ボディーガードは女子高生。

三八式物書機

第1話 女子高生 柊木恵那


 少子高齢化が進み、外国人労働者を大量に入れても労働力が足りない日本。

 政府は労働基準法を整備して、16歳以上の男女に対しての就労を呼び掛けた。それは高校などに通っている者にもアルバイトなどを勧める事だった。それまでに家庭の貧困から高校生の就労率は上がっており、多くの生徒達がアルバイトなどに勤める姿が当たり前の光景となっていった。


 教室で一人の女子生徒がスマホを眺めている。彼女は彫りの深い顔立ちに肩までのセミロングヘアーが似合う活発そうな女子だった。

 彼女はスマホを弄って、色々とメッセージを読んでいる。そこにゆるふわな感じの友達が寄って来る。

 「柊木!また、仕事のメールチェック?」

 「えぇ、いつ仕事が入るかわからないからね」

 柊木と呼ばれた少女は退屈そうに声を掛けた友達を見上げる。

 「仕事熱心だね」

 「佐伯はコンビニのバイトはどうしたの?」

 「今日は早朝シフトに入ったから夕方は大丈夫~」

 「あっ、そう」

 「ねぇねぇ、バーガー食べに行こう!」

 「あんた・・・稼いだ金を全部、食費に回しているんじゃない?」

 「ちゃんと家にも入れてますぅ」

 「それなら良いけど、私は自分の生活費も稼がないといけないからね」

 「大変だよねぇ」

 「他人事なんだから」

 「へへへ」

 女子高生同士の他愛もない会話を終えて、二人は高校の帰り路にバーガーショップに寄る。そこには同級生がアルバイトしていた。佐伯はいつも調子で明るく声を掛ける。

 「よっ、愛実ちゃん!」

 「いらっしゃいませ」

 マニュアル通りの接客をする店員。

 「またまた、同級生相手に畏まってぇ」

 「こっちは仕事中よ。あんたみたいなのを構っていたらクビになっちゃうってぇの」

 「つれないなぁ」

 「お客様、ご注文をお・は・や・く」

 店員は少し怒気の混じった感じに佐伯に注文を催促する。佐伯は頬を膨らませながらカウンターのメニューを眺めて商品を決める。その間に隣に居た柊木に声を掛けた。

 「柊木は何にするの?」

 「私はバーガーとコーラー」

 「ポテトは?」

 「太るから要らない」

 「相変わらずハッキリしているね」

 「体は資本だから」

 二人はカウンターで注文した物を受け取ると奥の食事スペースへと移動した。

 「しっかし、バイトせずに学校に通える家庭に生まれたかったなぁ~」

 佐伯は席に着くなりそう嘆く。

 「まぁた、それ?今時、バイトもしない高校生なんてほんの一握りよ」

 「その特権階級になりたーい」

 「自分で稼ぎな」

 柊木はふと、スマホを見るとメール受信の告知があるのに気付く。

 「あっ・・・仕事?」

 佐伯がそう言うと、柊木は軽く笑う。

 「久しぶりに良い感じの仕事みたい」

 「そうなんだ」

 「悪いわね。急ぐわ」

 二人は早々にバーガーショップを後にして別れた。柊木は地下鉄に乗り込んだ。


 電車に揺られて、彼女は制服のまま、多くのサラリーマンやOLが行き交う駅へと降り立つ。そこはビジネス街で有名な場所だった。

 駅から出ると林立するビルは全てオフィスビル。会社名を記した看板もよく見る。場違いな場所を歩く制服姿の女子高生。だが、彼女は気にもせずに歩く。そして、あるオフィスビルの前に立ち止まった。

 ビルの名称は大日本帝国警備保障ビル。それは名前が表す通り、ここのビルに入る会社の名前だ。ここはオーナーであるこの会社しか入っていないオフィスビル。都心に持ちビルを構えて、自社しか入らない点からしても会社の規模がわかる。

 柊木はビルの正面入口から入る。そこには高齢の警備員が立っていて、ゲートを通った後に警備員の手にした金属探知機で身体チェックを受ける。それからエントランスへと入る。

 エントランスは特に広いわけじゃない。入口などはガラス戸で仕切られ、容易にそれ以上、奥へは入れない仕組みになっている。受付カウンターなどは無く、壁に掛けられた端末で受付係と会話をするシステムだ。

 柊木は端末へと向かい、ポケットからカードを取り出す。それを端末にかざすと、ICチップで認証される。さらに端末のカメラを見れば、顔認証で本人確認が行われる。すると端末のモニターに女性職員の顔が映し出される。

 「柊木恵那さんですね。確認しましたので開錠します」

 女性職員が端末を操作をするとガラス戸が開いた。柊木はそこから奥へと進む。今度はエレベーターが三基設置された部屋に入った。ここではエレベーターを会社のオペレーターが操作するシステムになっている。待っていると一基のエレベーターの扉が開かれる。

 エレベーターの中には階数などを表示する物は何も無い。ただ、監視用のカメラがあるだけだ。エレベーターが止まり、扉が開く。そこは窓の無い廊下。あるのは扉ばかりで、その扉もいかにも頑丈そうな造りだった。掛けられた札には『第三事業部』と書かれている。扉の横にある端末に社員証をかざし、カメラのレンズを見る。するとインターフォンから声がする。

 「柊木恵那さんと確認しました。入室を許可します」

 扉の鍵が外れ、開いた。中はオフィスらしく、多くの人が働いている。ただし、入ってすぐの場所と奥ではカウンターで仕切られ、しかもカウンターの上には防弾ガラスが設置されている。恵那は入ってすぐに番号札を配る機械から紙の札を取る。そしてソファに座った。壁際に設けられたベンチ式のソファには同じように札を持った男女が退屈そうに座っている。その中の一人が恵那に軽く挨拶をする。

 「よう・・・ホーリー。久しぶりだな?」

 「あぁ、おっさん。外国で仕事してたんじゃないの?」

 恵那も顔見知りだったので軽く挨拶をする。

 「おっさんヤメロ。これでもまだ、30代だぜ?中東の仕事は契約満了で終わりだ」

 「更新されなかったんだ?何か不手際でもあったの?」

 「事業縮小だと。石油がダブっているみたいだからな」

 「それはそれは、それで求職活動でもしてるんだ?」

 「ガキじゃないからな。働ないとすぐに食えなくなる」

 「私は子どもだけど、働かないと食べれないわよ?」

 「ははは。お前さんなら大丈夫だ」

 そう会話をしている内に男の順番が受付に表示される。彼は別れの挨拶を軽くして、窓口へと向かった。

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