小さな戦士と大きな村娘の話

hirose koya@ramenman

第1話 戦士と村娘



あるところに背丈が143cmしかない戦士と190cmもある娘がおりました。

二人は同じ村に住む仲良しコンビでした。

娘が年頃になると、遠くの国から縁談が舞い込みました。

戦士は彼女がお嫁に行くことよりも遠方に行ってしまうことが悲しくてたまりませんでした。

一方で、娘には幼いころよりすいているひとがいました。

それは、村はずれに住む画家で、作品を求めてさまざまな国から画商が足を運んでくるほどでした。

画家は、この村の自然がとても好きでした。だから、俗世間のことについては感覚が愚鈍になっていました。あるとき、屋敷の近くにある湖畔で絵を描いていると、反対側のところに女性の姿を見ました。それは、距離の離れた場所からみても性別がわかるほど身長が大きく、思わず画家はその姿に見とれてしまいました。完成させた絵には、青く透き通る湖の姿ではなく、巨大な黒い影。二つの小さなおさげの巨人の女のものでありました。


「娘さん、娘さん。丘の上に住む画家ですが、あなたのために絵をこしらえました。よろしければ、受け取ってはもらえないだろうか。」


画家は、娘の身元を調べ、家まで押し掛けるといった。

だが、娘は嫁入り前・・・すいているひととはいえ直接会うことは許されなかった。

会いたい、話したい、見てもらいたい・・・画家に対する多様な気持ちが交錯する中、娘が嫁ぐ日となった。村中が祝福ムードにあふれ、お祝いの品やテープで前が見えないほど。

その騒ぎは画家の家にも届いていたが、見る気にはなれない。ひたすら絵を描くことしかできなかった。


娘が嫁いでから一か月、戦士は様子を見に行こうと、有給休暇をとり遠い国へ出かけた。

村のある国は現在春でやわらかい空気が体を包み、道中は無事進んだ。

しかし、いざ遠い国の中間地点である狭間の国に差し掛かると、盗賊に襲われそうになったり、悪魔からの間の誘いを受けるなど、災難が襲った。


「こんなに苦難があるなど・・・おかしい。聞いた話では道中も安全であるということではなかったか。」


疑問に思った戦士は、村へと引き換えし、その旨を村長に伝えた。

村長は、その話を聞き終えると、急に深刻な顔に。

しばしの無言の果てに、彼は口を開き、「すまん。」とだけ発したかと思うと、口をへの字に曲げこう続けた。


「私は、自分の業に負けた弱きものだ。どう詫びればよかろうか・・・」


と、ぼそぼそつぶやきはじめ、ついには戦士を前に土下座をし、懺悔し始めたのだ。

神様、仏様、戦士よ。私はあなた様方の大事な御子を酒池肉林のために差し出したのです。あぁ、お許しくださいませぇ~~~。と、祈る。その目には、誰のことも移しておらず、ただ天の方を見上げひたすらに頭を下げていた。しばらくすると、彼の挙動は落ち着き、泡を吹いて死してしまった。

この様を間近で見せられた戦士は、身をたじろぎそうになりながらも村長であったものの遺体を誰にも見つからぬように埋葬するとその場を立ち去った。

気が付くと、戦士は生家の前に佇んでいた。


「わ、私はなぜ・・・・」


ただただ、自分があの出来事にどれだけ狼狽し、混乱し、ここまで来てしまったのかを理解した。そして、急に恐ろしさを感じた。

村長が生前言っていたあの言葉を、男は知っていた。それは、昔・・・戦士と娘が幼いころ出会った巨人が最後に口にしていたことだったからだ。「自らの業に負けたものは、私のように異形か、異常者と変化する。それがこの世界のすべてだ」と。



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