チーム・ロンギヌス

 選抜メンバー全五一組。選りすぐりの精鋭達が、第一闘技場へと集結する。

 フィールドを見渡す客席に拡声器を持った学園長、帝鳳龍みかどほうりゅうと、パートナーである少女が立った。

「みんなよく来てくれたね。まずは試験で最良の結果を残せたことを褒めよう。だけど、ここから始まりだ。吸血伯爵イアル・ザ・ドラクルの討伐、過酷で困難なものになるだろう。だが、君達はこの学園の代表だ。胸を張っていけばいい」

 全員の顔が引き締まる。

 それぞれが自分の力に自信を持った実力者ばかりだが、自信過剰で鳳龍の話を聞き流す者は一人としていない。ミーリのあくび癖さえ、このときばかりは治まる。

「今回の討伐遠征はチームで動いてもらう。三組一つで、合計一七チームができるはずだ。チーム分けは、追って生徒証に連絡が入る。みんなチームメイトを確認して、コンタクトを取っておいてくれ」

 その場のほとんどが、生徒証を手に取る。そのうち何人かはすぐに通知に気付けるよう、音声通知をオンにした。

「出発は三日後、時間は一〇時。ここ、第一闘技場フィールドに集合だ。それまで君達全員の、神様討伐依頼受諾を禁止する。依頼途中のものも一時撤退、この討伐のために充分に休息し、戦闘可能な状態にしておくこと……では解散!」

 ミーリの生徒証が通知を受け取ったのはそれから二時限分の授業が終わった後。食堂へ向かおうとしていた途中だった。自分以外の二組――もとい神霊武装ティア・フォリマを操る主人の名前が二人分書かれていた。

 一人はまぁ当然というかもちろんというか、組むために来たというオルア・ファブニル。

 そしてもう一人は、一敗はしたもののその後の試験はすべて勝利したという荒野空虚あらやうつろ

 一人は悪い人じゃなさそうだし、もう一人は気心を知っている。今回のチームメンバーの良さに、ミーリは安堵した。

 早速連絡を取り合って、二人を食堂に呼ぶ。

 先に来たのは、空虚と二人の神霊武装だった。

「すまない、遅れたか」

「大丈夫ぅ、まだオルさんが来てないから」

「僕がなんだって?」

 不意に背後からオルアが現れる。メンバー表を見に行ったときもそうだったが、彼女は不意に消えて不意に現れる癖的なものがある。それは彼女が、一人でいるからだ。

「そういえばオルア、おまえ神霊武装はどうした」

「うん、あぁ……」

 そう、彼女にもいるはずなのだ。純白の御旗をひるがえし、防御結界を張れる神霊武装が。

 思えばミーリの実力を測ったとき以来、旗の姿でも人の姿でも見たことがない。

「ちょっと人見知りが激しくてね。ミョルニルの頃から、あまり学園には来ないんだ。神霊武装には授業に出る義務はないしね」

「あぁそれで、俺の部屋にも来なかったわけか……オルさんは来たのにね」

「本当、申し訳ないよ。ミーリくん」

 レーギャルンは首を傾げた。ミーリが今、確実にオルアを怪しんだことに。昨日彼女が泊まったとき、ミーリはあえて突っ込まなかったのだろうが、その意図はわからなかった。

「それで、今はどこに?」

「一人学園長がくれた部屋でこもってるよ。僕以外入れてくれなくてさ。ミョルニルのときから大変だったよ」

「そうか……では伝えておいてくれないか。私とミーリのことを。共に戦うチームメイトとして」

「あぁ、わかった」

 計四人が座ると同時、ミーリはジュースを飲み干した。役目を終えたストローを折り曲げて先端を潰し、蛇のような何かを作る。

 それが敵役だった。自分達の役は、空の容器に演じてもらう。

「で、神様は今谷の中。俺らは三日後、その谷の上の森に出るわけだけど……基本的には遠距離戦だね。ウッチーの出番だ」

「あぁ、任せておけ」

「で、神様が飛んだり谷を登ってきたりしたら、接近戦の俺の出番。まぁ頑張るよ。ウッチーはその時点で援護射撃に専念。オルさんは結界で、ウッチーを含む後援組を守護……って、これが基本的オーソドックスな戦術なわけだけどさぁ」

