『僕らの完全犯行計画』
@Maruo
第1話
僕らの犯行計画は、念には念を入れて検討したおかげで、完璧なものに仕上がった。今から、あの娘を助け出し、A国へ逃亡するのだ。
---プロローグ--
少し遠い未来、東京。自動運転カー、3Dプリンタ、AI(人口知能)が普及したことで、世の中は驚異的に便利になった。自動翻訳機のおかげで英語を勉強する必要もなく、料理ができる3Dプリンタのおかげで料理を覚える必要はなくなっていた。さらに、ウェアラブルデバイスによって知識を脳に記憶する必要もほとんど意味を失っていた。若者達は、勉強しなくても十分生きて行けるので、勉強する意義を失っていたが、他にこれといってやることもなかったので、なんとなく大学へ進学していた。
このような中、日本政府は景気安定と雇用確保のために、公共事業を増やした。日本とA国を繋ぐ大陸横断トンネルは、その象徴的な公共工事だった。
また、日本政府が構築した『パーフェクト・セキュリティ・システム(PSシステム)』によって、安心安全が保障されるようになっていた。このシステムを導入したおかげで、少しでも法律やマナーを破った場合、高度検知センサーがアラートを出し、すぐに警察が駆けつけることができた。極端な話、1秒でも駐車禁止をすると、警察が飛んでくるのだ。さらに、ネットの監視も強化され、検索キーワードに犯罪をほのめかす単語があれば、要注意人物としてマークされた。
便利で安心安全な社会―――。20世紀の人々が求めていた社会が実現していたのだった。
---3人の大学生---
僕は、普通に大学に通う21歳の男子だ。この時代の普通とは、勉強や仕事を頑張らなくても不自由なく生活できることを意味する。ネットさえ使えれば受験に合格できる。特にアルバイトをしなくても生活に困らない。そんな時代で育ってきた。
僕らが、犯行を計画したきっかけは、アヤノが居酒屋で泣きながら悩みを打ち明けてきたことがきっかけだった。アヤノとは、ひょんなことから大学で知り合った。目がチワワのようにクリッとしていて、肩まで伸びた黒髪。性格は天然キャラだが、意外としっかりしている所もある。まさに僕好みだった。
この居酒屋にもう一人いた。幼なじみの路美男(ロミオ)だ。ロミオと名付けるなんて、親はどうかしていると昔から思ってきたが、そのことは奴の前では口にしたことはない。
「実は、この前、私の妹が警察に誤認逮捕されたの。今、府中の少年院にいるの・・・」突然、アヤノは機械のような小さな声で僕らに打ち明けた。僕は少し酔っていて、正確なことは忘れたが、アヤノは絶対に誤認逮捕だと主張していた。
「私、妹を助けてあげたい・・・」アヤノの目から涙が今にもこぼれそうだった。僕らは、何も言えず、ただただ酒を口にするだけだった。
しばらくの沈黙があった後、アヤノは唐突に「そういえば、この前、間違えメールが私に届いてね、そこにPSシステムの内容が書いてあったの・・・」そう言って、スマートデバイスを僕らに見せ、そのメールの内容を読ませた。普段なら僕は、どうせフィッシングメールだよ、とか言うのだが、この日は何故かアヤノの話を不思議がることなく受け入れた。そして、念のため、僕らは全てのウェアラブルデバイスの電源を切った。
路美男は、周りの客に聞こえないように小さな声で「これって、日本政府が開発した純国産コンピューターの機密情報かもしれない」と真顔で言った。続けて、「この情報を使えば、システムをダウンさせられるかもしれない。そうすれば、アヤノの妹を助けるチャンスになる」と前のめりになった。この時、ひょっとしたら、路美男もアヤノに好意を持っているかもしれないと直感的に思った。
純国産コンピューターとは、日本が独自に開発したCPU、OS等によるコンピューターのことで、PSシステムを支える重要な要素だ。コンピューターの利用されるシーンに応じてプログラムをホワイトリスト化し、機能を制限したことによってハッキングがしにくい設計にした。純国産コンピューターの技術は、国の特定機密情報として扱われ、限られたエリートエンジニアしか開発に携わることができなかったため、ハッキングに繋がる情報も得ることが不可能と思われていたのだ。
そして、僕らはPSシステムをダウンさせ、アヤノの妹を逃亡させようと真剣に誓った。いつもなら、僕はこんな危ない話に乗るような性格ではなかったが、酒の勢いか何かで計画に協力することになってしまった。さらにアヤノのためなら何でもするとも言ってしまったようだ。
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