vs 円卓の聖騎士《ラウンドテーブル・ナイト》Ⅱ
――ミーリ、あなたには一二の霊術を使わせてあげる。それぞれ能力も効果時間も違うし、反動も違う。だから、よく考えて使うことね。もし使った霊術の効果時間内に倒せなかったら……そのときは死ぬと思ってね。
彼女からこの力をもらったとき、同時に受け取った警告。それが彼女の優しさから来ていることを、ミーリは知っている。
だからこそ、この力を安易に使うべきではないとわかっている。使うなら決勝だと言ったけれど、それは使うならの話であって、使いどころの話ではない。使いどころは他のどこでもなく、あいつと戦うときだ。
それでも今ここで使ってしまったのは、間違いなく譲れないからである。ここで負けるようでは、その使うべきところすら訪れない。そんなのは許されない。
これだけは、こればかりは、誰にも譲ってはいけない。
その理由を、人は因縁だとか宿命だとか、言葉に表そうとするけれど、それは多分違う。
そんな言葉にできるような関係なら、あいつが両親と妹を殺した時点で終わっている。それでも関係が続いてて、しかもまだ恋人同士でいられるのは、それ以上の何かが――人間が言葉でまだ表現できてない何かが、あるだろうからだ。
そんなあいつとの関係に、誰かの横槍が入るだなんて屈辱的でしかない。あいつを殺せるのはミーリだけで、ミーリを殺せるのは、あいつだけなのだから。
そんな二人の仲に、ただ強いという理由で誰かが入ってくるのはとても悔しいし、虚しいものだった。
「“
正拳突きによって放たれる白の光。それがリエンの正面を平らにならす。その一撃を躱したミーリは加速し、リエン目掛けて肉薄した。
一気に距離を詰めてくるミーリを認識し、リエンは魔剣を抜く。そしてその直後に襲い掛かってきた槍の一撃を受け止めた。魔剣から霧が噴き出す。
その霧に包まれたミーリは距離を取る。リエンは逃がすまいと、魔剣に霧を収束させた。
「“
フィールドを駆ける霧と霊力の塊が、ミーリを襲う。高く跳んで躱したミーリだったが、追撃の剣閃が空中まで追いかける。その一撃の一つに刃を突き立てると、切り裂きながら降下した。
再び魔剣とぶつかり、霊力の衝突に吹き飛ばされる。だが地面と足裏とが接するとすぐさま蹴り飛ばし、リエンに斬りかかった。
「“
「“
お互いの中での最強の近接攻撃が、交錯する。単純な
だがすぐさま体勢を立て直し、結界を踏んで跳ぶ。そうして再び武器を構え、力と力を衝突させた。
その衝突はまた衝撃を生み、二人を吹き飛ばす。しかしただの一撃の威力は最初と比べてしまうと弱く、二人は武器をフィールドに突き立てて踏ん張り、なんとか停止した。
「すごい力だね、最上位契約……力は俺のこれと互角か」
まぁ、俺もまだ使いこなしてるわけじゃないけどね……この神格化を。
「当然だ。最強の聖剣に最強の魔剣の上位契約を同時に展開しているんだ。神の力に匹敵できなくてはならない」
もっともこちらは、おまえについていくので精一杯だがな……ミーリ・ウートガルド。
お互い、自身の力の扱いにまだ慣れていない。実力者からしてみれば、それは明白。だがそれを差し引いても、二人の実力はすさまじいものだった。さすがに、この決勝を戦うだけはある。
だがここまでの攻防で――いや、この戦いが始まるまえより、勝負はすでに決しているように見られていた。少なくとも、彼らの実力を肌で感じた者達は思う。
この戦い、勝つのはミーリだ。霊力量から見ても実力で見ても、間違いなくミーリが勝つ。それはこの戦いが始まるまえより、全学園最強ディアナ・クロスを倒した功績から、素人でも考え付く勝敗だ。
それはおそらく、戦っている本人達もわかっている――いや多分、ミーリは自分が勝つと信じているだけだろう。その意味では、リエンは戦いながらにわかっている。
それでも引かず、引くどころか賭けまでしてミーリに本気を出させたのは、やはり意地だ。
ミーリの強さを知っている。戦いにおける強さを知っている。絶対に譲れないものがあるのも知っている。それらすべてを知りながら、それでも勝ちたかったのだ。そんな強い相手に。生涯における、好敵手に。
