青いマクガフィン
@sodom_vs_godzilla
カントク
どいつもこいつもクソだ。全く以ってクソだ。
親も、先生も、同級生も、下級生も、上級生も。
そしてこの曇り空も!
校内での撮影は基本的に自由とは言え、天気までは自由にならない。
「少し天気待ち!」
自分の語気に思ったより険があったことに、少しドキリとする。
「ジョン・フォードじゃあるまいし。昼休み終わっちゃうぜ?」
カメラマンの半谷(はんや)が答える。
今日でこのシーンを撮り切らないければ、土日を挟んで来週まで予定が押してしまう。
それはわかる。
だが、この曇天では暗すぎる!
「本日の天気予報では、夜中まで降水確率50%。晴れは見込めません」
冷静な意見をくれるのは、いつだって助監督の神前(こうさき)だ。
「カントクー!まだー?」
中庭の向こうから、主演女優の、えーと、オクム……、いや、ムライ?いやいや、うーん、……オムライスが声をかけて来る。
「露光上げればイケるって」
カメラを弄りながら、半谷が言う。
確かにそうだ。
カメラの絞りを開ければ、光が沢山入るので、曇天でも晴れの日に撮った様に明るく撮ることが出来る。
だが、僕が求める画は、もう少し混み行っているのであって。
「木漏れ日が欲しいんだよ。彼女の体に班目模様が落ちて欲しいんだ」
日差しが無ければ、クッキリと影が落ちないのである。
「夏の日差しだよ!夏っぽさが欲しいんだよ!」
僕の注文に半谷がヤレヤレと首を振りつつ、何やら思案を巡らす様に斜め上を見上げている。
多分、『セミの鳴き声の効果音を入れればそれっぽくなるんじゃないかなー』などと考えているに違いない。
無責任なカメラマンだ。
僕の様なモヤシが言うのも何だが、彼はそういう男らしくない所がある。
「もう10月に入っていますからね」
神前はマイペースに言う。いちいち煩い女だ。そんなことは分かっている。
「ねー!カントクー!」
黙れ、オムライス。
「わかった、ちょっと考える。待って」
僕は思案を巡らせる。
この前に撮ったシーンとの繋がりは望めない。ではどうする?
この前のシーンは、もう撮っている。
更にその前のシーンは、撮っていない。
繋がるか?
繋げるか?
繋がり?
よし、これだ。
「うん、これで行こう」
手を打って振り返ると、半谷は携帯電話を触り、神前はコンテをペラペラと捲っている。
オムライスも、向こうで携帯を弄っている。
「オムライス!」
三人が僕の方を向く。
咄嗟に自分がやったバカを悟り、息を継がずに、
「が、食べたいなぁーお昼に、僕は」
と続ける。
危ない、危ない。
「そのお昼が終わっちまうぞ」
半谷は三脚を畳まんばかりだ。
「いや、大丈夫。少し待って」
神前を手招きし、寄って来た神前に、
「演者さんに着替えてもらって」
と耳打ちする。
「え?大村さんに?」
「うん、そう」
そうだ大村だ。
「着替えるって、制服は着てる物しか……」
「体操服だよ」
「ええ?だってそれじゃ繋がりが……」
「それだよ。わざと繋げないんだ」
動きや芝居を繋ぎはしても、服装や天気を繋がない。
場所も気にしない。
そうすることで、いつどこで誰の身にも起きる、普遍的な寓話として撮れはしないだろうか?
