第57話:天災の蹂躙

天災、と言われると人は何を想像するだろうか。

地震、噴火、大雨、ハリケーン、蝗害....etc、とおそらく住む地域や文化によって大きく異なってくる。

しかしそこに共通するのはそのどれもが人間が抗えない力による蹂躙である、ということ。

そしてそれは突然やってくる、というものだ。





その日、帝国軍は逃げ帰ってきた敗残兵の保護に大騒ぎとなっていた。


「怪我人は治療を!それ以外からは話を聞く!聴取には各部隊長があたれ!その後報告!」


第二陣司令官であるエリファレットは焦っていた。

エリファレットの下にある情報は敵方の兵数数万、大部分は雑兵であり、今回は波状攻撃を仕掛けるために楽勝である、というものだ。兵数だって装備こ質だって劣ってはいない。

敵方に魔法道具があることを加味しても勝利は揺るぎないものであった。計算上では。


だというのに第一陣が壊滅したというのだ。

第一陣は1500人。少数だが確かな実力がある。そんな第一陣の兵士が満身創痍の状態で第二陣へと駆け込んできたのだからエリファレットは底知れぬ不安に苛まれていた。


しばらくしてまばらにだが各隊長格から報告が入る。


曰く、目撃した敵は50人に満たない少数である。しかし一度に飛来した矢の数からみて数百人規模である。

曰く、直接的な攻撃は矢のみである。

曰く、森のいたるところに罠が仕掛けられていた。

曰く、交戦時間はわずか数分である。


「.....隊長が捕らわれ死傷者数は600人以上...逃亡兵を考えると損失戦力は1000人を超えるか....」


しかも敵方に被害が見受けられないのだから夜襲や奇襲の影響があったとはいえ、文字通りの完敗である。

これが戦況にどれほどの影響を与えるかは現状断言はできないが、小さくないことだけは確かだ。事実今でも動揺が徐々にだが部隊内を伝播していっている。


「どうするか.....」


ふとしたつぶやきは駆け込んできた兵士によってかき消された。


「報告します!200mほど前方に人影が3!武器を持っている模様です!」


「敵か!いや...3人だと?周囲に他の人影はあるか?」


「いいえ。人影の周囲は何もなく、平原のみのため伏兵は見当たりません!」


普通ならば農民か、敗残兵を狩りにきた盗賊かだと思うが、先ほどの報告の中に少数の敵、というものがあった。それを加味すると敵方が少数精鋭を運用していると考える。加えてブクスト区の運用可能兵力を考えると伏兵がいないことはすぐに理解することができた。

しかしたったの3人で来るのは理解できなかった。


「....念のためだ。100人で迎撃する」


「それならば私の隊にお任せください」


エリファレットの言葉に1人の隊長が手をあげたため、エリファレットはその隊に命令をくだし、その隊長はすぐに兵力を招集して迎撃体勢を整える。


「よし、今から向かうは不審者の確認である!しかし敵は少数精鋭を運用するため、もしかしたら不審者は自爆を前提にした兵かも知れない。そのため、我が隊にこの危険な作戦の命が下った!同時に一番槍の栄誉もいただく!見事成功させ、我らが栄光を示そうぞ!」


隊長の言葉に100人の兵が武器を掲げて士気を示す。たった3人に大げさなことだが、戦場において用心するに越したことはない。加えて一番槍の栄誉まであるとすれば兵たちはやる気になるだろう。

自信満々といった感じで隊長は騎馬にて先頭に立ち、100人の兵がそれに続いた。


しばらく行けば3人の人影ははっきりと視認できた。

そして同時に隊長含めて全員が驚きを隠せなかった。


「女だと...?」


見えたのは3人の女性。

1人は大柄で巨大な大剣を担ぐようにして持っている。頭にはバンダナが巻いてあるが普通の女性だ。

もう1人はおよそ戦場には似つかわしくない黒いレースやリボンをふんだんに使った服を着ている少女。鎌を持っている。

最後の1人は金髪に黒を基調とした服を着ている少女。腰に剣がある。


違和感だらけであったが、3人共々かなりの美女、美少女であることが彼らの判断を鈍らせた。


「よし、総員武器を構えろ。あの者らは殺さずに捕らえる事とする!おそらく何かしら情報を持っているからな」


隊長がそう言うと兵士たちは皆一様にニヤニヤとした笑みを浮かべて武器をとった。

そこからは3人の周囲を囲むように展開し、進んだ。

少女たちも構わず進んできた。接触までは5分もかからないだろう。





一方で、3人の少女達は揃って「うげえ」という顔をしていた。ドラキュリアに至っては普通に口で言った。


女性とは男性に比べて異性から視線を集める。故にだろうか、女性とは元来視線に敏い。それが身体の一部分に集中したり、いわゆる性的な目で見られることは割と簡単に見抜くことができる。

