第18話 答えは精霊に聞け 2/2


 そして翌日。

 朝、クラスに入るとテルがイメチェンしていた。

「やられたよ。油断してた」

 テルはケガこそ大したことはないが、昨日の出来事に参っている様子が伺える。頬にはガーゼ、頭部に包帯。テルが負傷萌えをしても誰の役にも立たん。まあいい、話はこうだ。

 姉を見舞った病院の帰り、一人でバス停に並んでいると、気がつけば目の前に傀儡人形パペット。応戦したが負傷し、気配を感じた人が駆けつけると、傀儡人形も消えていた、という話らしい。

「パペットが単体で街中に現れるとは考えにくい。どうやら誰かの精霊魔法の線が確かになってきたようだな。加えて、狙いはやはりうちのクラスの生徒という訳か」

「しかも昨日、もう一件襲撃があったらしい。うちのクラスの帰宅部のやつらがゲーセンに寄って帰るところを襲われたらしい。こっちの被害者は三名だって聞いた」太一が状況を説明する。

「ゲーセンって昨日のやつらか」凛子が悔しがる。

「何故うちのクラスなんだ? 犯人はこの中にいて、クラスメイトをランダムで襲っているのか?」

「目的が見えないな」氷雨が目を細める。

「考えられる線としては、悪いけど、将への恨みとかな」

「恨み?」

「そうだ。襲われたやつらはみな、その前に将と何らかの関わりがある。テルは説明の必要もないけど、カツアゲと、昨日見張っていたやつら。俺は何か仕組まれた感じを受けるな」

「恨みか」そう言われて思い出すのは正人とめぐ美だ。

「めぐ美は前に精霊魔法を習った事があるらしい。動機も充分だ」

「よし、班を二分しよう。将、お前今日、一人で帰れ。俺たちは距離を置いて後をつける。もう一組は小原たちの監視だ」

 班編成は、俺をつける氷雨とテル、めぐ美たちをつける太一、凛子コンビだ。

「言っておく。特にめぐ美には悟られるな。下手に悟られるとこの件長引いて泥沼化するぞ」

「了解」

 そしてまた放課後。俺は帰路で裏路地を当てもなく進む。時刻は四時過ぎ。街はまだ明るいが路地の裏はビルの影で暗い。

 俺はエーテル探知魔法で辺りを警戒する。

 さっきからどこかに精霊魔法の気配は感じている。俺はずっと、敵が狙いやすいポイントを歩き続けているのに襲われる様子もない。

 何故来ない? 俺は正直、クラスの連中が襲われても、それでダメージを受けるようなやつじゃない。敵が知り合いの可能性があるなら、俺のそんな性格は知っているはずだ。

 考えていると突然、悲鳴が聞こえた。

「わ、わああぁー」

 テルかっ!

「ちっ」

 俺は駆け出した。見ると路地の先に地面に横たわる人の姿。

「テル!」

 近づこうとしたその時、精霊が騒ぎ出したのを感じた。地が揺れ、その直後、俺の右腕が跳ね上がり、壁に叩きつけられる。

 傀儡人形の糸か。すぐに氷の小刀で糸を切断し、テルの傍に行く。

 テルに触れようとしたが、違和感を覚える。何故だ、考える。そうか、頭の包帯がない!

