この空
最終話 この空 1/2
別荘警護バイト四日目の朝が来た。
明日はもう昼前には帰るので、実質今日が最後の日になる訳だ。
太一や麗美たちの発案で、凛子の誕生日のサプライズゲストに柴田鏡花が来た訳だが、さて、これからどうしたものか。
一時の感情で真の仲間に足る人間だと証明してみせろなどと言ったが、そんなもんどうやって証明すればいいのか俺も分からん。
柴田鏡花。俺の前になると途端におどおどうじうじ。性格をトランスフォームしろと言いたい。しかもめっちゃ警戒されてるし。
うむ。そこなんだろうな。苦手にされてるから俺も嫌い、みたいな。
早朝の日差しの中、寝起きの飴を舐めながらベッドの上で考え事をしていると、隣のベッドでテルが寝返りをうった。布団がはだける。
う、えええっ!
こ、こいつ、何で全裸で寝てるんだっ! 意味が分からん。しかも仰向けになった下半身は本気の力こぶじゃないか。いや、それでも小ぶりの島らっきょうくらいだが。
「た、太一。起きろ。部屋に変態がいるぞ」
太一を揺さぶる。
「ん? ああ、将か。すまん、もうちょっと寝かせてくれ」
やつが枕に顔を埋める。くそ、この朝の清々しさを台無しにする不衛生な気持ちを共有したかったのに。
仕方ない。とりあえずテルの裸体を写メでとる。うむ。取引材料を一つゲットだ。
せっかくだから、ここはもう少しインパクトのある絵が欲しいな。どうすれば面白いかな。部屋を見渡す。そうだ。テルの周りにテッシュを撒こう。ソロプレイの事後っぽくていいな。
テッシュの箱を持ってテルに近づく。何枚かくしゃくしゃにしてベッドの上にばら撒くと、うむ、めっちゃ面白い。
ここまでくるとアングルもこだわりたいな。テルの太ももの辺りにスマホをセットし、主観映像的なあれでいこう。
テルのベッドに乗り、ローアングルから撮影しようと思ったその時、男子部屋の扉が開いた。
「み、みんな。おはようございます。そろそろ朝…」柴田鏡花が扉の前で棒立ちになり、俺とテルを見つめる。
「………」
「………」
時が止まる。
「ま、待ってみよっか。違う、違うんだよ、これは…」
「………、失礼しました…」
パタン。扉が閉まる。
「ぎゃおおぉーーー!」
い、いかん。これが知れ渡ったら、理由はどうあれ俺のライフが終わる。
「待てっ! 話を聞けロリっ子。止まれ! ほんと、マジ、止まってください」俺は全力で追いかける。だが、敵も死に物狂いで逃走している。
朝から王子と幼女がデットヒートだ。
「何もっ、何も見てませんからっ!」
「だったら止まれ! 俺は女が好きなんだっ! それはもう大、大、大好きだ。なんならお前の平坦な身体でも全然オッケーだ」
「誰か、誰か助けてっ! ゲイの
「
「きゃああー」
「あんたは朝から何をやってんだっ!」
バチコーン! 頭から星が出る。何事だ? むっ、凛子か。助かった。これで誤解が解ける。
「聞いてくれ凛子。誤解なんだ。そこのロリっ子が…」
「ダーリン。辞世の句を詠め。介錯する」氷雨が俺の前に仁王立ち。
「どこが誤解なのよ。朝っぱらから女が好きだって言いながら鏡花追いかけ回して。はっきり分かった、あんたは女なら誰でもいいんでしょ」
「ただし美少女に限る」
「ヲタクっぽく訂正すんな」
「ダーリン。ダーリンには選択肢が二つある。詫びるか死ぬか」
「その二択ひどくないか?」
凛子と氷雨の後ろにロリっ子が隠れている。やつの目が、完璧にビビっている。
「おいロリっ子。お前はまだ俺の事をよく知らんだろうが、俺ほんとノーマルだから。可愛い系の男子とかたまにドキッとするけど、思春期のなせる業だから。しかもHey! Say! JUMPの伊野尾慧くんクラスならまだしも、相手はテルだぞ。何が悲しくてロリチンポを愛さねばいかんのだ」
