第29話 異常
あの事件を企てたメンバーであっても、あの状況で蒼穹に手を出すとは思えない。とりあえず妹が無事であることが確認でき、虎太郎はひと安心した。
「二番! あんたなに無視してんのよ! なんでそいつらと一緒に!」
「二番……とはわたしのことですか? ええと、すみませんどちらさまでしょうか?」
「はぁ? なにを言って……」
雫は混乱した。自分と契約したはずの〝AZ〟が自分を知らないと言っている。そして今や敵である虎太郎たちと共にいる。なにがどうなっているのかさっぱりわからなかった。
「まさかオーナーの変更を……? いや、そんなことはプロテクトの厳重な第四世代に簡単にできることじゃない。これも片山が……いや後堂なら……?」
ぶつぶつと独り言を言い考えを巡らせる。自分がまだ把握していない機能があったのか。それとも後堂がたった一日でソニアのプログラムを解析し改ざんしたのか。だが後者はやはり難しい。プログラムを弄るということは少なくともソニアが戦闘不能な状態にする必要がある。だが外見上そこまで傷ついている様子もない。では一体どうやったのか。
「まあいい。考えたところであんたは戻ってこないんでしょう? なら叩き潰すまでよ。一番、そして試作機。皆でかかりなさい」
『了解』
命令に従い、クリスと試作機たちはソニアを囲み始めた。
「これをすべて倒さなければいけないわけですね。先程は面倒でしたが、またお相手いたします」
数が多く不利かと思われたが、ソニアには少しの微笑みがあった。
まずは先手必勝。目の前にいた試作機一体目がけてクイックショット。躱せずに胸部に被弾。そのまま活動停止した。
それを合図に他の試作機が一斉にソニアに襲いかかる。クリスはそれに参加せず、まずは後ろの方から様子を伺っているようだ。試作機の武器は先ほど使っていた五〇センチほどの長さの細い剣のみ。ソニアはうまく剣を躱しながら連続で撃っていく。さすがに試作機も雫が言っていたように、完成版第四世代の六割の力が出せるだけあって高機動だ。油断していた先と違い簡単には当たらない。
しかし攻撃予測など頭脳がやはりソニアは勝っていた。常にすべての敵の動きを感じ取り動きを予測する。二体目、三体目と次々と活動停止に追い込んでいる。
ところどころ攻撃を受けている場面もあるが、痛みを感じている表情もなく――そもそも初期化したのだから痛みは感じていないのかもしれない――黙々と敵を倒し、そしてとうとう最後の試作機が倒れた。
「くっ……」
雫は唇を強く噛んだ。ここまで圧倒されるとは正直思っていなかったのだろう。スペックだけ見れば、数がいれば倒せる相手のはずだが、うまくはいかなかった。
「どうして入ってこなかったんですか? 黒いあなた」
「いっぱいいるとわたしの邪魔だから」
クリスは相変わらずの無表情でそう答えると、すぐにソニアに襲いかかった。
この戦いの間、虎太郎はアルメリアのもとへ移動していた。今も痛みに苦しんでいる様子を見て悩んだ。修理をしないかぎり痛みが継続することがわかっているため、あとはソニアに任せて電源を落としてしまおうか――と。
「アルメリア。よくやってくれた」
このまま戦うことは難しいだろう。虎太郎は頭を抑えているアルメリアの手をどかし、電源がある首の後ろに手を回そうとしたのだが、
「痛っ――てえっ!」
アルメリアに左腕を掴まれ、潰すように握られた。嫌な音がしたため、もしかすると骨が折れたかもしれない。手をどかそうとしても離してくれなかった。
「起動起動――ピィィィぃぃ――《ドミネートモード》――――ありがとう――おやすみなさい――停止――起動 《ドミ――》ピピppipipピ」
「アルメリア……っ?」
《ドミネートモード》という言葉。それはソニアと戦っていて、突然雰囲気が変わった時に聞いた言葉だ。このモードが起動した時、アルメリアはソニアになにかをして、ソニアは記憶をすべて失った。
しかし今はあの時と違い少し様子がおかしい。先ほどのダメージを痛がる様子はなくなったが、かわりに壊れたかのような言葉を次々と発していた。知っている単語をただ並べただけのようだ。
「glkががが」
「おい、どうしたんだよ! アルメリア!」
腕の痛みに耐えながら無事な右手でアルメリアの肩を揺さぶる虎太郎。しかしその呼びかけはどうやら聞こえていないようだった。
虎太郎の瞳をじっと見つめるアルメリア。
その瞳はあの時起動した時から自分に向けられていた好意や好奇心とは全く別物だった。
なにかを探っているような、敵かどうかを判断しているような――冷たい瞳だった。
「ガガ――」
「やめろアルメリア……そんな目で俺を見るな。それじゃまるであの時の――うわああああああああああああああああああああああああぁあああっぁ」
虎太郎の悲鳴がこの空間全体に轟いた。
「うるさいわね」
アルメリアの元へ近づいていたことに気づいた雫が、虎太郎のもとに近づく。胸ポケットから黒光りする重たそうなものを取り出しながら。
「もう時間がない。あんたたち姉弟はわたし自ら手を下す」
二メートルほど離れたところで雫は立ち止まり、拳銃を構え虎太郎に照準を合わせた。
「さようなら天才デザイナーさん。わたしのためによく働いてくれたわ」
引き金を躊躇なく引き、パンっという乾いた音が辺りに響く。
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