3Pーっす!!

斉藤希有介

~子作り or DIE~

プロローグ

 尻まで届く黒髪を揺らしながら、少女が祭文さいもん高校の廊下を歩いている。


 放課後の喧騒が少女を中心に静まっていくのは、少女が祭文高校のブレザーではない純白のセーラー服を着ているから……だけではないだろう。


 揺れる黒髪から時折のぞく、すらりと伸びた両太ももの隙間に吸い込まれるように、ふらりとよろけ、すっ転ぶ男子がいる。


 廊下の端から端まで少女の姿を追ったあまり、左から右へ一八〇度以上首を回し、ぐきっという音とともに崩れ落ちた男子がいる。


 何人かの女子は「ほわーっ」と声ならぬ声でつぶやき、無意識に自分の胸を揉んでいた。


 楽しげに歩く少女が後ろ手に持っているものが、でかでかとハートのシールが貼られたザ・恋文とでもいうべき封筒だと気づいた男子は、その受取人が自分ではないことを神に呪った。


 それらの視線に気づいてすらいないかのように、満面の笑みを浮かべて、わき見による不幸な事故を同時多発的に発生させながら、少女は祭文高校を縦断した。


 やがて、少女は「1‐A」と表記されたプレートの下で立ち止まる。がらっと勢いよくドアを開けて、少女が教室にその身を滑り込ませると、教室でだべっていた男子ら三人が一斉に立ち上がった。


 少女が問いかける。


「ねぇ、――くんって、このクラスだよね?」


「あぁっ、はいっ!」


 直立不動の姿勢のまま硬直してしまった男子生徒が、裏返った声で答えた。


 ――別の生徒が恨みがましい声で「あいつ、またかよ」とぼやく。


「今は、いないのかな?」


「あっ、はい、それがっ、あのっ」


 そう絶叫したきり固まってしまった男子生徒に代わって、となりの生徒が答えた。


「あああ、あいつは、例のやつで……、その、体育館裏に」


「例のやつ?」


「そ、そうです。……その、女子から、呼び出されて、つまり……」


「ふぅん」


 少女が興味を失ったかのようにつぶやく。たったそれだけで、その場の全員が、主人に罰を言い渡された小間使いのように縮こまった。


「まぁ、いいや。じゃ、……くんは、ここにいる? それとも、――あなた?」


 少女の白い指に首筋を撫でられた男子生徒は、「ちち違いま」と叫ぶなり、机や椅子をなぎ倒して昏倒した。


「……のやつは、その、例のやつで」


「例のやつ?」


 硬直一名、昏倒一名で、残った一人が少女の問いに答える。


「その、三年の先輩に呼び出されて、その……」


「どこへ行ったの?」


 すると、男子生徒はまずいことに気づいたかのように狼狽しはじめた。


「そっ、そのっ、あいつもやっぱ、体育館裏に……」


「じゃ、二人とも体育館裏にいるのね?」


 その言葉を聞いた少女は、ぱっと表情を明るくし、困惑する男子生徒のほほにチュッと音高くキスをした。瞬間、男子生徒の顔が真っ赤に染まり、すでに倒れている男子生徒の上に倒れ込む。


 少女が走り去った教室には、直立不動の姿勢で硬直した男子生徒のえづく声だけが、しばらく鳴り響いていた。

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