もう一度旅を始めよう。

涼風

第1章:再びの異世界転移

第1話 Re:異世界転移

それは突然のことだった。


突如、視界一面に白くスパークする感覚があり、それと同時に身体が浮遊する感じと足元に辛うじて見えるのは不思議な幾何学模様を描く魔法陣。


「これは.......懐かしいが、あいつらも懲りてねえよな」


誰に向かって呟いたのかは不明だが銀髪の少年、神谷 悠人は周囲のざわめきには目もくれずただ1人、次に来るであろう出来事を"確信"し、静かに目を瞑り席を立った。


その直後、周囲のざわめきが頂点に達したと同時に一際強い輝きが教室を白く塗りつぶし身体の浮遊感が消えた。



そんな出来事の少し前



「あ、古典の教科書忘れた.....はぁ.....めんどいな、サボろうかな...」


太陽が懸命に働いた結果、5月だと言うのに気温が30度を超えた少し異常な日

昨日まで冬服だった連中も生地が薄い夏服へと衣替えを早々と済ませており、暑いからと女子共の短くなったスカートのせいで若干クラスの雰囲気が色めき立っていた。


そんな中1人、悠人は冬服のまま机へと突っ伏し項垂れていた。


彼は絶賛、五月病(年中)を患っておりやる気がからっきしの状態だったのだ

朝起きるのも制服変えるのも学校に行くのも億劫、それなのにこれで本日3つ目の忘れ物に気づき悠人の頭のなかの選択肢にはもうサボることしか思い浮かばなくなっていた。


「だりぃ....めんどい...帰りたい.......」


「悠人....もうちょっとシャキッとしなさい、幼馴染として恥ずかしいわ」


そんな彼に近づき果敢(?)にそう叱咤するのは香山 南

南自身が言った通り彼女は悠人の幼馴染でありこのクラスのクラス委員長だ。

明るめの髪を肩甲骨あたりまで伸ばし、控えめに言っても美少女と形容される容姿を持つ女子生徒。


ちなみにこのクラスのアイドル的存在でもある。


南と悠人は幼稚園から小学校、中学校、高校と同じ学校、果ては全て同じクラスで一部の人間にはすでにこのやり取りは恒例の行事となっており、夫婦漫才や老年夫婦とすら言われている始末にあることは2人以外には周知の事実である。


それはもはや呪いとも言えるレベル


だがそれでもやはりクラスのアイドル的存在である南と一部の女子に熱狂的な人気がある悠人のカップリング(?)は不満が集まるのは仕方のないことなのだろう。

クラス内では悠人に向けて男子からの視線が今でも突き刺さっている。


「香山ー!無駄だって、さっきの時間も同じこと言っては無駄だったじゃん」


「そうだぞー、ダメ谷なんて放っとけばいいんだって〜」


何処からか響いたそんな声にクラスでは軽い笑いが起こる。

皆が言うようにさっきの時間も南は悠人に対し同じような事を言ったのだが軽くスルーされ意味を成していなかったのだ。


それもまあいつものことだ。


「そうだぞ南、俺の事なんて放っとけばいいんだよ」


「んな.....教育的指導...いっとく?」


悠人本人にもそう言われ、遂には暴力に訴えようと拳を鳴らす南

だがその拳が届く事はなく、授業開始の予鈴が鳴った。


「ほれ南、予鈴だ戻れ」


「後で覚えときなさいよ!絶対、今度こそ改心させてやる」


何をどう改心させるのかは不明だが、ただでさえ幼馴染という事で目をつけられているのにこれ以上関わるなんてゴメンだ。

悠人は机のなかに手を突っ込み"古典の教科書を"取り出す"

そしてそのまま何事もなかったかのように授業の準備に入る。


「はぁ....視線が痛い」



授業開始のチャイムが鳴ってから数分、何故かいつまで経っても人っ子一人来る気配がなく、ただただ、5分10分と時間が経っていった。

それはまるでこの教室ごと忘れ去られてしまったかのような感覚に襲われる。

そうなるとやはり日頃うるさい奴らから徐々に騒ぎ出す。


だが、今回は少し勝手が違った。


クラス内のざわめきは全体にまで広がっており熟睡の体制に入っていた悠人は少し苛立ちながらも目を開けると目の前に広がるありえないような"懐かしいような"光景を目の当たりにした。


クラス1人1人違う色だが、それぞれ同じ円形の幾何学模様、所謂魔法陣が足元に展開されているのだ。クラス内は興奮と不安が入り混じったざわめきへと変わりクラス内を覆っている。

そんな中、悠人は1人冷ややかな目線でその光景を見つめていた。


悠人はその魔法陣に"見覚え"があった。




時は戻る



激しい閃光が終わったのを瞼の裏で確認しゆっくりと目を開ける。

そこにはRPGで言う神官の格好をした集団とそのなかで一際目立つ服装をした同い年ほどの女性がいる。

神官集団たちと同い年ほどの女性は汗だくで息が切れており如何にも疲労が溜まっている様子だ


ただの推測だが大規模な召喚魔法をやらされて大量に魔力を消費したのだろう、異世界からの召喚魔法は恐ろしいほどの魔力を使うくせに狙いを任意で行えない事が多い

女性の表情を見るに今回は数人の召喚を狙ったところ思いのほか多く来たのが驚き嬉しかった、と言ったところだろうと悠人は考えた。


本来、召喚魔法で呼び出されるのは素質あるもの、つまり多くても2〜3人である

だが今回はクラスごと召喚されたためその人数実に40名

これだけの人数を狙って呼び出そうとするものはまずいない、というか普通はできない。

ただ、今回は少々事情が複雑であり特別だ


主に自分のせいでなのだが。


悠人のそれは自惚れや厨二病などの類ではなく本当の事であり、ある意味確定的なことでもある。

召喚対象の素質あるもの、とは生まれながらにして一定量以上の魔力を備えている、ということだ

そして魔力を多量に持つものの周囲には自然と魔力の源である魔素が溢れるため周囲の者はその魔素を蓄え徐々に体内保有魔力量が増えていく。


では何故、悠人がそう言えるのか?

