七騎集会
対神学園・ラグナロクが誇る、最強の七人――
七年制の学園全生徒、約八〇〇人の頂点である彼らには、定期的に集結する決まりがある。七騎と学園長の最大八人で行われる、定期集会である。
だがそのうち一人が問題児であるミーリ・ウートガルドになってから、この集会に八人が集まることはほとんどない。そんな会議に必ず一番乗りで来るのは、学園の生徒会長と決まっていた。
「やぁ、来たね。待ってたよ。独りぼっちで、寂しくてさ」
「あなたが来るのが早すぎるのです、生徒会長」
生徒会長ヘインダイツ・ローはやって来たアンドロシウスを丁重に迎える。引いてあげた椅子に座った彼女の真正面に座ると、持っていた水筒に口をつけた。
「ところで、今日は学園長は休みだということですが」
「あぁ。急な用事らしくてね。ついでに言うと、ウートガルドも来ないよ」
「あの方はどうせサボりでしょう? 真面目に来たことなんて、これっぽっちもないんですから」
「残念だが、今回はちゃんとした理由があるぞ? アンドロシウス先輩」
続いて部屋に入ってきたのは二人。話に入った
「荒野さん」
「ミーリは生憎、補習でマイストまで出ているのだ。今回は許してやってほしい」
アンドロシウスは吐息する。豊満な胸をどけて肘をつくと、赤紫色の長髪を弄くり始めた。
「まぁいいでしょう。でも荒野さん、あまり彼を庇いすぎないよう。尽くし過ぎる女は捨てられますよ」
「そ、そこまで尽くしていない! 私は、ただ……」
話には参加せず、一人勝手に席に着く。部屋の中だというのにキャップ帽子を脱ごうとしない彼女に、ローは困り顔で吐息した。
「ウィンフィル。集会中は、生徒証をしまってくれ」
「あんたが俺より強かったら、言うこと聞いてやるよ。会長さん」
テーブルの上に組んだ脚を乗せて、腕を組む。帽子の下からのぞく赤い眼光が、ローの困り顔を映しこんだ。
「どうした、かかってこないのか?」
「生憎と、パートナーは今図書室でね。それにここで暴れたら、生徒会長としての威厳に関わる。大人しくさせてもらうよ」
「つまらん奴だ――」
「だけどね、ウィンフィル。次の選考試験でもし当たったそのときは、覚悟してもらうよ。僕とスヴァルトが、全力で相手するからね」
「……望むところだ」
四人のいる部屋に窓から侵入したのは、ズバ抜けて巨漢で大柄な筋肉の塊のような大男。一人だけ色の違う肌が、誰よりも近く照明に照らされて黒光りした。
「やぁ、リスカル。久しぶりだね」
「……遅刻では、ないようだな」
「あぁ、まだ
「ならよかった。遅刻が怖くないのは、ウートガルドの特権だからな」
目の前にあった椅子に、リスカル・ボルストは窮屈そうに座る。その隣に座った空虚はさらに窮屈なようで、腕を組んで咳払いした。
「それで、ロー。議題はなんなのだ? 定期集会の日程を急に早めたのだ。よほどのことなのだろうな」
「それはたしかに気になります」
「うん、何か緊急事態なのか?」
全員の意識がローに向けられる。まだ一人到着していなかったが、話を進めたところでなんの支障もないことはたしかだった。戦姫なら、とくに問題はないだろう。
「安心してくれ、そこまでの緊急事態じゃない。ただ、気にかけておいてほしいことがあるという話だ――いや、荒野にとっては、緊急事態かな」
「私が?」
「というか、ウートガルドのことだろう。奴に何かあると本人以上におまえが落ち着かないのが、いつものオチだ」
「わ、わわ! 私がいつ落ち着かなかった?!」
「今だろ?」
自分が立っていることに気付き、空虚はすかさず俯き座る。
アンドロシウスとリスカルはそれを見て当然のように微笑し、ウィンは興味なしで生徒証を触り続ける。
それがいつものパターンであるが故に、ローは安心を持って話を続けられた。
「みんな、学園長から聞いてると思う。このラグナロクの生徒ばかりを襲う通り魔のことを」
「あ、あぁ、聞いたさ……姿も能力も一切不明。ただ襲われた生徒は一部の例外なく無数の切り傷をつけられ、ついた通り名は――」
「“切り裂き・ジャック”。伝説の殺人鬼の再来だと新聞記事が盛り上げた結果、ついた名前でしたね」
「まさかロー。議題というのは――」
「……ジャックの身元が割れた」
全員そのまま硬直し、息を呑む。話を半分聞き流してたウィンでさえ、話すローの方を一瞥した。
「正確には、奴の使っていた
「ならば一刻も早く討ち取るべきだ! なぁ、ロー!」
「今度はおまえが落ち着けよ、筋肉。次の餌食になる気か?」
立ち上がったリスカルを、ウィンが制す。口は悪かったがその通りで、もしこの場に学園長がいたなら、こんな発言はしなかっただろう。頭を冷やすため、また窮屈な椅子に座る。
「だけど討ち取るべきだというのは正論だな。誰か教えろよ会長、俺が殺る」
「いや、もうすでに誰がやるかは決まってる。少なくともウィン、君じゃないよ」
「いいから教えろ。弱い奴の言うことは聞かない」
「君より絶対に強い人の決定でも? 直談判してみるかい?」
それを言われると、ウィンは舌打ちをして黙った。組んだ腕には力が入り、血も通らないくらいに圧迫される。
「そうか、その役目を任されるのが――」
「ミーリ……」
空虚の手にも力が入る。うつむくその目は心配に満ち溢れて、今にも泣きだしそうなくらい潤んでいた。頬にも赤みが入る。
「それで、誰なんですか? ジャックは。せめてそれだけでも、教えてくださいませんか、会長」
「……武器は大剣。能力は血の貯蓄と制御。名は
「聞かない、名だな」
「あぁ、まったくと言っていいほどにな。強いのか?」
「強くなければ、四〇もの人間を斬れまい」
扉を開けて入ったのは、鎧をまとった銀髪の聖女。
その背後には、同じく鎧をまとった青髪の聖女。
話に入ったのは銀髪の方で、彼女こそ七騎最後の一人にして“戦姫”の通称を持つ風紀委員長、リエン・クーヴォその人であった。
「だがその強さも凶悪性も、もしかしたら仮初かもしれん」
「仮初だと?」
脚を乗せたままのウィンの隣に座したリエンはあぁと相づちを打つ。その背後に立つ青髪の聖女は、ウィンの背中を強く睨んだ。ウィンも睨み返し、機嫌を損ねたようで舌を打つ。
「どういうことだ、リエン」
「人を襲う強さも凶悪性も、神霊武装の副作用かもしれんということだ。身に余る力が逆流し、精神汚染を受けている可能性がある」
「たしかに吸血魔赤剣は伝説上、持ち主に血を求める欲求を与えるとされている魔剣。獅子谷玲音、その子の身には強すぎたのかもしれませんね」
「そう、それをも確かめなければならない。果たして事件は彼女の意思で起こされたのか、それとも彼女を操る魔剣が起こしたのか」
「なるほど、だからウートガルドなのか。
「それで会長、獅子谷玲音は今どこに?」
「それが今、ウートガルドと一緒に補修でマイストへ」
ロー以外の全員が即刻固まる。瞬間氷結剤でも撒かれたかのような速度で、皆が一斉に動きを止めた。
「今頃彼自身も、彼女の力と対面してるかもしれないね」
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