 ミーリの手が、ストロー蛇を握り潰す。霊力も込められた手は、蛇を跡形もなく消し去った。

「どう? これ以外の戦術とかアイデア、ある? まぁ本番になれば、こんなうまくいくなんてこと、ないんだろうけどさぁ」

 一番ミーリの立てた戦術が妥当で、簡潔である。それぞれの役割がはっきりしているし、得意分野を生かした戦いが可能だ。利口と言ってもいいだろう。

 だが利口であるが故、戦術に長けた者が見ればありきたりで、一番立てやすく読まれやすい戦術であった。

 吸血伯爵の戦術に関しての知識量は知らないが、不意をつければいいことに越したことはない。

「ちょっといいかな、ミーリくん」

 オルアが意見する。というより、吸血伯爵の特性を聞いている彼女が意見しなければ、このちょっとした会議は終わってしまうところだ。

「ブラドは不死身の特性を持っているんだ。普通にやったって、勝ち目はない」

 不死身、その単語に、ミーリはがっくりうなだれた。

「えぇぇ、それ早く言ってよ……俺がバカみたいじゃん」

「ごめんごめん。でも、不死身のブラドを殺せる手が、一つある。僕の結界だ。僕の結界は、不死の力を無効にできる。だから、僕を前線に置いてもらえれば――」

「その根拠はなんだ」

 ウィンが話を中断する。一番向こうの席でずっとうつむいて生徒証をいじっていたが、話だけは聞いていたし理解していた。

「てめぇが不死の能力を無効化できる、その話の根拠だ。実際にそういう体験をしたからか?」

「そうだね。ミョルニルでの討伐依頼で、一度不死身の神を僕の結界内でだけ傷を致命傷とし、殺すことができた。その実体験こそが根拠だ。まだ不足かな」

「いや、根拠があればいい。無謀な作戦に、俺の主人を巻き込まれちゃ困るんでね」

「ウィンフィルくんは心配性だね。まぁ相手がミーリくんだから、仕方ないか」

「そ、そんなんじゃ――!」

 うっかり指を離してしまい、ゲームオーバー。真っ赤な顔を帽子を深被りしてうつむき、隠そうとする。その間ロンゴミアントとレーギャルンの目が、少し痛かった。

「まぁそんなわけだ。作戦は単純に、僕の結界内にブラドを招き入れ、その中でミーリくんがとどめを刺せばいい」

「なんで俺?」

「結界内っていう条件付きで、最強の吸血鬼を殺せるのは、最強の君だけだろ? だから全力で、僕を守ってくれ。僕も全力で、君達を守る」

「わかった、いいよ」

 なんの迷いも疑いもなし。

 ミーリはあっさりと作戦を了承した。そのさっぱり加減に、他の一同はミーリに反論する。

「ミーリ! もう少し色々な作戦を立てようとか思わないのか! この作戦は単純すぎて危険すぎる!」

「あなた責任重大なのわかってるの?」

「マスター、もう少しお考えを……」

「ミーリ、さすがにおまえ軽すぎっぞ」

「そうです、あなたが死んではいけないのです。死んだら私泣きます、と主が申しております」

てん、どさくさに紛れて何を!!」

「なんだ今がいくさか? よかろう、この戦、わしも参戦し――」

「てめぇは黙ってろ軍服! 今はかまってるほど暇じゃねぇ!」

「なんだと! なら暇を作れ! そしてわしをかまえ! わしは遊び足りぬ!」

「知るか!」

「ウィンさん落ち着いて……」

「あぁもうごちゃごちゃ……ミーリ、なんとか言って。元々あなたのせいなのよ」

「えぇぇ、ヤだ、面倒くさい。ウッチー治めて」

「なんで私だ!? 責任もっておまえが治めろ!」

「……わかった」

 空気を吸い込み、そして一瞬止める。その際放った霊力で威圧し、その場どころか食堂全体が静かになった。

「これでいい?」

「「「やりすぎ!!!」」」

 全員からダメ出しを喰らう。その後ミーリのチームが食堂を去るまで沈黙は続き、みんな固まったままミーリがロンゴミアント達に背中を押されていくさまを眺めていた。

 そんなこんなで、出て行ったのは広い庭園の真ん中にあるベンチ。ミーリの神霊武装三人が並んで座り、ミーリはその背もたれに後ろから寄り掛かった。

「さて、じゃあ一番大事なことを話し合わないとね」

「大事なこと、ですか?」

「うん、チームの名前を考えないと」

 どうでもいい……!

 全員の内心がそう訴える。

「やっぱ妥当なのはチーム・ラグナロク一番隊? いや、あえて零番隊ぜろばんたいっていうのもいいな……でもオルさんもいるから、チーム・ゴッド?」

 そしてダサい……!

 このままでは変な名称のチームができてしまう。みんなは頭の普段使わなさそうな部位を高速で回転させ、必死に名前を考えた。

「じゃあミーリくんが隊長なんだしさ……」

「え、俺が隊長なの?」

「チーム・ロンギヌスっていうのはどう? だって彼女がミーリくんの最初のパートナーなんでしょ?」

 いい……! 

 そう思ったのはミーリを除いては発案者のオルアと、ロンゴミアントだけであった。全員ないと首を横に振る。一方肝心のミーリは、全身をワナワナと震えさせていた。

「オルさん……君って実は、命名の神か……!?」

 ミーリの中で、天変地異並の落雷が落ちる。すぐに生徒証を取り出して、学園長宛てに連絡した。

 学園長の部屋で、電話が鳴る。その電話を恐る恐るとったのは、学園長のパートナーである透明な透き通った髪を持つ少女だった。

「もしもし学園長? あぁ、君か。まぁいいや。あのさ、チーム名が決まったから、名簿書き替えておいてくれない? うん、うん……チーム・ロンギヌス。そうそう、俺の武器の名前ぇ。うん、うんうん……はぁい、じゃあよろしくぅ」

 電話が切れた。少女は椅子をよじ登り、パソコンを開く。そしてすぐさま名簿を開き、チーム・ロンギヌスの名前を書き替えた。

 すぐさま、通知が届く。

「ってなわけで、チーム・ロンギヌスに決定!」

 遅かったか……!

 全員諦め、腹をくくる。ハイタッチするミーリとオルア、そして自分の名前が入って喜ぶロンゴミアント以外は、その名前で我慢できるよう自分に言い聞かせた。

「じゃあ今日はもう帰って寝るわ。俺もう眠くて眠くて……」

「え、あ、待ってよミーリ!」

「マスター」

「なんだかなぁ……」

 ミーリ陣営はとっとと退散する。その場に残った空虚陣営とオルアは、互いを一瞥した。

「とりあえず、今日のところはもういいか」

「そうだね。僕も今日は早めに戻るよ。チームメイトのことを話しておかないといけないし」

「そうだな……ではよろしく頼む。オルア・ファブニル」

「そうだね、よろしくウツロ」

 こうして、チーム・ロンギヌスは結成された。

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