第9話 ロロキストの修行②



「村長っ!ギルドからの奴が来ましたっ」


「何っ、本当……か……ん?こんな子供が?」



 俺は村の中心らしい場所に佇む一件の小屋に連れてこられていた。


 中には年老いた老人と中年の女、そしてベッドに俺と年近そうな少女が寝ていた。



「え、えぇ……多分。俺の知り合いがギルドからでかい剣を両手に持った若者が行くからそいつに任せろ……と」


 ん? でかい剣を両手に……?

 若者? そんな異常な奴いるか?


「……うむ、サイク。その知り合いとやらは信用できるのだな?」


「えぇ、あいつは信用できます」


「そうか、ならばその少年で間違いなさそうじゃな」



 何だ、何の事だ。

 ただ分かった、異常な若い奴は俺だ。俺の事だ。


「……少年、君は治癒使いなのだろう?頼むっ!孫を助けてやってくれ!手に入る薬草は全て試したのだ。だが一向によくなる気配がない」


「お願い致しますっ!私の……娘を……リアンを、助けてやって下さい!」



「あ、えっ……えぇえ」



 おいおいおいおい……なんだよ、どうなってんだよこれ。

 俺が治癒使い? 治してくれ?


 師匠ぉ……いや、くそボケぇ!

 説明しろよぉ!



「リアンは昨日から高熱と体の痺れを訴えて……今日になったら……意識が……くっ、森でフライドビーに刺されたのか」


 どうやらこの若い男と中年の女は夫婦らしい。

 で娘のリアンとやらがこのベッドに寝ている少女だろう。


 それであの俺が苦戦した蜂に刺されて猛毒に?

 でも薬草は試したって……


「……毒ならキュアソリューションで治るんじゃ……?」



 キュアソリューションは大体の状態異常なら治せる筈だ。

 ジンクスの街にも売っている筈だが……



「キュアソリューション……俺はそれを買いに街に出たんだ。だが……情けない、俺には1000000メタルも用意できないんだ。そこで昔の知り合いに会ってな……」



 キュアソリューションってそんなすんのぉっっ!?

 高ぁっっ! 誰が買うんだよ、そんなもん。


「知り合いって……もしかしてシェインの事、ですか?」


「あぁ、あいつとは幼馴染みでな……旅に出てるって聞いたが何やらジンクスの街に今はたまたま居て……助かったよ、若い見習い治癒魔術士とはとはいえただでいいなんて……くっ、アイツらしい……」




 ただで……って。

 まぁそこはいいか。

 くそ師匠……。

 シェインのあの厭らしい笑みが脳裏に浮かぶ。



「分かりました……ちょっと娘さんを見せてください」



 少女の頭に触れてみる。

 すごい熱だ。

 しかし本当に大丈夫だろうか……いや、やるしかない。

 背水の陣だ、自分には上手くできたじゃないか。


「どうだ……治りそうか?」



 背後からプレッシャーをかけてくる若き父。


 おぅぇえっ……緊張で吐きそう。



「や、やってみます」



 よし、いけ、俺。俺は毒使いロロキストだっ!


「ポっ……」


 いやまてまてまて。

 ポイズンは不味いだろ。

 それは明らかに不味い……そうだ、名前を変えても行けるだろうか。

 詠唱に関わるか?


 いや、意識の持ち方も同じなら問題ない筈だ。

 確かミルーナさんはキュア何とかって……言ってたっけ?



「まぁいいや……キュア、ポイズンレベル零!キュアパラライズレベル零っ……」



 どうだ……? 成功したか?



「君今まあいいやとか何とか……はっ!?」




「……お、母さ、ん?」



「リアンっ!?」

「リアンっ、大丈夫なのっ!」



 ……ほ、大丈夫だったのか。

 成功した……よかった。



「リアン、体はどうだ?!」


「お父さん……うん、少し痺れてるような気がするけど、大丈夫」


「よかったっ!あぁ、リアンっ。ありがとう、ありがとうございます」



 母は涙ながらにお礼を言ってきた。

 こんな経験は初めてだ。

 人から嫌われる事はあっても感謝される事なんて無かった。

 なんだろう……いいもんだな。

 俺のこんな……魔術が、役に立つなんて。



「あ、あの……まだ見習いなものですから……その完治、とまではいかないですけど明日には良くなると思いますので」



 レベル零の魔術だ。効果なんてたかが知れている。

 でも状態異常をかけたなんて知ったら怒るだろうなぁ……。



「ありがとう、少年!疑って悪かった……名前を、聞かせてもらってもいいか?」


「え、あ……ロロキスト、と言います」


「ロロキスト君か、ありがとう。この恩は忘れないよ」

「ありがとうございます、ロロキストさん……」



「い、いえ……」



 そんなにお礼を言われたら照れるじゃないか。慣れてないんだ、俺はそう言うの。

 しかも治したんじゃなくて、むしろ病気にしたんだ、感謝されればされるだけ胸が痛い。



 とりあえず、これがシェインの目的だったわけだし……早く帰って文句の一つでも言わなければ。


 くそ、一体いつになったら剣の稽古をつけてくれるんだあの人は。



 俺は感謝の嵐を背に、村からいそいそと逃げ出したのだった。

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