のそう言うキザな性格を知ってはいてが相手が小夜ちゃんなら仕方ないと諦め順番を待つ。

「佐伯君……見えないよ?」 

「えっ?そんな、さっきは見えたんだけどな……もう座標がずれたかな?」

 僕の言葉に部長が反論する。

「そんな訳ないだろ? 自動で追いかけるように設定してるんだ。ずっと真ん中にとらえているはずだぜ?」

 僕は望遠鏡を覗きこむがやはり見えない。

「でも、やっぱり見えないよ部長」

 部長も望遠鏡を覗きこむが、やはり彗星の姿をとらえる事は出来なかった。

「うーん……」

 その時天文台の外に出て屋上から空を見ていた天文部の雑学王、加納が空を見て僕たちに何か言ってくる。

「なあ、みんな……おかしくないか? ちょっとこっちに来てくれよ」

「どうしたんだ加納?」

 そう言って僕達四人は加納の横に立ち、空を見上げる。

「どうしたんだ? 何もおかしなところなんてないぜ?」

 部長が加納にそう言った時、僕も加納の言っているおかしな事に気が付いた。

「あれ……確か……」

 僕は時計を確認する。

 腕時計は午後八時を指している。

「そうだろ佐伯、無いんだよ」

「加納君無いって何が?」

 小夜ちゃんの言葉に加納が答える。

「小夜ちゃん、今日の月齢わかる?」

 そんな事……と言って小夜ちゃんがそれに気が付く。

「えっ!無い、そんな……今日はちょうど満月のはず……なんで空に月が無いの?」

 その言葉でようやくみんなが気が付き、満月を探すが、どこにも満月どころか星さえも見つけ出すことはできなかった。

「な、おかしいだろ?さっきも小夜ちゃんが言ったけど今日は満月のはず。だったらどこかに月の光が見えてもおかしくないはずなんだ。でもどうだ?実際には満月どころか星の光さえも見る事が出来ない……」

 加納の言葉に皆考え込む。

「でも、空はあんなに晴れてるぜ?星が見えないなんて……」

 部長がそう言った時とほぼ同時に今まで晴れていると思っていた空が急に明るくなり、僕達五人を照らし出す。

「うわ、なんだ!?」

 僕たちは急激な視界の変化に眼が付いていく事が出来ず、手で眼を覆い隠す。

 暫くしてその光もおさまり、眼を開けてまた空を見上げる。

「おい……さっきまで確かに晴れてたよな?」

 部長の言葉に僕たちはまた空を見上げる。

「う、うん。確かに晴れてた……」

 僕たちは空を見上げるがさっきまでの空とは打って変わり、また雲が空一面を覆い隠していた。

《オ前達》

 そう、突然頭の中で言葉が響いた。

「だれか、なんか言ったか?」

 部長がそう問いかけるが、皆同じ言葉を聞いたようで皆が辺りを見渡す。

《オ前達ダ、私ハオ前達ノ目ノ前ニイル》

 また頭の中で妙なテレビの合成音のような声が響き、顔を前に向ける。

 するとそこには、銀色の繋ぎ目の無い服に覆われ、人間の様な……あくまで人間の様な生き物。だが、それは明らかに人間ではない。なぜならファンタジー小説に出てくるエルフのように尖った耳、そして鼻は無く、人間でいうと眼のある部分にはそれは無く、口に当たる様な物も見当たらない。まるで怪談に出てきそうな、「のっぺらぼう」の様な生き物が目の前に立っていた。

 明らかに地球外の生き物だと言う事が解った。

「うわ! なんだこいつ?」

 天文部にしておくにはもったいないほどの体格のいい吉村が驚いて声を上げる。

《オ前達ハ選バレタ。オ前達ガ我々ノ質問ニ答エラレナケレバ我々ハ人類ヲ滅ボス。ソシテ地球ヲ我々ニ返シテモラウコトニナル。デハ質問ヲ始メル》

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