君に会いに異世界へ行く
徳川レモン
第一章 冒険の始まり
プロローグ
枯れ葉の舞う冷たい風が、僕の顔に吹き付けた。
最近では、寒気の影響か雪だってちらほら見かける。今は冬だ。
僕は
容姿は普通。身体能力も普通。性格も普通。いや、性格だけは臆病かな。
そんな僕にも幼なじみがいたりする。
家が近所と言うこともあり、僕らはいつも決まって一緒に帰っていた。
「たっちゃん聞いてる?」
「ああ、ゴメン。全然聞いてなかった」
霞が口を膨らませて怒っている。
黒く艶やかな長い髪に、ぱっちりと大きく開いた瞳に厚みのあるピンクの唇。長く艶やかな黒髪は、風が吹くたびに絹糸のように舞う。美少女だと誰もが思うだろう容姿だ。
彼女に睨み付けられた僕は「ごめん」と平謝りする。
すると、プフッと表情を緩めて笑顔になった。
「たっちゃんはもう進路決めた?」
彼女がセーラー服のスカートをひるがえして質問する。
こんな一つ一つの仕草がたまらなく愛らしく感じた。
彼女は僕にとって特別な存在だ。
幼くして両親を事故で亡くしてしまった僕は、住んでいた街を離れて知らない街の知らない家へと引き取られた。当時のことはあまりよく覚えていない。もう両親とは二度と会えない事だけは理解できた。
僕は段々と心を閉ざしていった。学校では友人を作らず、ただ窓の外を見て時間を潰した。家に帰っても部屋に閉じこもる。孤独だった。この世界にたった一人だけ置き去りにされた気分だったのだ。そんな僕へ友達になろうと声をかけてくれたのが霞だった。彼女の明るさと強さに僕は救われた。今の僕は霞が作ったと言っても過言ではないほどだ。
……ただ、僕らはあくまで友人だ。恋人ではない。
家が近所で毎日同じ道を一緒に帰っていても友達だ。
はっきり言おう。僕は霞が好きだ。愛していると言ってもいい。クラスの連中が霞に目をつける遙か前から、僕は彼女の事が好きだったのだ。
そして今日、幼なじみの壁を打ち砕こうと考えている。そう告白だ。
友達から晴れて恋人になるには、弱い心などドブに捨ててしまえばいいのだ。
「コラ、また話を聞いてないね!」
「あ! ゴメンゴメン、僕は就職しようかと考えているんだ」
「おじさんとおばさんが理由?」
その通りだ。お世話になっている家は、父さんの弟であるおじさんとおばさんが住んでいて、居候の僕はいつも厄介者扱いされている。
そんな僕が大学に進学など認めてくれる筈はないし、学費だって出してくれることはないだろう。養っているのは、父さんの残した財産が目当てなのは承知しているし僕だって子供ではないので、お互いの得られるものと失うものを天秤にかけて生きているのだ。まぁそれくらいないと育てる気にはなれないだろうし、少なからず感謝はしている。
「早く社会人になってあの家から出たいんだ」
「そうなの、一緒の大学に行きたいのに……」
「いいさ、一足先に社会人になって霞に自慢してやるからさ」
霞は「もう、調子が良いんだから」といつものように声を漏らす、人生前向きに生きないと楽しくないだろ?
「ねぇ聞いて! 最近何処にもぶつけていないのに、痣が出来るんだよ!? なんでだろ!?」
「どうせ知らずにぶつけているんだろ? 霞は良く暴れるから自業自得だよ」
「本当にぶつけてないんだってば! もういいよ!」
そう言ってお互いに笑い合う。夕日が照らす彼女の横顔は綺麗だった。
僕は告白のタイミングを見計らう。
「な、なぁ、霞は好きな人とか居るのか?」
「ん? 居るよ?」
軽いジャブのつもりで振った話が予想外に重い一撃だった。
ボディを右フックで殴られたような衝撃だ。
好きな人が居るのか? 誰だ? うちのクラスならイケメンの竹田か? だけど頭が良いのなら隣のクラスの新藤だよな? もしやサッカー部の佐々木か? あいつはダメだ、あいつは女たらしで有名なんだぞ! 大切な霞を任せられない! 一体誰なんだ!?
「そ、そうか。じゃあ僕が応援してやるよ」
しまったぁぁあ! 告白のタイミングを逃したぁあああ! 応援って何だよ!
「…………ばか」
彼女は家の中へと入ってしまった。いつの間にか帰宅時間は終わっていたようだ。なんでだ! なんでこんな絶好のタイミングを逃すなんて呪われているのだろうか!?
赤く輝く夕日を見ながら激しく悔やんだ。
――そして三日後
霞が白血病だと診断された。
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