控えめに言って、セカイは私でできている

ぱりん

本編

第1話 「コドウ」

私は今、セカイをつくっている。

それは控えめにいっても、だ。



予感はあった。しまった・・・と淡く儚い意識の境で

後悔する間もなく施行される超微弱電睡眠活性機能アスリープキャンセラー

超微弱とうたっているものの私には少しびりびりっとくる。今もだ。

これには個人差があって気絶してしまう人もいたり中には快感に感じて中毒化する人もいるため一部の人は睡眠を認められている。うらやましいかぎりだ。

だが大半の学生はそうではない。つまり授業中の睡眠は許されないのだ。

こいつのせいで意識が落ちた刹那自動で、両目に眼球光学弛緩液アイエンフォーサー

(大昔は似たようなので目薬?というのがあったらしい)を注した時のように

一瞬にして頭がカッ!と冴えわたるのだ。

・・・

まあそれはいい。それはいいのだが・・・

「はーい。それじゃあこれわかる人ー?」

若手の歴史の先生だ。この人は女子をあてたがる傾向にある。

じろじろーっと教室全体を眺めだすと私と目があってしまった。

最悪だ・・・。

「はい!では百之瀬雪菜さん!どうでしょう」

「あ・・・えと・・・」

液体電子エレクトリバーの発見の年号などまったくわからなかった。

「わかりません」の「わか」まで言ったところだった、周りの全動体の動きが

突如として停止したのだ。教室にいる全員、先生も、窓から見える

ピンク色の海も、風も。

の仕業だ。後ろを振り向くと宙に浮いている。

「ちょっと!勝手に時止めないでよ!びっくりするじゃない」

「書けばいいじゃないかー、超最強世界改変ブックに。超微電睡眠活性機能アスリープキャンセラーは百之瀬雪菜には効かないとか先生にあてられないとかさー」

「うるっさいなー!私は普通でいたいの!そんな超最強なんたらなんていらないよ!」

「けっ。ところでとなりのこの男は結構イケメンだなぁ・・・ふっふーん♪」

そういうとその男の子の顔をつねったりペンで落書きし始める。それはこの前自分が勝手に自分好みに顔を改変したからだ。

自分の体より大きい本を持ち歩き金髪の長髪をゆらして宙に浮くこのしみったれでおせっかいな少女。

少女の名はミア・ロイスダール。このセカイの創造主だ。


*


この時すら止めてしまう少女との出会いの

発端は二週間前。


私はごくごく一般的なただの学生だった。

紅城機構学院の一年生でまあ別に特段特徴もないただのJKである。父のやっていた研究(よく知らない)が称えられ、なぜかこんなにも敷居の高い学校に入学し個人寮にはいり...と怒涛の入学時期を終えて安堵していた最中ことは起きることになる。


授業中だった。なんの授業かは覚えていない。(うとうとしていたからだ。ちなみにうとうとならば超微弱電睡眠活性機能アスリープキャンセラーは作動しない)

私の席は角席と呼ばれる教室で言う寝ポジで、要するに一番後ろの角の席で、肘をつきながら晩御飯のことを考えていたのだった。

太陽が盛っていてかなり暑い日だったので窓は全開で何気なく蒼色の海を眺めていた時だった。

ドスン、というなんともくぐもった重苦しい音が教室中に鳴り響いたのだ。

先生や周りの皆は何事もなかったかのようにチョークを黒板に叩きつけペンを走らせる。


「...?」


何がなんだか私には分からなかった。

明らかに昼下がりの教室には相応しくない異様な音で私の強烈な眠気も吹き飛んでしまうほどだったはずである。暫く沈黙した後その正体は判明する。


「こいつ、顔がなぁ...こうしてみるかなぁ...」


音源をたどるように、そして反射的に、隣である加藤くんの席に目をやると机に1人の金髪の少女が座り込んで加藤くんの顔を見ながらあーでもないこーでもないといった具合に顔をいじくり回している。

光景の異様さに額から汗が伝う。

いやなんといっても異様なのが少女の背後にある少女の体よりも大きい謎の本である。

さらに状況が飲み込めなくなってしまったのが加藤くんや皆の反応である。この机に座る少女になんの反応も示していないのだ。

まるで私にしか見えてないみたいに。


「ちょ、ちょっと...あなた何者?幽霊とかはやめてね」


私は小声で話しかける。

本当に幽霊だったらどうしようか。


少女は振り向くと笑顔で


「私はミア・ロイスダール。このセカイの創世主だ!」


少女は私の顔を覗きこむように言う。何を言っているんだこの子は。少女は一旦首をかしげると、どんどん少女は迫ってきてでことでこがくっつくと


「お、お主こそ何者..?なぜ私のことが知覚できる...」


「えっ...私は百ノ瀬雪菜だけど...」


私が席を立って話をしても誰も振り向かなかった。やはりこの女の子が原因なのだろうか?


