答えは精霊に聞け

第17話 答えは精霊に聞け 1/2


 生活指導室。中学の頃は第二の家と言っていいくらいよく呼び出された部屋だ。あの頃は反省文とかなかったし楽だったな。お茶菓子とか出たし。

 氷雨と二人、その生活指導室の前に立つ。ノックする。「どうぞ」と中から声がして俺たちは室内に入る。

「あら、ちゃんと来たわね。二人とも、座って」

 担任の山寺やまでら和子かずこが正面に座っていて、俺たちに向かいの席を勧めてくる。和子はもう盛りを過ぎた初老の教師だが、話が分からないやつじゃない。たまに身も凍るような親父ギャグを言う事を除けばなかなか悪くない担任だと言っていいだろう。

「嫌な話しはさっさと済ませちゃいましょう。昨日の事、先生に話してくれるかしら」

 言われて、氷雨が説明を始める。クラスに入るとテルがカツアゲされていた事、それを見て俺がモブを殴り、氷雨がそれに続いた事。そして授業中、めぐ美の精霊魔法を見て、からかった俺に正人がキレた事。そこで精霊魔法で報復した事。

「うん。事情は大体分かりました。他の生徒から聞いた話ともほとんど一致してるわね。でも麻生くん。サキュバスで言いなりにさせるなんて感心しないわね。力がある者は、力の使い方を誤ってはならない。自分の力に対する認識をもっと強めなさい。詩織しおりさんはそう教えてくれなかった?」

「えっ、師匠の、兄嫁の事を知っているのか?」

「ええ。私の教え子よ。あなたのお兄さん、ゆうくんも。二人は才能のある子だった。それまで見た事がないくらい。あなたも素晴らしい資質を持っているけれど、高校のあいだに二人に追いつこうと思ったら、今の倍は努力しないとね」

「分かっている。俺はまだまだ、全てにおいてあの二人に敵わない。だが、それは今はだ。必ず、俺は必ず、あの二人を超えてみせる」

「あら、案外熱い心を持っているのね。安心したわ。詩織さんから聞いた話では、あなたもっと大人しい子どもだったしね。それが実際見たら周りから奇人って呼ばれてる問題児。ちょっと戸惑っていたのよ」

「俺の性格は父親譲りだ。ちなみに兄は母親似だった。あと大人しいとかやめろ。せっかく積み上げた俺のイメージがあれするだろう」

「ダーリン。主役らしくなるように破天荒を演じてイメージ作りとかしてたのか」

「やめろぉー、やめてくれぇー」

 あながあったら挿入はいりたい。師匠、和子にどんな話をしたんだ。

「ところであなたたち」

「なんだ?」

「学級委員、やってみる気ない?」

「断る」

「まあ聞きなさい。学級委員をやれば、もっと二人でいられるわよ。クラスの行事、今月ある林間学校、何より今疑われているクラスメイト襲撃事件の汚名を晴らすためにも役に立つ。碓氷さん、あなたはどう?」

「喜んでやらせていただく」

「はえーな」

「ダーリン。やるしかないぞ。ここで退いては女が廃る」

「ボク男の子だし」

「ダーリン。恐れるな。恐るるは武田が騎馬ではなかったのだ。チンポこそ、時代と言う名のマンコに突き立てられた…」

「伏せて、伏せていこう」

「御心のままに」

 そんな俺たちの様子を見ていた和子が微笑んで一つ手を叩いた。

「決まりね。帰りのホームルームで発表するから。それと例の襲撃事件、絶対早期解決するわよ」

「先生。我々にお任せください」

「おい、俺はまだ…」

「麻生くん。男は度胸よ」

 別に度胸とかじゃなくてただ単純に面倒くさい。

 そう思っていると、和子が静かな目で俺を見つめる。

「高校生活ってね、そこにいる時は何でもないのに、気が付くとあっという間なのよ。あの時ああしとけば良かった、もっと上手くやれたのに。後から思う後悔、そのやるせなさ、有くんを失ったあなたになら分かるでしょう」