それに加えて3人は文字通りの美女美少女だ。こう言った視線には嫌という程会ってきたし慣れもしている。

だからといって不快感が拭える訳ではないが。


「早速吹っ飛ばしたくなってきたな....やるか?」


「まだです。もう少し近づいて完全に囲まれてから、の方がおもしろ....楽ですので」


「そうね。あんな低俗な下衆共に囲まれるのは我慢ならないけど、面白そうだからもう少し」


「へいへい。あとドラキュリア、ミラの言い直し....てもないが、その事をわざわざ言ってやるなよ」


「そうこう言ってる間に来ましたよ。どうします?か弱いフリでもしますか?」


巨大な鎌背負って今更そんなことしても遅いだろう、とヒスイが呆れたような顔をして首を横にする。

そんな呑気な事をしていると訓練されている正規兵なだけあって素早くヒスイ達を兵士は包囲した。皆威嚇するように武器を構えている。


(怖がりでもしたら面白そうだが....私のキャラではないな)


完全に余談にはなるが、ヒスイはこういったとき逆にニヤッと不敵に、牙を見せて笑うのがキャラであり、見た目からしてもか弱そうにするのはあってない。

今のメンバーで合うとしたら背丈と装備的にドラキュリアくらいだろう。本人の性格上絶対にやらないが。


囲んできた兵士の中から馬に乗った者がヒスイ達に近づく。


「ここから先は帝国軍の駐屯地である。貴様らには事情を聞く故、ご同行願いたい。こちらとしてもご婦人方に手荒な真似はしたくないので、おとなしく従いなさい」


「ハッ!そんなんじゃ威嚇はできても勧誘は無理だろ」


「そうですね。勧誘するならもう少しこう...造形からやり直してはいかがかと」


「見苦しい。素直に言えばいいのに。消しとばすから」


三者三様の否定のお言葉に馬上の兵士、この隊の隊長は一瞬ポカンとした後に顔を真っ赤にさせた。


「貴様ら、下手に出てばいい気になりおって!おとなしく投降しろ!抵抗して傷ついた身体とはやりたくないわ!」


「短気だな...それに下手に出てないだろ」


ヒスイがやれやれといった風に肩をすくめて首を振る。ドラキュリアとミラは2人してハァとため息をつく。そんな態度を取ればどう考えても精神を逆なでする....というより精神を直接いじり倒しすとうなものだ。

実際に言われた隊長は我慢ならないようでフルフルと震えている。


「総員かかれ!捕縛したものには2番目の権利をくれてやる!」


その言葉におぉ!と周囲に兵士が3人に群がろうと駆け出す。隊列も何もあったものではない。

この時点で隊長は確実に無能なのだが、当の本人は勝ったと言わんばかりの顔をしていた。

しかし、そんな顔をしているのは3人も同じであった。


「戦闘開始だ!」


まず飛び出したのがヒスイ。担ぐように持っていた大剣を素早く横方向に振り抜く。通常の人間ならば大剣を力一杯振り回したりしてもよほど切れ味が良くなければ人間を切り裂くなんて不可能だが、ヒスイは鬼である。膂力は人間の数倍はあるのに加えて天乃尾羽張アメノオハバリには身体能力強化の機能がある。

