開運犬

第1話

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家に帰ったら母がテレビゲームをしていた。

リモコンを持ってピコピコと操作しているゲームは私でも知ってる古いRPGのゲームで随分古いもので2Dの画面の画素も粗くゲーム機自体も今となっては骨董品のようでこんなのどうしたの?と聞いたら「パパがお友達から借りてきたのよ」と画面から視線を離さず母が答えた。


そんな会話の間でも冒険は進んでいて、物語は大体お決まりの悪しき邪竜だかなんだかな魔王を倒す話で勇者が冒険の旅に出て仲間を集めてとりあえずモンスターをぼこ殴りにしていく展開だ。

画面で予想外に手馴れた動きで四方八方から集まり来るモンスターを掻い潜ってお宝と鍵をゲットしてダンジョン内を走り抜ける主人公たちがダンジョンの最後の階段部分で集まりくるモンスター達を塞き止める結界を発動させる鍵を挿して逃げていく場面だった。

後ろからドンドンドンと塞き止められて逃げられない前のモンスター達を押しつぶすように、折り重なっていくモンスターの哀れな姿を映し出して画面が暗転するのに


何故か疲れて帰ってきた私もそれに同調するように意識が暗転して意識を失ったのだけは覚えている。



ああ、これは夢なんだと思わせるような急な切り替えで意識を再び取り戻すと

そこはかってしたる我が家などではなく見知らぬ場所。夢の中では突然場面変更で脈略もなく唐突に違う場所に切り替わることなんてしょっちゅうだから夢の中で夢を見ているなんて自覚するなんてこともおかしなことだけれどなんとなくそう把握できて、さしたるパニックもなくその場に適合する。

辺りを一週見回して自分の隣にいる人物と目が合う。その人は知らない初対面のはずなのに良く知っている人のように感じる。えっと、なんだっけ…。


「お姉ちゃん」


そう、私の姉である。


そう頭が理解したと同時にそれまであった疑問は霧散し、今まで当然知っていたように彼女のパーソナルデータが私の中で生まれてごく自然にこの人が自分の姉だと認識する。

背の高いすらりとしたスレンダーな体形に薄桜色の綺麗なロングの髪。そして押っ取りしとやかに見える優しげな美人。しかしその見た目が性格と一致しているかは別である。


「あなたもちゃっちゃと選んで食べちゃいなさい。もう料金払っちゃって一文無しなんだからここでお腹いっぱい食べて、腹ごしらえしておかないとダンジョンで死にそうにお腹すいてもなーんにもないんだからね」


「え?」


ダンジョン?


「なにはとが豆鉄砲みたいな顔してるのよ。小鳥につつかれたみたいな顔して驚いて立って現状は変わらないわよ。昨日のうちに両親の遺産と家財を全部売って締めて金貨30枚。それを冒険者登録とダンジョン入場料と装備に使って一文無し。ダンジョン入場料にここのバイキング代も含まれてるからここで食べとかないと次、本当にいつ食べれるか分からないって話したじゃない。」


はあーと深いため息を吐く姉の姿をもう一度良く見ると、その姿はまとう雰囲気や外見とぴったりなブリースト(回復役の僧侶)そのまんまの姿だった。

そして自分、さすがに自分の全体像は鏡が近くにないから確かめようもないし他の参加者のひしめくホールでバイキング皿を持つ自分がどんな姿か大まかにしかわからないけれど、下を見る自分の目に入り込む服はどっかのお決まりのように黒いワンピース。そして頭にとんがり帽子。どこかの見習い魔法使いそのまんまな気がする。


回復役のブリーストとアタッカー火力の魔法使いの二人のコンビ。

これでダンジョンに挑まれるのですかお姉さま…。


「前衛は?」


すでにがっつりカツカレーをお召し上がりのお姉さまがこちらを振り返りニッとその外見からは似つかわしくない男前の笑みで笑ってくださった。


「これから見つけるのよ。大丈夫、ここは初心者チュートリアル用のダンジョンだし。このバイキングも冒険者の門出にギルドがお祝いをこめて用意してくれてるものじゃない。つまりここにいるのは全部駆け出し冒険者。冒険者は登録にばかたったかいお金を支払う代わりに死んでも教会で蘇えれるように神のご加護が得られるし、大丈夫よすぐに他の仲間も見つかるわ。相性もあわせてこのダンジョンを卒業する間に一パーティーキチンとそろってめでたく誕生ってわけよ。ね、いまさら怖気づく必要はないわ。怖気づいても一文無しだからどこにも生きようないんだけどね。あはは」


あははっておねえさまああああああ??


「それとも、あんなくそみたいな町に両親の思い出にすがって町長のところのくそ兄弟に姉妹で夜這いされたうえに嫁入りするほうがミンシアには良かったのかしら?」


言われた瞬間に思い出すおぞましい記憶。何で忘れていられたのか、両親の葬儀の日。突然の訃報に自分と姉、姉妹そろって呆然とする中、どうにか気力を絞って最低限の葬式だけでもと周囲の大人たちに手を借りて出したお葬式。ホッとした葬儀終わりの夜に堂々と押しかけてきた酒臭い町長のところの長男と次男。疲れて眠っていた部屋にまで響くがなり声に対応にでれば正体のない様子で酔っ払った赤ら顔で夜這いに来た、嫁に貰ってやると言葉の通じない一方的な言い分で体に無遠慮に障ってこようとする馬鹿兄弟は前から隙あらばといやらしい目で女性を見てくる最低の輩だった。


両親もなくなって村一番の美女と呼び声高い姉に乗りかかろうとしている馬鹿を見た時、

前々から元冒険者の両親によって鍛えられていた私は手加減なしのファイヤーボールを馬鹿に向けて放っていた。




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