「“
ミーリの霊術の時がまた動く。戦闘開始から丸四分。まだ四分と感じるか、もう四分と感じるか、それは個人個人で差があるだろう。だがそれは、正確に時間を計っている人間がいないからである。
だが実際ミーリの霊術は、時刻を告げるごとにその効果時間が減っていた。四時から五時までの間に関しては、五〇秒しか経っていない。それはまだミーリの霊術が、不完全であることの現れである。
つまり言ってしまうのなら、リエンにまったく勝機がないわけではない。ミーリの霊術が解けるまで耐えられれば、勝つのはリエンだった。
だがそのことに気付いているのは、ミーリしかいない。まぁもっとも、それまでに決めてみせると確固たる自信があるのだが。
どちらにせよ、時間制限があるのに変わりない。時計盤と針を消して槍を持ち替えたのと同時、肉薄した。
槍を双剣に変え、斬りかかる。槍とは違った細かな動きの攻撃に、剣という武器で戦うリエンは苦戦を強いられる。
だが繰り返すが、単純な力ならリエンの方が上。大きく振りかぶるスキができると、その一撃でミーリを後退させた。
さらにリエンの攻撃は続く。魔剣から聖剣に持ち替えると、魔剣の霧を聖剣にまとわせ、刀身を漆黒の霧で覆った。周囲が暗ければ暗いほど一撃の威力が上がる、
「“
突きで繰り出される螺旋の光線。貫通力に特化した光が、ミーリに襲い掛かる。ミーリがその攻撃を躱すと、リエンは続いて繰り出した。
攻撃範囲は狭いものの、魔剣の霧で攻撃力を増している。その一撃は結界にぶつかる度に火花を散らし、危うく貫通してしまうのではないかと、観客席を恐怖させた。
ミーリは攻撃を躱しながら、徐々に距離を詰めていく。宙を蹴ることのできるミーリはリエンを翻弄し、次第に攻撃のスキを奪っていく。下手に攻撃をすればスキを作るくらいの速度で追い詰めていく。
そうして距離を詰めていき、双剣を槍に戻したところで再び斬り込む。リエンに受け止めさせると再び双剣にして片方で受けたまま、もう片方で斬りつけた。
少し背伸びし、胸部の鎧で受ける。だがその少しの背伸びでバランスを崩し、数歩後退させられた。すぐさま斬り上げ、距離を取らせる。
だがすぐさま、ミーリは距離を詰めてくる。剣を大きく振れないよう、細かで速い攻撃を繰り出し続けた。
上下左右から突き崩し、突き砕く。体勢を崩し、剣技を崩し、構えを崩させる。そうして作った小さなスキに入り込み、突き続けた。鎧で貫きはできないが、強く押し出す。
フィールドを転げて、立ち上がる。リエンは剣を高く掲げ、再び魔剣の霧をまとわせた。そして放つ。
「“
「“
霊力と光の塊に、身一つで突っ込んでいく。双剣で斬り裂き、貫き射抜き、一歩一歩進んでいく。
だが放たれているのは、暗闇で強化されたリエンの最強技。ミーリの現在の霊力では敵わず、吹き飛ばされる。途中双剣をフィールドに突き立て、停止した。
『ミーリ』
「ロン、上位契約」
『はい』
双剣を繋げて槍に戻し、高く掲げて振り回す。そうして自身と水平に構え、霊力を集中させた。ミーリの右腕に紅色の鎧がまとわれ、肩には噴射口が現れる。
「上位契約・
リエンは驚いた。普通異性同士の上位契約には、口づけによる霊力パスの接続が必要となる。だが今、ミーリとロンゴミアントはそれをしなかった。
それが、ミーリのスカーレットの元での修行の成果であることを、リエンは知らない。口づけをわざわざしなくても、上位契約の霊力パスを繋げられるようになった。
もっともまだロンゴミアントとしかできないし、スカーレットのように契約破棄でほいほい武装できるわけではないが。
しかもロンゴミアントとしては、ミーリと口づけする機会が減ってしまってちょっとイヤらしい。故に口づけ契約の省略は、こういう緊急時以外はしないと約束していた。
ミーリは槍を構える。そして右肩の噴出口から霊力を噴出して加速、肉薄した。
今まで以上の速度で突っ込んできたミーリの攻撃を
『リエン寝れないよ』
「今寝かせる!」