結果、ヒスイが振るった剣の軌跡には血が走り、その下には横から両断された形の死体が増産された。

それにより怯む兵士。ヒスイがそれを見逃すはずがなかった。


「特別サービスだ!爆ぜろ、火之迦具土ヒノカグツチ!」


今度は兵士の塊へ縦方向から天乃尾羽張アメノオハバリを振り下ろす。素早い斬撃に今度は2人犠牲になったが、それ以外は斬られていない。

これを予想していたのか兵士達は斬りつけた瞬間を狙って剣を構えたが、思いもよらない衝撃に周囲の兵士が吹き飛んだ。

近くにいた兵士はまるでミンチのように粉々に砕け、それより外にいた兵士は身体が赤い炎に包まれて暴れていた。


以前説明した通り天乃尾羽張アメノオハバリに搭載されたギミックとして刃を合わせた箇所を爆破するものがある。

それ自体は打ち合いを不可にする意味合いがあるのだが、所詮は当たった箇所のみのため効果範囲が割と狭い。

故に広範囲にこの爆破効果が及ぼされるようにユートが考案しヒスイが作り上げたのが火之迦具土ヒノカグツチ

まあ、簡単に説明すると魔力の過剰供給によって暴走を引き起こさせただけである。

本人が無傷なのは一重に強化された鬼種の頑丈さにあると言える。


「雑魚相手には物足りんが...まあ久しぶりにこいつ使えるから構わん!」


そして再度地を揺らすような爆音が響き包囲網の一角が完全に吹き飛ぶ。

ちょうど、爆発の衝撃で頭に巻かれたバンダナが外れ、種族を主張するツノが現れたところで隊長はようやく正気に戻った。


「き、鬼種!?何故こんなところにいる!」


もはや錯乱して逃げるという選択肢を失っているのだろうか、そんなことを叫ばずに無様に尻尾を巻いて逃げていれば助かる可能性があったというのに、隊長が助かる可能性がこれで潰えた。


「て、撤退だ!鬼種相手に戦ってられる...か?」


1人の兵士がそう叫んだが、最後の方は何故か疑問形になった。

その後ろにいるのは大鎌を構えたミラ。つまり叫んだ兵士は叫んでる最中にスパンと首を断たれたのだ。

頭と胴が分かたれてもしばらくは意識があるというが、鋭利すぎる刃物によって一息に断たれた男はしばらく自身がなにされたかわからないような顔になり、そのまま絶命した。


「逃げよう、だなんて考えない方がいいですよ?」


そう言って人の認識を超えた速度で人の群れへと突っ込むミラ。

それからはまさにミラ無双とも言える状態で、小さな体で大きな鎌を器用に振り回し、踊るようにして兵士を両断して行く。


くるりと回転する度に何人かの胴が分かたれる。

赤い鮮血が宙に鎌の軌跡をつくる。それは踊るようにしている舞うミラを引き立てる。


ミラは鎌の性質と戦闘方法上、実を言えば大混戦が得意である。剣戟、矢、魔法が飛び交う戦場においてその真価を発揮する。

特に魔法が飛び交ったりするとその魔法を吸収、反射などをしてより混戦をかき混ぜ、ミラは近づく敵を切り刻む。

今回は魔法こそ使われていなかったがそこそこの混戦のため、ミラは高速且つ確実に敵の戦力を削っていった。


では残りの1人であるドラキュリアはなにをしているかというと、なにもしていない。

ただ退屈そうに立っているだけ。それだけだ。

武器も構えずなにもしていなかった。


それを戦闘不可能な小娘と判断でもしたのか、兵士の1集団がドラキュリアへと走った。

大方人質にでも取るためだろう。そんな兵士を見てドラキュリアは思わずハァとため息をついた。


「痛い目会いたくなかった....あ?あ、あれ?身体が?」


「かませ犬、とはこのことかしら」


1人の兵士が問答無用で突っ込めばいいものをわざわざ剣を突き出してドラキュリアの前に立つ。

が、その時点で既にドラキュリアの術中であった。


「冥土の土産、というんだったかしら。私はね、吸血種よ」


ドラキュリアの眼が赤く染まる。

吸血種の特徴は色が白く、美男美女で夜によく行動する、というものがある。これがごく一般的な特徴だがその実人間とさして変わらない。それどころか夜型の美男美女ならばドンピシャで一致している。

では人種と吸血種を一目で見分ける特徴は、と言われたら本当に吸血種を知るものならば眼と言う。

どういった原理かは不明だが吸血種はその力を発揮する際に目が赤く染まる(しかし訓練次第で抑えることも可能)血眼。あるいは紅眼と呼ばれるその特徴的な眼は吸血種と人種とを分ける大きな特徴だ。

