冬の向日葵
わたなべ
別れ
2016年11月
「どうして……どうして、こんなことになってしまったの…」
私は、一枚の写真を手に取り、じっと見つめながらそうつぶやいていた。
もう、同じことを何度つぶやいたのだろうか?
百回?二百回?いや、千回以上はつぶやいたのだろうか?もう、忘れてしまった。
「私のせいだ……私のせいで、あの人は死んでしまった。」
見つめたその写真には、二人の男女が顔を寄せあい微笑んでいた。
女性のほうは『冬野ひまわり』私だ。
男性のほうは『高橋涼太』5歳年上の私の彼氏だ。
いや、彼氏だったというべきか。
「涼太……ごめんなさい……ごめんなさい……」
今さら何度謝っても、涼太は、もう二度と帰ってはこない。
涼太は、3年前のクリスマスイブに、交通事故で亡くなってしまった。
私のせいで……
私は、カーテンを閉めきった薄暗い部屋の中で、いつまでもいつまでも謝り続けていた。
私は、その夜、夢を見ていた。
涼太と付き合うようになったときのことや、決して忘れることができない、あの事故のことを……
2011年4月1日
「ひまわりー!何をしてるの、もう7時10分よ。早くしないと遅れるわよっ。」
一階から、母が呼ぶ声が聞こえる。
私の名前は『冬野ひまわり』22歳。
誕生日は、6月11日。
夏に生まれたので、花が好きな母が、『ひまわり』と名付けた。
名前のせいかは分からないけれども、身長がグングンと伸びて、今では170センチメートルくらいある。
今日は、私の初出勤の日だ。
私の家から駅まで、自転車で5分。
7時20分の電車に乗って、7時40分に会社の近くの駅に到着。
そこから徒歩5分のところに、会社がある。
急がないと、初日から遅刻などしていては、シャレにならない。
私は、急いで支度を済ませると、自分の部屋を飛び出し階段を駆け下りた。
「お姉ちゃん、おはよう。いってらっしゃい。初仕事がんばってね。」
妹の『さくら』が、玄関で声をかけてきた。
さくらは、16歳。
誕生日は3月3日。
春に生まれたので、花が好きな母が、『さくら』と名付けた。
この春から、高校二年生だ。
私と違って、身長は155センチメートルくらいしかない。
両親は、
「ひまわりが、さくらの分まで吸いとったんじゃない?」と、笑って言ったものだが、私は、けっこう本気で、ひまわりという名前のせいじゃないかと思っている。
「あっ、おはよう、さくら。あなたは良いわね。まだ春休みで。」
私は、この春に大学を卒業して、今日から社会人だ。
社員20人ほどの、あんまり大きな会社ではないけれど、事務員として働くことになっている。
「良いでしょう。学生の特権だね。」と、さくらが笑う。
「あなたたち、何をやってるの。ひまわり、早く行かないと遅刻するよ。」
母が玄関までやってきた。
母の名前は『
今は、退職して専業主婦だ。
母は、記憶力が抜群にすごくて、一度会っただけの人でも、ずっと覚えている。
「いけないっ!遅刻しちゃう、もう行かなきゃ。」
私は、急いで靴を履くと、玄関を飛び出した。
「ひまわりちゃん、おはよう。今日からお仕事?」
道路に出たところで、一人の50代くらいの女性が声をかけてきた。
「あっ、亀井先生、おはようございます。今日から仕事です。」
隣に住む、亀井先生は、近所の亀井医院の内科の医師だ。
「いってらっしゃい。がんばってね。」
「いってきます。」
2011年4月28日
私が社会人になって、もうすぐ一ヶ月になる。
お昼休みに、いつものようにお弁当を食べていると、一人の長身の男性が声をかけてきた。
「やあ、冬野さん。どう?仕事は慣れた?」
「あっ、えっと……営業部の、高橋さんですよね?」
私は、入社初日の歓迎会のことを思い出しながらこたえた。
「そうだよ。覚えてくれていて、嬉しいよ。」と、高橋さんは微笑んだ。
「仕事は慣れた?」と、高橋さんは再び聞いてきた。
「はい。だいぶん慣れてきましたけど、まだまだ、分からないことも多いですね。」と、私はこたえた。
「そうか、分からないことがあったら、なんでも俺に聞いてよ。じゃあ、昼からも仕事がんばってね。」
