第47話 閑話と事件の真相みたいです

 俺の名前はローズ、ただ普通の冒険者だ。

 因みに俺の性別は男だ。よく名前だけを聞いた奴は女だと勘違いするが、俺の本名はロイゼと言うらしい。むかし、まだ俺が小さく、女の子みたいな可愛い顔をしている時に、俺は初めて自分の名前を呼ばれた。だが、幼い俺にはロイゼがローズに聞こえた。

 しかも、自分の事をローズと言った俺の事をママは可愛いだのなんだのって言って、そのまま俺がこんな筋肉ダルマみたいになるまでローズと呼び続けた。

 おかげで、俺は成人してママに名前を呼ばれるまで自分の本当の名前に気づかなかった。

 冒険者ギルドも、俺がいた村も、俺の妹や弟も、俺の名前をローズだと信じて疑わなかったのだ。それもそのはず、俺のママは信頼が第一な『ぎんこお』とかいう金を扱う仕事をしているのだから、嘘をつくわけがないと…。

 だが、この名前のせいで、俺は学校に行った時も、冒険者登録をした時も、周りの奴らにバカにされた。だから、俺は大好きなママから貰った名前をバカにする奴を片っ端からぶっ飛ばすために、死ぬほど苦しいトレーニングを積んだ。しかし、バカにする奴は一向に減ることはなかった。


 しかし、そんな俺の名前を『良い名前ですね』と、言ってくれたたった一人の女性がいた。その人の名前はリリーというらしい。

 俺は初めて自分の名前をいい名前と言ってくれた女性に惚れてしまった。

 だが、俺はいつも一人ぼっちだった、だから女性どころか、同性とすら話したことがほとんどなかった。俺はリリーさんに話しかけるのに2か月も掛かってしまった。

 話しかけるのに2か月掛かったものの、挨拶はすぐに交わせるようになった。


「リリーさん、おはようございます!」

「リリーさん、こんにちは!」

「リリーさん、こんばんわ!」

「リリーさん、お疲れ様です!」

「リリーさん…」


 最初は笑顔で答えてくれていたのだが、だんだん元気がなくなってきた。

 …もしかして、帰り道に変な奴がいるのでは!?

 そう思った俺は、リリーさんの護衛として、密かに帰りを見守ることにした。 

 だが、俺がしっかりと見守っているにもかかわらず、ついにはストーカーにあっているという話が出始めた。

 

「リリーさんにストーカーだと?そんな奴は絶対に許さん!!」


 俺は、そう意気込んで見守る時間帯を増やした。

 朝の出勤時間から、帰りの帰宅時間、それと勤務時間中も見守ることにした。 

 それなのに、いっこうにストーカーの話は消えなかった。



 俺がリリーさんの見守りを続けてから1か月が経過した。

 俺はいまだにストーカーを見つけることができていなかった。ストーカーは器用にも俺に見つからないように行動しているようだ。

 

「どうしてだ?どうしてリリーさんのストーカーが見つからないんだ?早く見つけないとリリーさんがストーカーの餌食になってしまうかもしれない!!」


 焦った俺は、リリーさんを見守る距離を縮めることにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そして、それからさらに2週間が経過した。


 その日、俺が冒険者ギルドを覗いてみると、リリーさんに話しかける男がいた。

 どうやらその男は新人のようだが、何か怪しい。

 …ハッ!もしかして、あいつがストーカーなのか?…しかも新人のくせにリリーさんと気安く話すとは生意気な奴だ。


「おい、新人がリリーさんと仲良く話してんじゃねえ」


 そう声を掛けると、その男は俺の方を振り返った。そして俺の事を凝視してから「ブッ」と噴き出した。


「おい!そこのガキ!!俺の何がおかしいんだ!!!」

「落ち着いてください、ローズさん」


 リリーさんがそう言うと、周りに居た連中まで笑いやがった。


「くそっ、みんなママから貰った大事な名前をバカにしやがって!」


 絶対許さねえぞ!!

 そんな感じで新入りに勝負を挑んだのは良かったのだが、結果的に俺はぼっこぼこにやられてしまった。

 しかも、無様なことにリリーさんの目の前で、だ!

 挙句の果てに、俺はリリーさんのストーカーというレッテルを貼られ、リリーさんに近づくことを禁止された。


 どうして俺はこんなにダメなんだ?

 俺は、そんなことを考えながら街をふらふらと歩いていた。

 すると、街のはずれで怪しげな男に声を掛けられた。


「貴方は誰かのせいで、人生が上手くいかないと思ったことはありませんか?」


 今の気持ちを的確に言い当てられた俺は、その男を怪しいと思いながらも、『話を聞いてやろう』そう思った。


 男の話を聞いてみると、この特殊な魔法陣が描かれた球を、その相手に投げつけるだけでその相手をどこかへ飛ばすことが出来るのだそうだ。

 俺は、その話を聞いて、真っ先にあの新人の冒険者を思い浮かべてニヤリと笑った。

 これであいつに仕返しができる。…よくも俺をストーカーなどと罵ってくれたな。覚悟しておけ、すぐに復讐しに行くからな!!


 こうして俺は、魔法陣の設定を少しいじって、転移先を魔大陸に変更し、さらにその周辺の街に刺客を送り込んで、あの新人の冒険者の後をつけていった。


 そして、あの新人の冒険者が店から出てきて、隙が出来たところで俺は男から貰った球を投げつけた。


 結果は、大成功だった。

 

「ふぅ…これで、俺はいつも通りにリリーさんと会うことができる。…待っててくれよ、リリーさん!!今会いに行くからな!!」


 この事件の真相を知る者は、男とロイゼ、それと転移させられた新人の冒険者だけだった。


 

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