そして同時に、その眼を見たと言うことは吸血種が戦闘態勢に入ったことを示す。


「あら、こないの?」


そういって微笑むドラキュリアに対し兵士は攻撃を加えようとするが、先ほどの1人だけでなく全員がその場に、まるで縫い付けられたように動けないでいた。

そのうち踏ん張る声もなくなり、その場のみ兵士の怒号が響かない異様な場所となった。


「これくらい防いでくれないとやる気にもならないわね」


ドラキュリアは攻撃を加えていない。

ではどうして兵士が動けなくなったのか、それは吸血種の固有スキルにして特徴とも言える【魅了の魔眼】の効果による身体の拘束によるものである。

つまり大抵の相手は戦闘中、ドラキュリアと眼を合わせた場合は負けが確定する。


「さて、久しぶりにこの子にも血を吸わせようかしら」


もうまともに表情筋すら動かせなくなっている兵士の前でゆっくりとダーインスレイヴを鞘から引き抜く。

真っ赤な、まるで常に血を浴びているかのような刀身が露わになる。

数瞬、ドラキュリアの姿がブレるように消え、いつのまにか1人の兵士の胸にダーインスレイヴを突き刺していた。


「吸い尽くせ、ダーインスレイヴ」


ダーインスレイヴの特筆すべき点は血を浴びることでそこから魔力等を吸収し様々な恩恵を受けられることだ。

無論デメリットも存在する。使用者に吸血衝動を起こさせるものだが、その実剣自体が吸血する特性を持つ故のデメリットだ。

つまり剣は血を吸いたがっている。それを使用者にやらせることで血を浴びることができるということだ。


そして現在、人体に切っ先が埋め込まれた状態のダーインスレイヴはその血に反応し、吸い始めた。


【魅了の魔眼】による拘束のため身動きどころか声ひとつあげられず血を吸われていく兵士。

ものの数秒でミイラが1体出来上がった。


「食事の時間ね」


クスリと笑うドラキュリア。


人間、綺麗すぎるものには恐怖を抱くものだ。

今まさに、止まっている兵士が恐怖を感じているように。



それからわずか5分ほどであたりは血の海と化していた。


「さて、と....久しぶりに暴れられたし。どうする?こいつ」


戦闘中、混乱した隊長は逃げようと馬を駆ろうとするも馬が【魅了の魔眼】によって拘束され、結局特に何かすることもなく普通に捕まり現在ではドラキュリアの【魅了の魔眼】によって拘束されていた。

ちなみに他に捕虜はいない。


「一応捕虜として捕らえましょう。ドラキュリア」


ミラに促されてドラキュリアが動けない隊長の前に立ち、再び目を見る。


「投降しなさい」


ドラキュリアの【魅了の魔眼】は正確に言うならば魅了の一点に限る。では何故拘束できるのか、だがこれは相手を現在の姿勢に夢中にさせて拘束するというもの。

魅了する、という能力の下ならば如何様にもできるのが【魅了の魔眼】の長所である。逆に言えばどこまでいっても魅了する以外に使えない、という事だが、ドラキュリアにとっては大した弱点にもならない。