「ありがとうございます。」
そして、高橋さんは外へ出かけていった。
営業部の人が、事務員の私に何を教えてくれるというのか、不思議な気もしたが、あんまり深くは考えなかった。
「ちょっとちょっと、冬野さん。見てたわよ。」
声のするほうを振り向くと、事務の先輩の川島結衣さんが、ニヤニヤしながら、私を見ている。
川島さんは、高橋さんと同期入社、
「彼、あなたのことが好きね。間違いない。」と、うなずきながら、一人で納得している。
「えっ?そんなこと……」
私は、胸がドキドキするのを感じた。
「おっ、顔が赤くなった。冬野さん、あなたもまんざらでもなさそうね。」と、川島さんが、からかってくる。
「ちょっ、ちょっと、川島さん。何を言ってるんですか。そんなんじゃあ、ないですよ。」
私は、慌てて強く否定した。
それからしばらくして、私達は付き合い始めた。
そして2年後、あの日を迎える。
私達の運命を、大きく変えることになる、あの日を……
2013年12月24日
今日は、クリスマスイブ。
今年も残りあとわずかだ。
私は、いつものように、5時に仕事を終えた。
「川島さん、お疲れ様でした。」
「冬野さん、お疲れ様。今日はこれから、高橋君とデートなんでしょう?」と、川島さんが聞いてきた。
「あっ、はい。」
「そうかそうか。今日は……」
川島さんが、ニヤニヤしながら私を見ている。
「川島さん。なんか変な想像してませんか?」
私は、ちょっと怒ったように言った。
「まあまあ、照れなくてもいいから。」
「もうっ!照れてないですよ。」
「はいはい。わかったわかった。」
本当にわかったのか、怪しいものだ。
「それじゃあ、明日は遅刻しないでね。」と、ニヤニヤしながら言うと、川島さんはダッシュで会社から出ていった。
「あっ、待って!もうっ!川島さんったら。」
私は、走っていく川島さんの背中を見送った。
そうだ、こんなことをしている場合ではない。
私は、急いで会社を出た。
「あー、寒い。」
外へ出るなり、私は、思わずつぶやいた。
外は昨日からの雪で、車道は雪をあけてあるが、歩道は雪がまだ残っている。
今は雪は降っていないけれど、天気予報では、今夜からまた雪になると言っていた。
私は、一度電車で帰宅した。
「ただいまー。」
「おかえりなさい。お姉ちゃん、今日は涼太さんとデートじゃなかったの?」
さくらが、驚いた顔で聞いてきた。
「着替えてから出かけるよ。」と、言いながら、私は二階へ上がった。
私の部屋は、名前のとおり黄色を基調とした部屋だ。
ちなみに、さくらの部屋は、名前のとおりピンクを基調とした部屋だ。
私は、着替えを終えて一階へ降りると、
「いってきます。」と、父と母に声をかける。
「いってらっしゃい。なんか今日、大きな事故があったみたいだけど、ひまわりも気をつけてね。」と、母がこたえる。
玄関を出ようとすると、さくらが、
「お姉ちゃん、今夜は帰ってくるの?それとも…」と、ニコニコしながら意味ありげに聞いてくる。
「もう!何を考えてるの。子供は、そんなこと気にしなくていいの。」
私は照れながら言い返した。
「子供って。お姉ちゃん。私も、もう大学生だよ。」
「まだ未成年なんだから、子供は子供よ。」
「ふーん。まあ、どうでもいいや。早く行けば。」と、さくらが、ふてくされたように言う。
川島さんといい、さくらといい、みんな考えることは同じなのね。
「もうっ!それじゃあ、行ってくるね。」
「はーい。いってらっしゃーい。」
私は、自宅を出ると、歩いて駅へ向かった。
涼太とは、6時30分に駅で待ち合わせをして、7時にレストランで食事をする予定だ。
涼太は、営業先から直接来ることになっている。
夜の街は、クリスマスのにぎやかな雰囲気に包まれている。
すれ違うカップル達も、とても幸せそうだ。
駅に着いて時計を見ると、6時20分。
あと10分もすれば、涼太もやってくるだろう。
約束の時間を5分ほど過ぎたけれど、まだ涼太はやってこない。
さらに10分ほど過ぎたけれど、まだ涼太はやってこない。
仕事が、まだ終わらないのだろうか?