それは単純、悠人には非常に多量の魔力があるからだ、そしてそれを本人は自覚している。


信じてくれはしないだろうが悠人は一度この世界を救っている。


ただし悠人の話は元の世界は当然、この国でも一部の地域にしか伝わっておらず、その話自体も国によって禁止されたもののため知っているものは少ない。


だが、そんな中悠人に所縁のある地域では今もひっそりと口伝で伝わっておりその伝承には次のようなものがある


『大英雄の魔王』


それは最新にして最強の者。


神魔の如き魔力と地を砕くほどの力を持ち、多数の有能な臣下を従えた者あり。


その名をユートと言う。


その者、異界より来たりて勇者となり英雄となり、そして魔王となる。


その者、世界戦争を終結させ姿を消す。


いつしかその者、忘れ去られたが我は忘れず、忘れてはならぬ。


この伝承を紡ぎいつしか現る我が主まで.....



といったものだ。

悠人本人が聞いたらさすがの英雄も恥ずかしさのあまり穴があったら入ってそのまま埋まるレベルだろうが、先ほども言ったようにこの伝承は何故か国によって伝承することを禁止されている。

それはわずか数年という歳月で今では伝わる地域以外のあらゆる人の記憶からその話が消えたほどの徹底ぶりだ。


そんなこともあって悠人はこんな状況でもただ懐かしいとしか感じなかった。


さて、詳しいことは追い追い説明するとして今はお決まりのセリフを言ってもらおう。


「よ、ようこそおいでなさいました。勇者様方!」





「...ということです」


悠人を除くクラスメイト達はその場で困惑しながらも静かにその説明を聞いていた。

詳しいことは省くとしてザッと説明するとこの国、人族のカリエント帝国を含む世界三大強国の獣人族のエスコバル獣国、魔族のドマ帝国の三国が実質的な戦争状態となっているとのことだ。


その原因は小さな村のいざこざからだったが次第に規模が拡大していき、最終的にサラエボ事件的な感じでそれぞれの要人が殺されたそうだ。


それらを踏まえサクッとまとめた結果、悠人たちにこの国を救ってほしい、ということが悠人たちクラスメイト40名を喚んだ理由であり目的だ。


その理由としてあげられるのは悠人たち勇者としての素質があるものたちは必ず何かしらの特殊技能、つまり固有スキルを持っていることにある。

その固有スキルというのは得手不得手があるにしろどれもが超がつくほど強力なスキルばかりであり、それはこの世界において大きなアドバンテージとなる。

それこそ貧乏が奇跡的に固有スキル持ちの子を産み成り上がったという話を逸話として聞くほどに重宝されており同時に絶対数が少なく貴重ということが知られている。


料理一つとってもスキルが存在するこの世界にとって自分だけのスキルというのはそれほど重宝するのだ。


そして勇者、つまりクラスメイト40人は前述の通り全員必ず何かしらの固有スキルを持っているため必然的に強いということになる。

それが例え非戦闘だろうと必ずだ。

例えば剣に関係するスキルの場合、その勇者はほぼ確実に一線級の実力を持っている。

例えば生産に関係するスキルの場合、その勇者はほぼ確実に名を轟かす名工などを超える技術を持っている。

再三にわたって言うがこのように固有スキルとは強力の一言に尽きるのだ。


そしてもう一つの理由、それが魔力。

この世界の主な動力源は化石燃料等ではなく全体の8割ほどを占めるのは魔力となっている

魔力とはその名の通り魔の力、魔法を使用する際に必要なものではあるが簡単な魔法に限っては生活の至る所で使用されている。

火打ち石などを使ってようやくおこす火も火の魔法を使えば一瞬だ

つまりこの国は魔力で動いているといっても過言ではないくらいに魔力は重宝されている。


そして先ほどの固有スキル同様に勇者として選ばれた者は魔力の総量が現地人より遥かに多い。

平均すると最低でも現地人の5、6倍以上、多い者は10倍にもなる。

そのためいくら初心者だからといっても戦術的価値、戦略的価値が計り知れ無いのだ。

悠人が聞いた話によると勇者育成のために国家予算の2、3割を割いているという。


そんな説明を受けてもそこはやはり異世界人補正、というものなのだろう、騒ぐことはなく仲間内でヒソヒソと何か言っているだけにとどまり少なくとも表面上は納得している様子だった。




「部屋は個人ごとに用意しているため自由に使ってくれ、何か足らないものがあれば遠慮なく言ってくれれば可能な範囲で揃えよう。では訓練は明日からだ、今はゆっくりとしていてくれ」


そう言って悠人たちは王室から自室へと移動させられる。

ここまでクラスメイトは誰一人声を出さず黙々と説明を聞いていたためこの自室に入った途端に両隣から大きなため息が聞こえてくる。

さしずめ普段感じられない緊張感に疲れたのだろう。


余談だが割り振られた部屋は王宮なだけあって綺麗でそこそこに広い。

無論、前回の時はこれの比ではないのだが日本人としては今回以上に狭くても全然構わないのだ。

ただ襲われた際に狭すぎると剣が振れない、というだけであり正直俺にはあまり関係がない。

まあ他の奴らはたぶんホテルみたいだ、とか言ってはしゃいでいるのもいるだろうが....


さて、そんなことはさておき明日からどうしようか....

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