六日目のランダム・レッカー
九北マキリ
序 ディスアピーア(消失)
奇妙な噂だった。
都市が消えるというのだ。
富み栄えている都市。
貧しさに疲れ果てた都市。
先端科学の発達した都市。
暴力のただ中にある都市。
消えた都市はその規模も抱える人々も、状況も様々だった。
この百五十年、移民たちは日々の暮らしに精一杯で、遠く離れた都市の不幸を、いつまでも記憶に留めたりはしなかった。
生活に直接関係のないことは忘却という名の友人にまかせ、もっぱら自分は平穏と安寧と、繁栄を手に入れるため、必死にあがいていた。
みな、いつか自分の住む都市も消え去ると無意識に予感していた。
それがなぜなのか、どうしてなのか分からないのに、心のどこかでかすかに、そう確信していた。
噂は、やがて伝説に変わった。
星の表土にいくつか残された巨大な穴は、かつてその場所に都市のあったことを示す明らかな証拠だ。にもかかわらず、そこを探しても、ひとつの破片も、ひとりの死体も見つからない。
まるで虚空にでも消えたかのように、人知れず、前触れもなく都市たちは消失していった。
――いや
前触れはあった。
ただ、誰も信じなかっただけだ。
そのとき。
警報は都市全体に鳴り響く。
予告通り、しかし予想外に『それ』は姿を現した。
千人の武力も、万人の懇願も、一切の抵抗は空しく、すべての企てはことごとく徒労に終わった。
なにも、誰も残されなかった。
直後に起こった地震は、証拠すべてを地に葬っていく。
ロートランドは地上から取り去られた。
はじめから創造されなかったように。
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