春の夢の如く

猫井 咲良

序章

第一章 恋の始まり

彼の日記 ~その一~


 子供のころからだったと思う。

 ひとより少し、力が強い。

 怒りっぽくて、手や足がすぐに出る。

 だからよく、喧嘩けんかもしたし、他の子を泣かせるなんてしょっちゅうで。

 それは小学校に上がっても、中学に上がっても、変わることはなかった。

 自分の力と、他のひとの力が、かけ離れた以外は。

 何人相手でも、勝ててしまう。大人であっても。同い年でも。

 強い者は狙われるというが、それは本当で、常に誰かが喧嘩を売ってきた。

 めんどくさくて、それを全部倒し尽くしたとき、自分はこう呼ばれていた。


 『バケモノ』


 しかし、自分を喧嘩の相棒として慕ってくれるものがいたから、寂しいわけではなかった。

 ただ、学校では避けられていた。

 自分から関わるのも苦手だったから、暇な授業もお昼も寝てばかりで過ごす。

 そんな日常を、変えたやつがいた。

 中学二年の春。転入してきたそいつは、皆が避けるはずの自分に、笑顔を向けた。

 怒りもなく、怯えもなく、ただ呼んでくれた。

 それが、どれだけ嬉しかったことか。

 きっとそいつは知りはしないのだ。



































 彼の日記は、そう始まった。








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