青髪の未来

聖剣王と聖剣王

 東西南北、四方に分かれているこの星の大陸であるが、世界地図に表したとき、どの方向にも分かれていない大陸がある。

 その名もズバリ中央大陸。その大陸にあるのは世界最大の大国家と、世界最小の最高位度危険地域のみ。

 国の名はキーナ。危険地域の名はミドル・オブ・ヘル。キーナは中央を表し、さらにその中央に空いた穴は地獄の中央と呼ばれる。

 直径二キロの大穴の周囲二キロは、立ち入り禁止となっている。それより内側に入れば、特殊な形で働く地球の引力によって引き寄せられ、穴へと落ちてしまう。常人ならば、そこに落ちたら即死である。

 故に穴の底は、数え切れないほどの大量の人骨がばら撒かれている状態である。故に数億年前から、この場所は神々にとっても地獄と言われてきた。

 そんな場所に今、二体の神が立つ。彼らは穴の上空に立ち、対峙していた。

 一方は純白の鎧に身を包み、鬼のような兜を被った体格からして男の神。穴からときより吹きつけられる風で煽られる肩掛けを自ら翻し、腰にしている剣に手をかけた。

 対するのは金の長髪の女神。ブロンドと呼ぶのが正しいのだろうその髪は彼女の背を覆い隠せるほど長く、前髪に関しては一本の塊が鼻の上にかかっている。さらにもう一本の塊が頭頂部から伸び、風に吹かれて揺れていた。

 彼女は鎧の彼を見つめて、ニヤリと口角を持ち上げる。

「何がおかしい?」

 男が訊く。それに対して、女はおもむろに首を振った。横にだ。

「何も……ただそうね。あなたが転生することは大体想像していたのだけれど、まさか、私が転生するとは思ってなくて。これはなんというのかしら……そう、まるで誰かが仕組んだみたいで、おもしろくて」

「俺はむしろ、あなたこそ転生すると思っていた。俺はあなたによって作られた伝説。あなたの代わりに伝説となった者。目立つのが嫌いなあなたが立てた、偽りの英雄譚えいゆうだん。それが俺だ」

「そう、私は目立つのが嫌いだった。何故なら私は戦士であって、王ではなかったのだから。目立つことは仕事ではなかった。だからあなたという代役を立てた。故にそれはあなたの英雄譚。龍を殺したのも聖杯を見つけ出したのも、そしてあの丘で死んだのもすべてあなたのはなしよ、アルトリウス・ペンドラゴン」

「……違う。アーサー王は俺じゃない。あなたこそが王になるべきだった、アンブロシウス・アウレリアヌス。龍を殺したのも猪を退治したのも、聖杯を見つけ出したのも円卓の騎士を従えたのも、全部あなただ」

「そう、すべて私の譚。でも今となってはあなたの譚。誰も私の名など知らない。今この世界では、アンブロシウスという一人の戦士が何をしたかなんて、残ってはいない」

 アルトリウスは剣を抜く。黄金に光り輝くその刀身は下の穴から霊力と地脈のエネルギーを吸い取り、取り込んだ。そして構える。

 対するアンブロシウスは首を傾げるだけで、構える様子はない。それは余裕だった。目の前のアルトリウスの一撃を、軽くどうにかできるという自信だった。

「構えろ、アンブロシウス。あなたを倒して、今度こそ俺はあなたに認めてもらう。そして今、伝説を本当に俺の物にする」

「私はとっくに、あなたのことを認めているわ。でもそうね……そう、ただの私の代わりとして、認めている。あなたは私の代わりに目立つのが相応しい」

「もうあなたの代わりなんてごめんだ。騎士王アーサーの数々の伝説。それを立てたあなたを倒し、俺が本物の、伝説の当事者になる」

「そう……あなたはやっぱり不満だったのね。私の代わりに輝くことが。私の代わりに光になることが。だけどあなたは、伝説の当事者にはなれない。何故ならそう……そうね、私はただの一度だって、あなたをその場に連れたことはないのだから。そしてもう一つ……」

 四本の指をピンと立て、アンブロシウスは手刀を作る。するとそこに霊力が集結し、一本の剣となって鋭く輝いた。手刀に宿った聖剣が、振り払われただけで大気を斬り裂く。

「もう一つ……強いて言うならそうね。あなたは私には勝てないわ。だって自分で言ったじゃない? あなたは偽りの英雄譚。私が立てた偽りの王。あなたが私に勝てることはないわ」

「神になった今、勝機はある。覚悟してもらおうか」

「神になったのはこちらも同じ。あなたはこのまま大人しく、常勝の王でいなさい」

 それぞれの聖剣が光を溜め、そして高く掲げられる。光はやがて収束して一点に集まり、前方へと放たれた。その一撃の名は、両者同じ。

「「“絶対王者の剣エクスカリバー”!!!」」

 闇を飲み込み、蹴散らすその光は天を呑む。太陽さえも、その輝きには敵わず光を奪われる。次第にその光は大きくなり、大国全土の空を飲み込んだ。その光は五日も輝き続け、国には夜が訪れなかった。

 

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