「でも、口の中で白濁を味わっていたじゃないですか」
「あれは飴。アメちゃんなの」
「じゃあ証拠見せてください」
「い、いや。もう溶けちゃったけど」
「やっぱり」
「え、なに? なんでそこで納得してるの?」
「いいんです。そういう事もあるって分かってますし、偏見もないし。ただちょっとだけ驚いちゃったって言うか。わたしの方こそ、ごめんなさいっ!」
「あやまっちゃったよ! おい、いい子っぽく謝罪の言葉を口にするな。嚙み合ってないから。肝心なところクロスオーバーしてないから。ホントの意味でクロスがオーバーしちゃってるから」
「もうほんといいし。マジしつこいし。わたしは気にしてないって言ってるじゃないですかっ!」
「今度は怒っちゃったよ! 凛子、氷雨。お前たちも助けてくれ。純情な感情が空回りしているのだ」
「アイラビューさえ言えないでいるのだな。ダーリン。一旦落ち着け。この手合いは焦れば焦るだけ泥沼だぞ」
「ふぅ~。静まり奉り給え。悪しき心よ」
俺は目を閉じ、心を落ち着ける。
「うわあ。余韻楽しんでる…」
「違うわっ!」
「そうなんだよね。自分でも気をつけてたんだけど、気付いたらこんにちはしてる時があるんだ」テル言う。
「こんにちは言うな。な、見ろ。やっぱり誤解ではないか」
「うむ。ビビンバなんて風呂上りに全裸で新聞取りに行ったりとかするぞ」親父言う。
「すみませんでした。あまりの事に気が動転して。ほんと、マジ、ごめーぬ」ロリっ子言う。
「めっちゃ軽いな。まあいい。マリちゃん。ソースとってくれ」
「はい。若旦那さま」
大所帯で朝食をとる。親父たちは車で来てるから、飯を食ったらそのまま帰るらしい。
んで、食事終了。
玄関で家族を見送る。
「師匠、わざわざありがとうございました。桃も、よく来てくれたな。ありがとう」
「まあきみにも心強い仲間がいる事が分かったからな。みんなに迷惑ばかりかけるんじゃないぞ」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん? なんだ」
「耳貸して」
膝を折り、桃に耳を貸す。
「あのね、鏡花さんと仲良くする方法思いついた。せっかくここにいるんだから海で遊べばいいんだよ」
「お前、簡単に言うな。大体俺は泳げんのだ。加えて麗美の警護もある。遊んでいるヒマなどないのだ」
そう言うと、桃は麗美に近づいていく。
「麗美お姉ちゃん! 一生のお願いっ! 私まだここに居たいから、海に連れてって」
「え? 別にいいよん。なに、桃ちゃん。お姉ちゃんと離れたくなくなちゃったのかな~?」
「うんっ! お姉ちゃんもせっかく遊びに来てるんだからさ、ほんとは海、行きたいよね?」
「うーん。でもそうするとみんなの負担が…」
「そのための警護、男手でしょ。遠慮なんてしてたらもったいないよ」
「どうしよう、将くん…」
「え、何だお前。お前、ほんとは海行きたかったのか? それならなぜそう言わない? お前の希望を叶えるために俺たちはいるのだぞ。安心しろ。例えゴジラが攻めてきてもお前を守り通してやる。そうだな、お前たち?」
「ああ。俺たち警護のはずなのに、平野さんは気を遣ってばっかりで。最後くらいワガママ言って欲しいな」太一言う。
「そーゆーこと。おっしゃ、新しい水着持ってきて良かったぁ」凛子が頷く。
「良い案があるぞ。平野は先に帰って私とダーリンだけでサンセットブルーするのだ」
「氷雨さん、ちょっと黙ってよっか」
「決まりだな。麗美、気合いの入った水着姿を期待しているぞ」
「ふふっ、分かった。今さら惚れちゃっても知らないからね」
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