「………」

「こんなに純粋で一途なカノジョと一緒なのよ。何を迷う事があるの?」

「ダーリン。もしかして嫌なのか、嫌なら私は別に…」

「やるよ。やるしかないではないか。ここで退いては男が廃る。氷雨、黙って俺について来い」

「ああ、この命尽きるまで、傍らに立ち共に歩く」

「なんかほんとに、年甲斐もなく焼けちゃうわね」和子が笑った。


「それで、何で私があんたと組まなきゃいけないんだ」

「喜ぶな。妻を蔑ろにして何が夫だ」

「もういいよ、妻とか」

 放課後、クラスで俺と氷雨の学級委員就任が伝えられ、俺と凛子は早速下校中の生徒を監視する任に着いた。

 最初の山場は帰宅部が帰るこの時間、もう一つが部活後の生徒が帰る時間だ。風紀委員が駅やバス停までの道筋に配置され、俺たちはうちのクラスの生徒の後を歩く。

「あいつらゲーセン寄る気だぞ」

「良し、俺たちもプリクラ撮るか」

「何であんたと。あーあっ。私帰ったらバイトあるのに。こんなとこで体力使いたくないよ」

「お前バイトしてたのか。何やってるんだ?」

「スーパーの品出し。レジとか向いてないし」

「ふーん。太一は剣道部だしな。俺も何か始めようかな」

「当分はこの仕事優先だろ。でも上級生の風紀委員もいるし。私たちの出番はないか」

「そう言えばテル、今日も先に帰ったな」

「ああ。病気とかほんとね。魔法がいくら発達してもそう言うの全然意味ないっていうか。たまに思うよ、私たちがいくら魔法を覚えても、結局それは争うための道具なんだよね。鏡花の言葉、なんか真理だったのかな、とかね。高校まで魔法勉強しても、魔法と全然関係ない仕事に就く人も多いし」

「それは部活も同じだ。テニスをしたら就職が有利か? もっと言えば勉学が社会で役に立つか? ただ効率を求めるなら中卒で働きに出るのが一番無駄がない。魔法とは結局手段だ。ほとんどの人間にとって、魔法を学ぶプロセスと過ごした経験が、もしかしたら役に立つかもしれない、その程度だ。技術としての魔法は、残念ながら今はまだ利用価値が薄い」

「人間が自力で使える魔法なんて、ほとんど機械で代用可能だしね。昔の人が思う魔法らしい魔法は結局精霊の加護の元だし。炎出せても何にも意味ないよ」

 凛子と愚痴を言い合う。

「そうだ、さめさめとはもう初デートした?」

「まだだ。あいつもケガはほとんど治ったし、いよいよただれたセックスの出番だったんだがこの件が起こってお預けだな」

「ふーん。将はもっとがしがしいくタイプだと思ってた」

「なんだその言い方は。まるで俺がチキンみたいではないか」

「そうじゃないけど、なんか思うんだよね。将は実は案外普通の感覚持ってて、本当の将は、なんだろう、良いやつなのかなって」

「どうした、急にデレ始めたな」

「そうじゃないって。でもさ、鏡花の時もさめさめの時も、一番めちゃくちゃ言ってるのに、最後はなんか、従える。こいつなら大丈夫だって安心感がある。さめさめはそれを見抜いてたのかな?」

「知らん。おい、待て。モブがいないぞ」

「あっ、本当だ。しまったな、つい話し込んじゃった」

「仕方ない。どうせ何も起こらんだろう。ジョナサンでコーヒーでも飲んで時間潰すか」

「将のオゴリならいいよ」

「それくらいオゴってやる。バイト代が出たらまた餃子屋さんに食いに来い」

「気が向いたらね」

 その後、凛子はバイトに行って、部活後の太一と氷雨と二回目の見回りをしたが、特に何も起こらず一日が終わった。

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