「ぬぬっ!話しかけるなぁ!」


少女は例の巨大本を軽々しく開くと何かを一心不乱にかきつくっている。

私は思わずのぞき込む。

『百ノ瀬雪菜はミア・ロイスダールを知覚できない』という一文が大量に書かれていた。


「ねぇ...これ何...?」


「お前!偽名か!?なぜ改変が効かない!」


「本名デスケド!か、改変??」


「うむむ、百ノ瀬!百ノ瀬の隣のやつなんて言うんだ?」


「呼び捨て!?失礼な女の子だなぁ...せっかく可愛いのに。その子は加藤誠也くんだけど...」


言ったそばから嫌な予感がした。


「ふむ。普通ならこうなる」


手の中からどこからともなく鉛筆を出すとまた何かを書きつくる。 見てみると今度は

『加藤誠也はイケメン』

と一文が汚い字で書かれている。


私は思わず加藤くんの顔をみてしまう。


「うっそ...これって..」


普段のほんのちょっとだけ癖のある加藤くんの顔がまるでハーフのような優しい塩顔に仕上がっているのではないか!

もしかして本当にこの子はセカイの創世主なのか...?

ミア・ロイスダールと思わしき少女は満足気に笑ったと思うとまた真顔で私を睨む。


「こいつはな本《超最強世界改変ブック》って言ってだな!書いた事は必ず反映されて改変される!」


それなのに、と少女はさらに唸って


「なんでお主は改変が効かんのだ!」


少女は涙目で私に見せびらかすように本を見開く。

『百ノ瀬雪菜はさらにブサイクになる』とか

『百ノ瀬雪菜は裸になる』とか『百ノ瀬雪菜はAカップになる』とかとにかく大量に改変?と思しき内容が書かれている。もちろん加藤くんのような変化はなかった。


「他は100歩譲っても...さらに!?いや裸とかマズイって!......あっ...............これは...?」


本の中に見覚えがあるマークがあったのだ。

顔を近づけてよく見る。

それは毎日見てるマークだった。

正12角形の中にMの文字。間違いない。


「私の父の形見と同じだ...」


私の父は10年前、失踪した。その時に残した

資料や研究のメモにふんだんに書かれていたものがこれだった。今でも形見のように家に飾って眺めているのだ。父がなんの研究をしていたのかいつかわかりたかったから。


「あの!これはなに?一体何の...」


少女はいつのまにか静かになって私を真っ直ぐに見つめている。先までの幼さはどこにもない。


「私が東京にきた理由が君さ。このマークは私のマーク。10年前私というセカイの最終真理にたどり着いた1人の物理学者がいた。だが文字通りそいつは消えたんだ。1人の娘を残してね」


「もしかして...それって...」


「そう。お主だ。私としたことが全く気が付かなかったよこんなとこで出くわすとはね」


そして、とミアは付け加える。


「君の父上はどこかで生きている」


「えっ」


「私は地球がマグマに覆われている頃からこの本だけで今の地球を創ってきた。誰にも悟られず密かに。万有引力もオームの法則も私が創ったものだ。セカイの最終真理は私、これからも今もな。だがそれにたどり着いた者はどうなると思う?消さなければならないんだ。存在ごと」


「.......」


私は答えない。


「私を一緒に住ませろ」


「へ?」


あまりにも唐突な提案に頭がついて行かない。そもそもこの子との今までのやり取りも夢かと思えてくる。


「百ノ瀬は父上に会いたいか?」


「うん」


「そして私は消したい。探し出して消さなければならない。君と行動してればいつかはたどり着けそうだ」


「...一応利害は一致してると...?」


「そうだ」


「.....わかった」


思えば居なくなった父に取り憑かれた日々だった。明確な目標もない。

日々に退屈する私よりは良さそうだった。


父に会えればなんでもいい。だが...


「でもひとつお願いがある」


「私にか?なんだ」


「私にもこの超世界改変ブック使わせて!あとその真面目な態度やだ!」


ほう、といってミアはまた本を開く。


「好きな色は?」


「私?うーん。ピンクかな」


これもまた嫌な予感がした。


「ほりゃっ!」


ミアが可愛げに叫ぶと

目の前の、蒼かったあの海がピンク色の海になったのだ。可愛いが気持ちが悪い。

全世界の海が、この私の選択に委ねられたのだと思うと鳥肌が止まらない。


「改変は責任でもある。変えたものは受け入れる、それができればいい」


「う、受け入れられるのかなぁ...はは...」




こうして私とミアのセカイを巡る冒険が幕を開けたのだった。




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