「『去年マリエンバードで』のマネをするんだよ!」
「へえ、なんか面白そうじゃん」
僕のメチャクチャな意見に、半谷は頷いた。
半谷に確信は無いのだろうが、こういう時にとりあえず乗ってくれるのは有難いところだ。
「でも、それじゃコンテは勿論、ロケハンもやり直さなきゃ」
相応しいロケーションをまた探して来る必要性を懸念する神前は、珍しく神妙な顔で台本を捲る。
「いや、ロケハンは要らない。場所をシャッフルしよう。合わない所があれば、それは僕で探すからさ」
そうとなれば、オムそばを着替えさせねばならなかった。
教室から体育着を取って来させ、五分で準備。
大きめの保冷用発泡スチロール箱のフタを使ったカポックと、ベニヤ板にアルミホイルを巻いただけのレフ板を用いて、影が柔らかくなる様に調整する。
芝居と動きの確認。
カメラと被写体との距離を計測。
フォーカスと絞りを調整。
用意。
カメラが回る。
「スタート!」
僕の合図でオムカレーの芝居が始まった。
僕が苛立っていたのには理由があった。
馬鹿馬鹿しい授業が余りにも多いからだ。
僕には必要ないことばかりやらされるのが、嫌だった。
幸いにもここは進学校なので、体育の授業が少ないのが救いだった。
しかし、それでも、その無為な時間は毎週決まった時間にやって来る。
運動が好きでたまらない連中のストレス発散に付き合わねばならない。
そんなことは放課後いくらでも出来るだろうに。
僕だって放課後にやりたいことをやっている。誰に強制もしない。
だが、僕はこうして体操服を着て、バッターボックスという名の恥を晒す舞台に立たされている。
この時間はストレスを溜めた者ほど、成績が悪い。
不公平な話だ。
「ストライク!バッターアウト!」
何時の間にか三回ボールが通り過ぎたらしい。
敵味方のヤジすら聞こえないのは、僕がそういうヤツだと皆分かっているからだろう。
彼らの為に自重気味な苦笑いを浮かべてやる。
この笑みのおかげで、彼らは僕を無害な人間だと思うわけだ。
ひょっとすると、悪いヤツではないとすら思わせることが出来るかも知れない。
舐め腐ったコイツらに目にもの見せるには、ほんの少しバットを振ってやりボールを飛ばしてやることだが、ついその気になってバットを振ったが最後、空振ってそれを笑われた挙句、暫くは不意に硬球を投げつけられる毎日を送ることになる。
手にしたバットの重みを感じ、つい「アンタッチャブル」の、ロバート・デ・ニーロが部下を殴り殺すシーンを思い浮かべる。
運動が不得手な僕相手に三振を取って得意げなあのピッチャー。
野球部ではショートのくせに、今は汗を煌めかせて青春真っ盛り臭を出している。
くだらない。
あいつの頭をデ・ニーロよろしく叩き割ってやれたら、どれだけスッキリするだろう。
いかんいかん。
やめておこう。
そんなことをしたら紙吹雪を掃除するのが大変だ。
放課後。
気怠い気分を引き剥がす様に席を立つ同級生達よりいち早く、僕は鞄を抱えて教室を出た。
部室で今日撮った分の映像をノートパソコンに取り込んで、粗編するつもりだった。
頭の中では、もう出来ている。
それを早く組み立ててやりたかった。
映画部の部室は、部室棟には無い。北棟の、東階段の下。元々雑多な用具入れとして使われていた倉庫がある。
ただ、催物が行われる体育館や運動場から遠いことと、クラス数減による空き教室のおかげで、ここに置かれていたパイプ椅子の予備や長机、脚立、ホワイトボード、何かに使うポールや何かに使う造花の花輪は、勝手の良い余所へ移されている。
だから、我々がここを使えるわけで。
つまり、我々映画部は、何に使うか分からない棒より価値が無いと思われているのだ。
まあ確かに、空き教室を部室に充てられても、廊下は騒がしいし、部室棟など言わずもがな。
静かな方が我々には都合が良い。
北棟は、基本的に放課後は人気が無くなるのだ。
ただ、階段のそれこそ真下なので、階段を昇り降りされると、斜めった天井がドコドコ音を立ててしまうのが難点だ。
それと、五、六人で入ると、機材やビデオ棚もあるので、かなり狭苦しくなるのも、参ってしまう。
