オジサンと七人の小人
きみまけ さや
第1話 オジサンと神殿
瞬きをするとそこは何処かわからない場所だった。
今の今まで一緒に行動していた友人達も辺りには見えず、歩いていた森とは違う世界が目の前には広がっていた。まるで神殿のようなその場所の入り口に中年のオジサンはただ立ち尽くしていた。
しばらくぼーっと立ち尽くしていたオジサンであったが、やがて周辺の様子を探り出す。いかにも神殿風な建物と、それがすっぽり入るほどの空間。壁が淡く発光していることから視界は確保されているが、明らかに洞窟の中といった様子の場所であった。生き物の気配はない。危険な様子もない。そう判断したオジサンはとりあえず胸ポケットに入っていたタバコを取り出しくゆらせ出した。
「ふーっ・・・。はてさてここはどこかなと」
誰に問いかけるでもなく独り言が煙と共に吐き出される。だだっ広い空間にオジサンの声だけがむなしく響く。あわよくばこの声を聞いて神殿から誰か出てきてくれないかと考えていたのだが世間はそこまで優しくないらしい。
上を見上げてみる。もしかしたら歩いている最中に地面が抜けて落ちてきたけど神がかり的な身体能力でなぜか無傷でこの場に立っていたとか・・・・確認しているのであろうが無理だろうどう考えても。
神殿の入り口の扉はしっかりと閉ざされており、中の様子をうかがい知ることはできない。しかし、オジサンの直感が告げている。危険性はないと。
「そろそろ行かないとな・・・っとなんだ?」
動き出したその時に身体の中に違和感を感じる。何かが強制的に目覚めているような、身体の中を細い蛇が這うようなむず痒い感覚に一瞬怯む。しばし深呼吸を続け、その感覚が収まったのを確認して再び歩き始めた。
「気持ち・・・悪くはなかったかな?」
ちょっとあれな経験を思い出してハニカムオジサンであった。
扉の取っ手に手をかけると案外スムーズに扉が開いた。中は一般的な木製のベンチが並ぶ礼拝堂だった。正面に見たことのない女神像と、神々しく光り輝くステンドグラス。神聖な雰囲気が漂っている。
ステンドグラスから差し込む光の下に奇妙なオブジェクトがあった。
光り輝く剣と、黒い闇を携えた杖が鍔迫り合いしたままの姿で立ち尽くす骸骨が二体。仕打ちの様相で絶妙なバランスで立ち尽くしていた。
そもそも、オジサンのいた時代では目にかからなかった実用的な剣や杖が珍しかったこともあってその場をぐるぐる回りながらつぶさに観察していた。勇者と魔王なのだろうかとか、仲間割れかしらとか妄想は膨らむばかりだ。しばらく観察していたが、どうにもこの骸骨たちをきちんと埋葬してあげたくなった。決して剣や杖が高くれるかなーとか考えたわけじゃない。ないったらない。
「・・・これ絶妙なバランスだわ。どっちか先に取ると崩れるね。ならば!」
妙な気合いとともに剣と杖を同時に取り上げようと触った瞬間にオジサンはまた別の場所にいた。
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