電話をかけてみようか?
しかし、まだ仕事中だとしたら、電話をかけたら仕事の邪魔になるかもしれない。
とりあえず、メールを送ってみようか。
『涼太、何をしているの?まだ仕事中なの?連絡ください。』
「送信っと。」
しかし、涼太からの返信がないまま、もう6時50分になってしまった。
どうしようか迷ったが、とりあえず電話をかけてみることにした。
呼び出し音が鳴っているが、涼太はなかなか出ない。
諦めて電話を切ろうとしたとき、
「もしもし。」
涼太が電話に出た。
「涼太?」
「ひまわり、どうした?」
「どうしたじゃあないわよ。もうすぐ7時よ。なにをしてるの?」
「ごめん、ごめん。もうすぐ着くから。」
「もうっ!今日は、せっかくのクリスマスイブなのに。」
私は、電話を切った。
涼太が、待ち合わせに遅れて来ることは、時々あったけれども、こんな大事な日に遅れてくるなんて信じられない。
まあ、もうすぐ着くと言っているのだから、もう少し待っていよう。
7時を15分ほど過ぎたところで、ようやく涼太がやってきた。
「待った?」と、涼太は笑顔で聞いてくる。
「待ったにきまってるでしょ。全然もうすぐじゃないじゃない、何時だと思ってるの。もう7時15分よ。」
「ごめん、ごめん。」
「15分以上遅れたら、キャンセルになるって言われていたでしょ。仕事が終わらなかったの?」
「いや、仕事は6時過ぎに終わっていたんだけれど。ちょっと……」
「ちょっと何よ。」
私は、はっきりしない涼太に、だんだんイライラしてきた。
「こんな大事な日に遅れて来るなんて。先週だって遅れて来て、映画を見逃したのに。もう、いいわよ。私、帰るから。」
私は、本気で帰りたいわけではなかったのだけれども、ついつい、その場の勢いでそう言ってしまった。
そのまま後にひけず、私は駅を出て歩きだした。
「ちょっと待てよ、ごめん、そんなに怒るなよ、ひまわり。」
涼太が、あわてて私を追いかけて来る。
「あっ!そうだ。これ、営業先の人にもらったんだけど。」と、言いながら、カバンから何かを出して、私に差し出してきた。
「何よこれ。」
赤信号で立ち止まると、私は、それを見た。
それは、
「おもしろいだろう、それ。
「へー、そんなのあるんだ。」
私は怒りを忘れて、まあ、本気で怒っていたわけではないけど、興味深そうにそれを受け取った。
「ああ。俺も名前を聞いたときは、びっくりしたよ。それ、ひまわりにあげるよ。」
「ありがとう。」
「いやぁ、ひまわりが機嫌を直してくれてよかったよ。」
「まさか、これがクリスマスプレゼントっていうことじゃないでしょうね?」と、私は、笑いながら聞いた。
「うん、そうだよ。」
「えっ!?」
「嘘嘘、冗談だよ、冗談。」
涼太は、笑いながらそう言った。
「もうっ!」
「ハハハッ!ごめんごめん。ちゃんとしたプレゼントも、持ってきているから。」
「何?」
「ひまわり。後で大事な話があるから、そのときにな。」と、涼太は、真剣な顔で言った。
「なあに?そんな真面目な顔して。大事な話って何よ?」
こんな顔の涼太を見るのは、初めてかもしれない。
「うん。まあ、その話は後でな。」
「そうなの?ずいぶんもったいつけるのね。」
「それじゃあ、どうしようか?」
「とりあえず、歩きながら考えましょうか?」
私は、青信号になったので、横断歩道を渡りはじめた。
そのときだった。
キーッ!と、車が急ブレーキをかける音がした。
「ひまわりっ!危ないっ!」
涼太が、私をおもいっきり突き飛ばした。
「きゃっ!」
私は、叫びながら転倒した。
一瞬、何が起こったのか、すぐには理解ができなかった。
私は起き上がろうとして、右手に持っていたキーホルダーが、なくなっていることに気付いた。
どこかに飛んでいってしまったみたいだ。
「涼太?」
私は起き上がると、辺りをキョロキョロと見渡した。
涼太は、車道に
「涼太?」
なんでそんなところで寝てるの?