さて、今日も部室に一番乗りだ。
私物である、兄貴のお下がりのマックブックをリュックから取り出す。
雑に置いてある半谷のカメラと、外付けハードディスクを、マックブックに繋ぐ。
パスワード「19541103」で、立ち上げると原爆を手にした沢田研二の壁紙が待ち受ける。
直様、編集ソフトを開く。
今日撮った映像素材を取り込み、カットナンバーとテイクナンバーを付け、フォルダに並べ、それから編集ソフトに入れる。
素材をチェックし、順番に並べてみる。
やはり、良い。
狙い通りだ。
こんにちは。
ただ、難を言えば、照明自体をもっと変えて撮影すれば良かった。
もっと言えば、フィルムで撮ったりデジタルで撮ったり、フィルムはフィルムでも、タングステン用とか色々と使って、もっとシーンごとバラバラに見せてしまう手もある。
こんにちは。
仕方がないのでカラーコレクトでシーンごとの変化をつけよう。
歪になり過ぎない程度を狙って、いや、むしろ大袈裟にやってみるか。
「こんにちは!」
突然の大声に驚き振り向くと、後輩の須東(すどう)が立っていた。
「驚かすなよっ」
「ずっと挨拶してるのに先輩が無視するから、聞こえるように言ったまでっス」
須東は女子にしては異様に背が高くガタイもいいので、荷物持ちをやらせることが多い。
ロケをやる時に、その場に合いそうな小物や調度品を選び、用意して、運ぶという仕事もやるので、たいていクレジットする時はPRODUCTION DESIGN(美術)か、BEST BOY(助手)とするが、基本的に役立たずだ。
それに無愛想で華も無い。
だが、何でも一生懸命に取り組むところは美点だ。
「集中してるんだから放っておいてくれよ」
「先輩が挨拶してくれないからっス」
「後でいいだろ?」
愛想が無いくせに人懐こいところがある。ウザくてたまらない。
「挨拶は大事っス。礼に始まり礼に終わるっス」
須東は空手を習っている。だから、あまり逆らうと、怖い。
「はいはい。こんちわ」
僕は須東の方を見もせず、挨拶する。
「こんにちは」
須東が視界の端で少し笑った気がした。
「挨拶という言葉は、本来、胸元を開いて見せるという意味っス。腹の内を晒してるんスから、返さないのは失礼っス」
珍しく饒舌だ。
胸元か。
胸。須東のそれは矢鱈デカイので、本当に気が散る奴だ。
そもそも須東に声をかけたのは、一学期に短編のヒロインアクションものを撮る為だった。
新入生の中に飛び抜けて背の高い女子生徒がいるなと思い、どうかな?と行くと、どうなの?と来るから、いいじゃない、と。
聞けば空手をやっていると言うから好都合。口説き落としたわけだ。
アクションを撮る難しさに挑むべく、様々実験を重ねながらの撮影だったが、須東は黙々とこちらの要求に応えて演じきり、作品はなかなか面白いものになった。と思っている。
事実、須東も満足気だったし、映画に興味が湧いたらしく、空手部を蹴ってこちらに入部したわけである。
ただし、アクション女優以外の仕事は、『木偶の嬢』である。
いつぞやの「高校機関銃乱射事件」という作品の撮影時、『避難する全校生徒』の画を撮る為に火災警報を押す役割を与えたのに、結局押せなかった程だ。警報器は、仕方がないので僕が押した。
校内の札付き共のタバコの銘柄まで調べて警報器周りにバラまいておくことで、全てを連中の仕業に見せかけたが、結局は作品が状況証拠となって、僕の仕業だと皆にバレてしまった。
かくして僕は先生達のブラックリストに載ってしまった。
だから今回の作品では、校内での撮影許可が降りない箇所があり、そういうところはゲリラ的に撮影するしかなくなった。
全くクソだ。
いかんいかん、編集に集中しよう。
編集といっても、クランクアップしていないので、足りないシーンが多い。
全部を撮ってから本格的なポスプロとなるが、今は粗編にとどめておく。
須東は部室の隅で古い映画雑誌のバックナンバーを捲りながら、時折こちらを伺っている。
お前の役割は無い。
強いて言うなら、
「須東」
「はいっ」
