第3話 野外の戦闘①


 武器も買えたことだし次は実戦か。

 大丈夫だろうか、野生の魔物なんて戦った事がない。

 いや、校内で飼われている魔物とは何度かやっているが……あの時は教官もいたしな。


 腰に先程安く譲ってもらったショートソードを差しながら街をフラフラ悩み歩く事数十分。

 街の酒場の裏手に出た様だ。


 中からは賑やかな騒ぎ声と何処か聞きなれた声が聞こえた。

 小窓から少し中を覗き見てみる。



「……げ、イルだ。」


  名前と感嘆詞を混ぜてしまったがまぁいいか。


  何やらゲイルの他に三人程、いつもつるんでいるメンバーが生意気に酒を煽りながら話し込んでいる様だった。



「っくそ、レイス……何であんなゴミ野郎に引っ付いてやがる」

「ゲイル……まぁだ狙ってんのかよ。あんな生意気な女のどこがいいんだ?」


 ゲラゲラと真剣に悩んでいるらしいゲイルを笑う仲間。


「他にも女なんて腐るほどいるじゃねーか、お前ならいくらでも手に入んだろ?」

「だからこそなんだよっ!何であいつは俺に靡かねぇ?何でよりによってあんなクズに……」



 クズクズクズクズ……まぁその通りだ、俺も同じことを思うよ。


「んならょ、とっととロロキストの奴潰しちまやぁいいじゃねぇか」


「……っち、出来りゃあやってる。分かってんだろ?あいつの親父は今も英雄だ。教官達だってロロキストの野郎を忌み嫌ってはいるが、口には出せねぇ。そう言うのが七光りなんだ……魔術もまともに使えねぇあんなゴミがよ、普通対魔術執行員の訓練校に入れるかっての!」



 あぁ……分かってはいるが、いつもの事だが、聞いてるだけで吐き気がする。

 自分の悪口ほど聞きたいものはないな。



「どうせレイスもよ、七光り目当てなんじゃねーのか?英雄の息子と結婚して英雄の妻に……ってなぁ!ハハハハッ」




 ……あぁ、そうか。ってそんなもんに何の意味があるんだよこの能なしめ。



「てかゲイちゃんさ、もうこの際だから今度の試験の時にでもレイスの事やっちゃえば?そんでやるだけやって後は適当に魔物に喰わしてぽい、みたいなぁ」



「おっ、それいいじゃん!たまには面白い事言うなドーン。ゲイル、そうしろよ?別にやれりゃあいいだろ?」


「……っ、かっ野郎!!俺はそう言うんじゃねー……よ……」




 何かとんでもない話になってきたな。

 どうするか……これから踏み込んでこの野郎するか?

 いや、まだ何もしてないじゃないか。そんな事より俺が出ていって何とかなるか?

 相手は四人……しかもトップ10が二人もいるじゃねーか。


 くそっ、情けないな俺は。



「ゲイル……俺も……実はレイスと……やりたい……」


「ハハハッ、フローズン!お前も好きだなぁ!!」



「ざけんなっ!お前らっ!フローズン……てめぇも次言ったら殺すぞ……」


「おいおいゲイル……止めとけ、お前じゃ勝てねぇよ。それによ、いいじゃねーか?俺らが悪者になってよ、そこにゲイル、お前が助けに入るって算段でよ?」



「……う、それは……いい、案だけどよ……」

「だろぉ?」



 俺は結局そのまま酒場を後にした。

 今までの話を聞く限りどうやらゲイルは本気でレイスの事が好きらしい。

 正直言ってレイスも俺みたいな奴といるよりあいつといた方が幸せになれる気がする。



 半ば自暴自棄になりながら俺は街を出た。




――――



「はぁ……」


 何だかやる気が一気に失せたな。

 俺にとってレイスは意外とでかい存在だったのかもしれない。

 胸もでかいし……ってそれは今はいい。

 でも実際顔もスタイルも成績もいいアイツだ、俺なんかと一緒にいるべきじゃない。





 ……と、そんなナイーブな気持ちは目の前の生物によって瞬時に掻き消された。



「……フライドビー」


 気づけば随分と街から外れた森まで来ていた。

 フライドビーは主に森の木々に巣を作る魔物。自由自在に空を舞い、猛毒の針を敵に発射して弱った所を捕食する肉食大型蜂だ。


「あぁ……ぼうっとし過ぎだな俺は」


 ここは魔物達の居城、気を引きしめないと。



 反射的に腰から買ったばかりのショートソードを抜き放つ。


「サァっ!」


 横凪ぎの一閃。

 訓練で習った通りのお世辞にもキレがあるとは言えないそのマニュアル通りの斬撃は無情にも空を切る。


 羽音が耳障りに俺の周りを飛び交った。



「やっぱり早いよな……くそっ」


 訓練でもフライドビーとの模擬戦はあった。

 だが周りの奴等が魔術を行使してあっさりと倒す中、俺だけは結局倒せなかったのだ。

 やられる事も無かったが……。



――ビシュっと、咄嗟に音のした方を振り向くと既に俺の肩口には拳大の尾針が突き刺さっていた。



 俺は針が刺さった腕とは反対の手でそれを抜き取ると、直ぐ様意識を集中させ傷口に手を当てる。


 フライドビーはその間敵が弱るのを待っているかのようにホバリングを続けていた。



「猛毒だ……早くしないとっ、ポ、ポイズン……レベル零!」


 体の気だるさ、痺れが段々と無くなっていく。

 フライドビーは未だに自らの針毒で弱まる筈の敵を待っている様だった。



「相手が悪かったよ、蜂。っつっても俺もお前を倒せそうに無いけどな……」


 付与三属の一つ毒属魔術。

 その魔力は主に魔物が持つと言われ人族での確認ははっきりされていない。

 そして毒による毒の上掛け。

 これは俺が編み出した技だ。

 どんな猛毒であろうが次にかけた毒は前者の効果を打ち消す。

 付与魔術は基本的にそういう構造らしい。

 二重掛けは出来ない。


 今俺の体内ではレベル零、即ちほんの微弱な毒が支配している。

 そうだな、レベル零なら微熱って所か。


「さて……どうやったら倒せんのかな、この蜂は」



 俺の無力な魔術は一体何の意味があるのか……ショートソードを構え直し、俺は今後の人生に溜め息をついた。

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