聖剣を収め、魔剣に持ち替える。ミーリの連撃を受け切り、連撃で撃ち返した。ミーリにそれらすべてを捌かれるが、真骨頂はここからである。大きく振りかぶって繰り出した斬撃が飛び、ミーリを押し飛ばした。
霧と霊力の塊を斬撃として飛ばし続け、ミーリを近づけさせない。
だがミーリはその攻撃と攻撃の隙間に入り込み、霊力でブーストし距離を詰めていく。入り込む隙間がないと高く跳び、空中を蹴り上げた。
「“
霊力と体力を底上げし、宙を蹴って肉薄する。リエンの剣撃を躱し、斬り裂き、打ち砕くとそのまま突っ込み、魔剣とぶつかった。
斬り払い、突き、振り下ろす。攻撃と攻撃の交錯の中で、駆け引きが続く。お互い引かず引かされずの攻防を続けたが、ミーリが槍を双剣にすると、繰り出される素早い攻撃にリエンは全身を傷付けられた。
腕に胸部、脇腹の鎧に傷をつけられ、頬も斬られる。ここに来て初めて血が出ると、リエンは拳を構えた。
「“聖騎士王の審判”!!!」
正拳での一撃で、ミーリを後退させる――はずだった。しかしミーリはゼロ距離でその攻撃を受け、双剣で斬り裂き、光を二つに割って躱してしまった。
リエンの拳を握り締め、離さない。双剣を二本宙に放ると、その腹部に拳を叩き込んだ。霊力込の拳圧が、リエンの体を貫通する。リエンは吐血し、数度その拳を喰らい続けた。
そんなリエンに、魔剣は霧を出して助ける。霧が放つ霊力で拘束しようとすると、ミーリは寸でのところで抜け出してずっと遠くに後退し、落ちてきた双剣をキャッチした。
エレインとしては、リエンが攻め続けないと眠れないので攻めて欲しいだけ。だがその睡眠欲が今、リエンを味方した。ミーリと距離を離しただけでなく、リエンの周囲は今、真っ暗である。
聖剣を握り締めたリエンは魔剣と共に持ち上げ、光と霧を収束させる。そして大きく振りかぶり、一歩踏み出すと同時に二本とも振り下ろした。
霧をまとった光の斬撃が、フィールドを破壊しながら猛進する。光は暗黒の霧の中で膨張を続け、距離を進むごとに威力を増していた。
「“
膨張を続ける攻撃を、次の段階で受ける。肩の噴出口から霊力を噴出してブーストし、足をフィールドに埋める勢いで踏ん張った。
だが、攻撃力を増大し続ける一撃に、少しずつ押されていく。負けじと押し返してやろうと一歩踏み出そうとするとそのまま持ち上げられ、吹き飛ばされた。結界にぶつかり、光は炸裂する。
ずっと肩にかけていたミーリの上着が飛んでいるのを見たリエンは、息を切らしながら口角を持ち上げる。今までの戦いでもミーリから離れることのなかった上着を飛ばしたことが、少し嬉しかった。
だが無論、これで勝ったとは思わない。まだあの立ち上る土煙の中で、ミーリは立っているはずだ。そう思って、リエンは再び両方の剣を大きく振りかぶった。
「“
土煙の中で、ミーリは次の時刻に能力を進める。
八時にしてからまだ二〇秒と経っていなかったが、もうそれだけの霊力を使ってしまった。次の段階に進めなければならない。でなければ、霊術が解除されてしまう。それはつまり、敗北するということだ。
それだけは今できない。するわけにはいかない。
ミーリは噴出口から霊力を噴出すると、煙を振り払って肉薄した。それに合わせて、リエンは剣を振り下ろす。膨張を続ける剣撃が、フィールドを再び駆け抜けミーリに襲い掛かった。
「“
時速百数キロで、光の中に突っ込んでいく。その一撃は光と霧を斬り裂き、払い、両断していく。
その光の中で、ミーリは声を聞いた。観客席からか、ずっと高い天上からか、その位置まではわからない。だがどこかで見ているのだろうその声は、大きく息を吸った声で言った。
頑張れ! ミーリ!
一撃を斬り裂き、そして一撃を繰り出す。その拳は腹部の鎧を粉砕し、粉々に打ち砕いた。数歩、リエンは後退し片膝をつく。二本の剣は手から滑り落ちて、その手で腹部を押さえた。
「悪いね、リエン。俺は負けられない……負けるわけにはいかない! あいつを倒すのは俺だ……! 邪魔しないでよ!」
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