「ココア買って来てくれない?」
というお遣い程度だ。
「わかったス」
「はい、お金」
五百円玉を渡すと、須東は頭をドア枠にぶつけない様に少し屈みながら振り返り、
「冷たい方っスよね?」
と問うて来る。
「うん」
須東が出て行くと、暫くして半谷が欠伸をしながらやって来た。
「おーす」
「おーう」
互いに目も合わせないが、仲が悪いわけではない。小さい頃から互いのことは知っている。互いが当たり前の存在なのだ。
半谷が鞄を放り投げながら、
「今さ」
とパソコンを覗いて来る。
「どした」
「そこ歩いてたらな、スドーちゃんがさ、あっ、この画、いいなぁ、やっぱり」
「お前が撮ったんだろ?で?」
「え?何?」
「だから。須東が?」
「いや、スドーちゃんが凄い速さで走ってたからさ。どうしたのかなーって」
「へえ」
「ここに居たんだろ?」
「うん」
「何かしたのか?」
「ココア買って来てって頼んだだけだよ」
「ほー」
半谷は僕の横に陣取って、漫画を読み始めた。
だが、ページはいつまで経っても捲らない(捲っていないことに気づいたのは少し後に、また話しかけて来た時だが)。
「いい子だよな、スドーちゃん」
「そうか?」
「そうだよ。お前の血糖値一つの為にあんなに走ってたんだから」
「だったらもう戻って来ていい頃だろ。遅い。使えない」
「厳しいねぇ」
その時、ふいに扉が開いて、神前が入って来た。
「お疲れ様です」
「なんだ、コーサキか」
「私です」
神前は、先程須東が座って居たあたりに鞄を置き、中からルーズリーフとペンケースを取り出しながら、
「待ち人でも?」
と、まるで日本語字幕の様な文句で言った。
「スドーちゃんだよ」
僕の代わりに半谷が答える。
「須東ちゃん待ちですか」
「カントクのココアを買いに走ってるんだと」
「つまりココア待ちですか」
言いながら、神前はルーズリーフを僕の前に突き出した。
「何?」
「作品の改変点を纏めて、あと、今後の方針について、書いて下さい」
「それどうするの?」
「私が要約して全体に広め、スケジュールを組み直します」
「全体って、僕らだけじゃないか。僕ら三人とムラオ……、オクラ……、」
「大村さん」
神前のこの呆れ顔も見飽きたものだ。
「そう、大村さん。四人きりじゃないか」
大村さんは映画部ではないが、神前の友人で、キャストとして協力してもらっている。
「須東ちゃんも手伝ってくれてるじゃないですか」
「わかったよ、五人だ、GONIN」
全く関係無い石井隆の映画が頭を過った。これはもう病気みたいなものだ。
「五人きりなら、僕が話せばいいじゃないか」
「簡潔に纏めないと誰にも伝わりませんし、書面にしないとその都度確認も出来ないですから」
神前はいつもこうだ。僕が構想を話していると直ぐに「それを企画書にして皆に見せて下さい」とか「作品のテーマは何ですか?」とか、面倒臭いことを言う。
しかし、それは必要な作業であると、僕にも分かっている。
神前は僕のケツを叩いてくれる、良い女房役なのだ。イルザ・ストリックスなのだ。
「わかったよ」
「ではお願いします」
半谷が笑っていると、半谷もルーズリーフを突きつけられ、
「撮影設計もやり直しです。監督と相談して書き直しをお願いします」
と、やられている。
マックブックを仕舞った僕は、半谷と相談しながら、共にルーズリーフと格闘することになった。
「失礼しまス」
そこへ須東が戻って来た。
「遅いぞ」
僕が苛々としながらシャーペンを走らせていると、半谷が、
「何かあったの?」
と、須東に尋いてやる。そうそう。フォローはお前の役目だ。
「いえ、何も」
「走ったにしては、遅かったなと思ってさ」
「見てらしたんスか?」
「うん」
「や、なんか、私のファン?みたいな人達に、囲まれてしまったんス」
須東は、お腹の前でココアの缶を両手に握る。モジモジとそれを弄る。缶が握力で潰れないか心配だ。
「へえー!やっぱあれだ!『血と群青』の影響かねー!」
半谷の言う「血と群青」とは、例の須東主演で僕が撮ったヒロインアクション作品だ。