「お・と・なピザポテト、アボカドチーズ味」

 テルの身体に火炎と物質系の散弾を放つ。ただしその性質はとりもちに近い。

 テルの身体が地面に縫い付けられる。まんまと騙されたな、さっきの悲鳴はこのテルの姿をした傀儡人形の声だったのか。

「ダーリン」

「将くん」

「テル、氷雨」

 路地の奥から氷雨が、手前側からテルが駆けてくる。その時、傀儡人形が口を開く。

「愛してる。許せない。守りたい。私は守りたい。気持ちに応えたい。そして麻生将、お前は、許さない」

「答えろ、いっこく堂。お前はめぐ美の精霊なのか」

「許さない。愛してる。守りたい」

「外国人留学生か。まるで会話にならんな」

「フジヤマ、スバらしいデスね」

「物見高すぎるだろ。て言うか、シリアスかギャグかどっちかにしろ」

「錦織、すごいよね」

「知らんわ」

 傀儡人形の身体が燃え尽きる。そして、それとほぼ同時に二人が到着する。

「ダーリン。ケガは?」

「問題ない。それよりこいつ、妙な事を言っていたな」

 俺は今あった事を説明する。説明しながら、一つ疑問が浮かぶ。

 あの地面の揺れは何だったのだ? ただパペットを召喚するだけなら起こらないものだ。

「とにかく移動するぞ。風紀委員が来ると面倒だ。テル、太一に連絡してくれ。めぐ美たちの状況が気になる」

「オッケー。これでめぐ美さんの動きが掴めれば解決だ」

 テルがスマホを取り出して連絡を入れる。

 俺はそれを見ながら考えていた。地面の揺れ。あれは何だったのだ? 考えられる線としては、エーテルの共鳴か? あるいは地の精霊との複合魔法? 分からない。

 俺は氷雨の髪の匂いを嗅ぎ、落ち着こうとした。


 めぐ美に動きはなかった、と言うのが太一からの連絡だった。

 普通に駅まで正人と歩き、駅で別れ自宅までイヤホンで音楽を聞いていたらしい。

 めぐ美ではないのか? ならば他にクラスであやしい奴は? 分からない。大体モブの顔などいちいち覚えていない。

 俺のアパートの一室でいつもの五人で顔を揃え腕を組む。

 分からん。分からないとは気持ちが悪い物だな。

「将ぉー。キャベツ太郎ないの?」凛子が口を開く。

「キャベツ太郎なんて最近コンビニでも見かけんぞ」

「私はあれが一番好きなんだ。買ってきて」

「ふむ。キャベツ太郎か。今度魔法のレパートリーに加えてみようかな」

「将。脇道に逸れるな。今はパペットの謎が先だろ」太一が注意する。

「それよりコロコロチキチキペッパーズの卓球の動画見ないか? あれ、めっちゃ面白いぞ」

「あっ、私もそれ好き。あのポーズなんなの? あと馬鹿よ貴方はのカレー屋のネタね」

「だから、パペットが先だ」

「将くん。思うんだけど、めぐ美さんに捉われすぎじゃないかな?」

「テル。ブサイクのネガティブとか救いがないぞ。俺は常にクラスの女はみんな俺に惚れていると思って行動してるぞ」

「それはどうなんだ」氷雨がツッコむ。

「手がかりを整理しよう。将、改めて説明してくれ」

「うむ。敵はパペットの精霊魔法。強さは中の下だが人の姿を真似る特徴がある。仲間だと思って迂闊に近づくと手痛いしっぺ返しを食らうな。また、こんな事も言っていた。守りたい、愛している、そして俺を許さないと。あとは出現の前に何故か地が揺れる現象が起きる。こんなところだ」

「うん。特徴だけ見ると確かに小原の可能性が高いな」

「だが精霊魔法は体内のエーテルを使って発動するのだろう? 小原にその兆候は無いと言っていたな」氷雨がまとめる。

「考えられるとすれば、無意識の召喚だな」

「無意識?」

「ああ。考えていたんだが、展開の直前の地鳴りはおそらくそのせいだろう。術者と大気のエーテルが共鳴した、おそらくそんなところだろう」

「そうかな?」

「ん?」

「ううん。たださ、めぐ美さんに召喚の兆候はなかったんでしょ? それなのに拘り過ぎるのは危険だと思う」

「テル。俺ならこう考える。小原は無意識でパペットを召喚した。原因は将への怒りだ。電車の中でぐったりしたように音楽を聞いていたのは、召喚によるエーテルの消耗のせいだ」

「違う。高校生が電車の中で音楽を聞くのは普通だよ。ぐったりして見えたのは気のせいだ」

「じゃあ、お前は誰が敵だと思うんだ?」

「それは、分からないけど。でも、でも、決めつけると視野が鈍る。そうなったら、肝心な時動けない」

「平行線だな」太一が目を閉じる。

「提案があるのだが」氷雨が口を開く。

「小原はダーリンが憎いのだろう。ならば、小原が憎めないように、小原と親しくなるとか、大原と友だちになるとか、方法はいくらでもあるだろう。戦いが全てじゃない。それで襲撃が止まらなければ敵は小原以外だった。決めつけるのはそれからでも遅くないだろう」

 俺は氷雨を見る。

「仮にそれが成功したとしよう。だがその時襲撃が止まらなければそれは俺たちの敗北だ。提案はもっともだ。明日から実行に移す。だが、もう一手、現状を打開する手段が欲しいな」

「策がない事もない」凛子が俺を見る。

「答えは、精霊に聞け、だ」

 俺たちの頭上に?マークが浮かんだ。

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