「大変だ!交通事故だ!」
「救急車を呼べ!」
周りの人達の怒鳴り声で、私は、何が起こったのか理解した。
信号無視の車が、涼太をはねたのだ。
涼太が、私をかばってくれたのだ。
涼太をはねた車は、歩道に乗り上げ、電信柱にぶつかって止まっていた。
涼太は、車道に倒れてまったく動かなかった。
「涼太?嘘でしょ?」
きっと、これは悪い夢だ。
私は、おそるおそる涼太に歩みよった。
「涼太……涼太!しっかりして!涼太!涼太ーーーー」
私は、無我夢中で涼太の名前を叫んだ。
「……」
微かに、涼太の声が聞こえたような気がする。
「ひ……ま……わり。」
涼太が苦しそうに、私の名前を呼んでいる。
「涼太?涼太!しっかりして!」
「ご……めん……な。」
「どうして?どうして涼太が、謝るのよ。」
「俺は……ひまわりの……ことが……」
涼太は、苦しそうに自分の右手を上げて、私の顔に手を触れようとした。
しかし、その右手は、私の顔に触れることなくゆっくりと落ちていった。
「いやーっ!涼太!涼太!」
私は、泣き叫んでいた。
いつの間にか、雪が降りだしていた……
私も救急車に乗って、一緒に病院に来ていた。
連絡を受けた涼太の両親と妹もやって来ている。私の父にも連絡を入れたので、もうすぐやって来るだろう。
涼太は、病院について間もなく亡くなった。
私は、涼太の父と病院のロビーに出た。
涼太の母と妹は、涼太に付き添っている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私のせいです。私のせいで、こんなことに……」
私は、泣きながら涼太の父に謝り続けた。
「ひまわりちゃん。君のせいじゃないから。そんなに、自分を責めないで。」
涼太の父が、私を優しく励ましてくれる。
しかし、その優しさが今は逆に辛かった。
「ひまわりちゃん。ここは、もういいから。迎えがきたら帰りなさい。」
「でも……」
私も涼太のそばにいたかった。
「どうか……あとは、私たち家族だけにさせてほしい。」
涼太の父が涙を流しながら言った。
「わかり……ました……」
涼太の父の涙を見て、帰りたくないとは言えなかった。
「ごめんね。葬儀の日取りは、また連絡するから。」
「ひまわり!」
振り向くと、私の父がやって来た。
「お父さん……」
「ひまわり。大丈夫か?」
「お父さん……私……」
私は、それ以上何も言えなかった。
「高橋さんですか?ひまわりの父の、冬野良平です。この度は大変なことになって。」
「冬野さん……すみません。また明日にでも連絡いたしますので。今日のところは……」
「そうですか……わかりました。それでは、これで失礼いたします。」
父は、そう言うと、
「さあ、ひまわり。今日は、もう帰ろう。」
私は無言でうなずくと、父に支えられるようにして病院を後にした。
「ひまわり。今日は、とても疲れただろう。寝てもいいぞ。家に着いたら起こしてあげるから。」
車を運転しながら、父が言った。
しかし、私は、そんな父の言葉も耳に入らなかった。
時刻は、午後10時30分を過ぎていた。
あれから、まだ3時間だ。いや、もう3時間か。
正直、もうそんなことを考える余裕もなかった。
これは、夢じゃないのか?夢なら早くさめて、お願いだから……
「……まわり。ひまわり。着いたぞ。」
私は、父に肩を揺すられ、目を覚ました。
いつの間にか眠ってしまったみたいだ。
「ここは?涼太は?」
やはり夢だったのだろうか?一瞬そう思ったけれど、父の言葉で、やっぱり現実だったのだと理解した。
「大丈夫か?涼太君が、亡くなったのは、けっして、ひまわりのせいじゃないから。」
「……うん。」
私が、家に入ると、
「お姉ちゃん……」
さくらは、泣きながらそう言うだけだった。
母が、無言で私を抱きしめてくれた。
「……お母さん……涼太が……涼太が……」
私は、母の腕の中で泣き続けた。
いつまでも、いつまでも……
私は、その夜、深い眠りに落ちた。
眠れないだろうと思っていたので、自分でも意外だった。
私は、夢を見ていた。
涼太と、初めて出会ったあの日のこと。
そして、涼太に告白された日のこと。
そして、初めてのデートのこと。
