メモ

@momo_oca23

第1話

夕暮れに枝の隙間を遠くに眺めるとそこに永遠が立ち現れる、とは誰の言葉だったか。あとにも先にも故郷の連なる青の山々を美しいと、その霞に包まれて育まれたのだと、そのように感ぜられた。それは一瞬にして強い力を放つ最後だった。慈英の大地だと思った。

あの薄桃色の金繭の雲が頂を隠す。地上には凍てついた冬に濡れそぼつ人の自然が根を張っている。夢遊する遥かな青は雪に澄む銀に降られる。崩塵したエメラルドの零群。降り注ぐそれらを牽制するように荘厳な金の息吹が見えた。


押し込まれた電車はいつの間にか走り終えていた。終点、降りると連日の大雪のせいで多くの学生が群れていた。私にはひとくさい密室がどうにもつらい。女性の、絶え間なく紡がれる、劈く様な嬌声。男性のふざけてはじける暴れるような低音。長い年月が失わせた他人への遠慮、それを忘れた老人の図々しい嗄れ。全てが不協和音、その立体音響のオーケストラ、満員電車の、私は、その中の私はまるで誰しもが進むために踏みじった雪のようだった。茶色く薄汚れたみたいに。

それから家まで歩いた。水の中で溶け合った白と群青の厚みを忘れられた金が裂いている。あれは希望。あれは正義。あれは絶望、うごめく卑しい金。あれはなんという名前だったのだろう。どうして人は美しくない。どうして美しく生きるために汚らしくなる。

私には理解できない。いや理解したくないのかもしれない。理解すれば私にはその運命が、責務が、それから逃れられなくなってしまう、そう思うから。

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