虚像の楽園
望月美咲
プロローグ
序章 偽眼に映るセカイ
こんなにも世界には色んなものがあるんだ! …いつか僕も行ってみたいなぁ。
永遠に続く赤砂の大地を駆ける黄金の獅子。世界樹のような古木の周りを行き交う天使。そのどれもが少年が始めて見る世界の風景であり、衛星軌道上に存在する通信衛星が地上を捉える度に瞳を輝かせている。…その時、少年の頭部は胴体から切り離されてシステムの調整を行われていた。首に様々なチューブが取り付けられ、少年の傍で機械が静かに動く。
混じり気のない白髪と青空の瞳をした少年は人間ではなかった。人間である研究者達は少年の事を「ロボット」と蔑む様に呼び、日々少年の体を解体しては組み立て直すのを繰り返している。少年には理解出来ない日々が続き、酷く退屈だった。そんなある日の事だった。
いつもと同じ様に研究者に黙って通信回線に侵入していた時の事だった。何気に都市の監視カメラに侵入して観てみると、そこに二・三歳ほど年上そうな少年が映っていたのだ。長い黒髪をした少年は金髪の少女と話をしており、時折楽しげに微笑んでは再び話し始めるのを繰り返している。この時、ロボットは思った。…僕もあんな風にお喋りしたい、と。
あの子と仲良くなりたい。この狭い部屋から飛び出したい。あの子と友達になりたい、と。
だって友達が一人も居ないんだもの。…それにと、ロボットは監視カメラを通して少年の全身をスキャンしていき、その結果を見てやはりと微笑んでいた。あの子も人間じゃない。僕と同じだ。だから大丈夫。僕と殆ど同じなんだもの。だってあの子の体も機械だよ?
でも僕は自由に動けない。あの子の様に外を歩き回る事は出来ないのだ。その不自由さをロボットは初めて嫌だと感じた。そんな物寂しさを抱えながら、その子に憧憬を向け続ける。
やがて遠くから研究者の足音が聞こえてきて、ロボットは残念に思いながら通信を遮断していった。そして意識をスリープ・モードへと変えていき、研究者から目覚めさせられるのを待つ。その後に意識を強制的に覚醒させられ、再び体を弄り回される。その繰り返しだ。
ロボットは心の中で涙しながら願っていた。…どうかお願い。僕を助けて、と。
あの子なら僕を助けてくれるかな。だってあの子は強いから。どんな怖い怪物でも一人で倒してしまえるから。あの子なら僕の友達になってくれるかな。そんな虚しい想いを抱いて、カメラ越しに見える世界に想いを馳せながらロボットは今日という日を生かされる。
現在、自分が感じているものは何なのか。そんな事も知らずに日々を生きる。それは人間が禁断の技術として封印したものであった。人外のものに心を与えるという禁忌の技術を持って自分が造られたという事実。幼い心に狼狽えるばかりのロボットが知る筈も無い。
ただあの子と仲良くなりたい。そして助けてほしい。それだけであった。だからお願い。僕に気付いて。君と仲良くなれるなら何でもしてみせる。何でもしてみせるから――。
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