初めてのキスをした日のこと。
そして、今夜のこと……
「ここは?」
駅前の信号が見える。
あれは……私と涼太だ。
私は、私と涼太に近付いて行った。
涼太が、私にキーホルダーを渡している。
「だめっ!渡っちゃだめよっ!」
私は、私に向かって、必死に叫ぼうとした。
しかし、声が出ない。
どんなに、どんなに叫ぼうとしても、声は出なかった。
私は無我夢中で、必死に私に向かって手を伸ばした。
「いやっ!いやーっ!行かないで、涼太!」
「涼太ーーーーーー!」
「……ちゃん!お姉ちゃん!大丈夫?」
「さくら……」
私は、目を覚ました。
「私……」
「お姉ちゃん。すごくうなされていたけれど、夢を見ていたの?」
「夢?」
私は、ベッドから上半身を起こした。
「夢?うん……涼太が……どんなに叫んでも。どんなに手を伸ばしても、届かなかった……」
私は、涙を流しながら答えた。
「お姉ちゃん……大丈夫だよ。私が付いてるから。私だけじゃなくて、お母さんもお父さんも、ずっと付いてるから。」
「さくら……ありがとう。」
さくらが、私を抱きしめてくれる。
「お姉ちゃん?熱が、あるんじゃない?」
さくらが、私の額に手を当てる。
「お姉ちゃん!すごい熱。ちょっと待ってて、お母さんを呼んでくるから。」
さくらが、慌てて部屋を飛び出し、階段を駆け下りていった。
クリスマスの午前5時。
外は昨夜からの雪で、白く染まっていた。
2013年12月25日
母に、会社に電話をしてもらい、私は会社を休んだ。
社長も、私と涼太が付き合っていたことは知っている。
「熱がなくても、今は、とても仕事をできる状態じゃないでしょう。どうせ今週末から正月休みに入るので、正月明けまでゆっくり休んでください。本当に高橋君のことは、私もとてもショックを受けています。」と、社長は母に言ったそうだ。
私は、ベッドで眠りながら、涼太のことを考えていた。
そういえば、涼太は何故あの日は、遅れてきたのだろうか?
理由を聞けないまま、こんなことになってしまった。
私は、そんなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまった。
涼太の父から、葬儀は明日の午後2時から行うと連絡があったそうだ。
私も行きたい思いは、もちろんあったのだけれども、それと同時に、行くのが怖いという思いもすごく強かった。
2013年12月26日
私は、まだ熱が下がらなかったので、葬儀には母が行くことになった。
「それじゃあ、ひまわり。お母さん行ってくるからね。さくら、お姉ちゃんをお願いね。」
「うん、わかった。いってらっしゃい。」
その夜、私は、母から涼太の葬儀のことを聞いた。
涼太をはねた人の母親と弟が来ていたそうだ。
涼太の両親は、その二人を葬儀場にいれなかった。
その母親と弟が、泣きながら土下座をしていたのが、とても衝撃的だったということだ。
母は、その二人の顔を、忘れることができないと言っている。
記憶力がとてもいい母のことだ、本当にずっと覚えているかもしれない。
2013年12月27日
熱も下がり、体調も少し良くなってきたので、母とさくらに付き添われて涼太の家に行った。
涼太の両親は、涼太が亡くなったのは、本当に私のせいではないと言ってくれた。
そして、他に良い人を見つけて、涼太の分まで幸せになってほしいと。
2014年1月6日
私は、正月休み明けから仕事に復帰したが、まったく仕事に身がはいらなかった。
会社の人たちとも、ほとんど話さなくなった。
川島さんも空気を察して、涼太に関することは一言も話さなかった。
涼太をはねた、
今さら、そんなことを聞いたところで、私は、どうしたらいいのかわからなかった。
そして、私は、1月いっぱいで会社を辞めた。
私は、それからずっと自宅に引きこもって、ほとんど外に出ることがなくなった。
私は、今でもずっと、自分を責め続けていた。
そんな私を、父も母もさくらも、そして友達も心配してくれていた。
そして、約3年の月日が流れた。
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