そして現在、ドラキュリアが行なっているのは【魅了の魔眼】を使用した命令の強制だ。


「は....い...」


【魅了の魔眼】の副作用としてトランス状態となっている隊長は自ら武装解除した状態で馬に乗り、ブクスト区の方へと移動していった。

これで次気付いた時には檻の中だろう。場合によっては死んでるかもしれないが。


「さて、次だ。速攻で片すぞ」


もはや第二陣の帝国軍も異変に気付いている頃だろう。

故に今度はゆっくり近づくのではなく、天災の名に相応しい速度で部隊に突撃していった。





エリファレットは突然の爆音に天幕から飛び出た。


「何事だ!誰か説明を!」


その叫びはすぐに悲鳴のような声と再び響いた爆音によってかき消されることになった。

更には先程まで確実に見通すの良かったはずの景色が今では真っ白な霧によって覆われており、数m先もきちんと見えないような状態になっていた。

異常事態。準警戒態勢を命じていたためエリファレット自身も剣を抜くが、それでも四方を完全に霧によって囲まれていては迂闊に移動もできなかった。


「くっ...誰か!報告を!」


そう叫ぶ間にも悲鳴や爆音が響く。

それでも正気を失わずに現状の把握に努めようとするのはエリファレットが有能であることの証拠だが、有能だからといってこの状況を打破することはできなかった。


ふと、エリファレットの目の前に人影が見えた。

ただし兵士のそれではなく、まるで貴族の娘のようなシルエットだ。


「何者だ!」


剣を構えて警戒する。

エリファレットは指揮官ではあるがそれなりに剣の腕が立つ。故に滅多のことでは負けないとの自負がある故の行動だ。


「初めまして。私は十二将が1人。フレミラ・バハムート・ドラコーンと言います」


黒いフリルが多用してあるスカートの裾を持ち上げ恭しく礼をする。見た目は完全に非戦闘員。どこかの貴族の娘と言われれば誰もが納得するであろう容姿だ。

しかし、そのすぐ後ろに大鎌が刺さっていなければ、の話だが。


「突然ですが貴方にはブクスト区へ同行を求めます」


身の丈以上の鎌を軽々しく持ち上げ、くるりと一回回してから背に構える。


「断る、と言ったら私はどうなるのかな?」


「どうもしません。ただ少し正気を失ってもらうかして連れていくだけですが.....どうしますか?」


あくまでも礼儀正しく脅す少女。


帝国において、部下を見捨てて上司が投降するともし無事帰れたとしても裏切り者の誹りは免れず、場合によっては敵前逃亡か反逆罪で極刑もあり得る。


「兵を置いては行けないな...」


「それならばご心配なく。もう、ロクにいませんから」


まるでタイミングを見計らったように霧が晴れていく。

現れた光景は地獄そのもの。地面にはいくつもクレーターじみた穴が空き、その周囲に血しぶきのようなものが散っている。天幕はどれも潰され、転がる兵士のどれもが生き絶えていることも理解できた。

数人だけ生かされているようだが、その兵士達も何かをブツブツと呟いていたり膝を抱えて震えていたりと明らかに正常の状態でないのがわかった。


「これは....悪魔か...」


エリファレットが思わず呟くが、それに対し目の前の少女はクスリと笑った。


「いいえ。私たちは天災。災害です」


おそらく、平時にでもその笑顔を見られたら見惚れるなりしていたのだろうが、エリファレットは冷や汗が止まらなかった。

美しいはずの笑みが今はとても恐怖に感じる。

そして左右から足音が聞こえてくるが、見なくてもその存在が目の前の少女と同等の"天災"だと判断できた。


「なんだ、まだ説得できてなかったのか?」


何が説教だ、脅迫だろ!とエリファレットは心内で思いつつゆっくりと声がした方へと顔を向ける。そして後悔した。


(鬼種....なんでこんな場所にいるんだよ!)


特徴的な額に生えたツノ。しかも折れてるとは言え2本ある。それが何を示すかは残念ながらエリファレットには分からなかったが、鬼種という時点で絶望的だということがわかった。


「だから問答無用で連れていった方がいいって言ったのよ」


反対方向を向くと、これまた目の前の少女のように可憐という言葉が似合う存在だが、目が赤い。

偶然にもエリファレットは吸血種の目が赤いことを知っていたが故にただただこの状況に恐怖することになった。


目の前には自称:竜種の少女(鎌)、右方向にはツノ2本の鬼種(大剣)、左方向には吸血種の少女(レイピア)。

そしてそれに対するエリファレットは細い片手剣の人種。


どう考えても勝ち目は無かった。

エリファレットが覚悟を決め、片手剣をゆっくりと地面へと置き、両手をあげる。


「わかった。投降しよう」


「そうですか。ドラキュリア」


次の瞬間、エリファレットの意識が闇に沈んだ。




【仮名:?】

天災との遭遇


自称竜種:1人

鬼種:1人

吸血種:1人


カリエント帝国

死者:およそ5500人(内500人は第一陣の生き残り)

負傷者:3人(精神的再起不能)

物的被害:5000人分のすべての資材

指揮官は行方不明


結果:カリエント帝国の壊滅


補足:3体は本来ありえない協力関係にあったため、ブクスト区側となんらかの繋がりがあると推測される。

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