夏のオープンスクール時、部室前の廊下の壁にプロジェクターで無断上映をしていたので、見かけた生徒が多くいるらしい。
それでファンが付いたようだ。
当たり前だ。あれだけカッコ良く撮れたのだ。ファンが付かなければ嘘だ。
「皆、女の子でしたケド」
と須東は溜息を吐く。
僕は何だかそれに更に苛ついた。「血と群青」は、空手を捨てて恋に生きることを選んだ女の子が、のさばる奸悪に耐えかねて、最後にやはり大暴れするアクション映画だが、前半部のパートは、須東の女らしいところを外連味タップリに描写したつもりだった。
つまり、エロく撮ったのだ。
童貞なりにも、五社英雄に負けないくらい、思い切り。
男のファンが付いても良いはずだ。
だが、結果は女のファンばかりということらしい。
つまりは僕の演出が足りなかったのだろう。
須東が僕の演出にタメイキしている様で、僕は腹が立ったのだ。
「ココアは?」
態と冷淡に言ってやる。
「あ、ハイ、すンません」
須東が慌てて、手のココアを渡して来る。
「お釣りは?」
「ハイ、すみません」
まったく。自分の分も買えば良いのに、キッチリ僕の分だけ。遠慮深い奴だ。
「おはよう」
そこへやって来たのは顧問の社台(やしろだいち)先生だ。
英語を教えるロマンスグレーの紳士で、他の先生からの信頼も厚く、生徒からはヤッシーなどという愛称で呼ばれている。
「おはようございます」
皆で挨拶する。
この「おはようございます」は、昼でも夜でも使われる。芸能や映像の世界で使われる挨拶だ、と社台から習っている。
だから、映画部ではそう挨拶するのが通例だ。
まだ慣れないのは須東くらいだろうか。須東は武道出身ゆえ、仕方ないと言える。今も、「ちわス!」の「ち」を言いかけていた。
「どう?」
社台が入口で立ったまま、僕に尋ねた。
「はい、花壇を踏み荒らすシーンは、撮影時は造花にすることと、現状復帰することで、通りそうです」
「良かった」
「先生の口添えのお陰です。有難うございます」
火災警報の件で我が部が疑われた(と言うかズバリ挙げられた)時、弁護してくれたのは社台先生だった。顧問だからという理由もあるだろうが、あとでキッチリ叱られもしたので、良い教師であると僕は思っている。
税金で出動した消防関係者方々の苦労や、騒動で怪我人や死人が出る可能性などなど、多角的に物事を考えなさいと、お説教いただいた。
確かにそうだ。
そういうことを考えていなかった。
だから僕は、そういうことまで全て背負い込む覚悟をして、無茶をやることにしている。
社台先生はニコニコして、
「気をつけてね」
と言添えて、直ぐに行ってしまった。
良い先生の見本の様だが、僕が先生のことが好きなのは、そういうところではない。
前年の体育祭の時に、社台先生は何人かのやる気のない先生らと共に、職員室から運動場を見ながらコーヒーを飲んでいた。
それだけなら普通かも知れないが、ただ眺めていたのではない。
生徒の競技の度、お金を賭けていたのだ。
それに、今時珍しい喫煙者の上、パイプ党と来た。懐には常に、吸い口にガッチリ歯型が付いたブライアーのパイプが入っており、時には一日中パイプを咥えていることもある。
噂だが、麻雀も恐ろしく強いとか。
そういう堅気でないところが、僕の共感を呼んだのだ。
それに、好きな映画にペキンパーの「わらの犬」と即答するあたりも、面白い人だと思う。
ちなみに、半谷の好きな映画は、ジャッキー・チェンの「酔拳2」。
神前は、ウディ・アレンの「アニー・ホール」。
須東は、「となりのトトロ」。
あと、例の出演者として撮影に協力してくれている、オムニとか王蟲とかいう女子は、えーと、失念した。
確か、何とか言うテレビドラマの映画化作品だったはずだ。
僕はそれを観ていないので、タイトルを思い出せない。
ともかく、そんな奴らに囲まれて、僕は映画部で部長をやっている。
でも、誰も僕を部長とは呼ばない。
大抵みんなは、僕を、「カントク」と呼ぶ。
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