第49話:第一回神前武闘大会


試合会場は屋外でしかもまだ始まってないと言うのにかなりの熱気に包まれていた。

設けられた観客席は既に埋まっており、立ち見客も大勢いることからここの領民がどれだけ娯楽に飢えていたのかが伺える。


この試合は正式名『第一回神前武闘大会』というもの。

形式上神前としているが特に神から何かあるとかトゥールが敬虔な信者とかではない。こうしといた方が色々楽なのだ。

内容は説明した通りの異種格闘技戦のようなもので、円形の試合場にて1対1のトーナメント戦。武器は貸し出しの武器或いは持ち込みの武器で防具は割と自由。

勝敗の決し方は降参か審判による戦闘続行不可判定。

戦闘スタイルは自由で剣槍弓杖槌魔法なんでもありとなる。

故か会場付近には様々な武装をした男女が揃っていた。


「第1試合から第五試合までの出場者は受付にお願いします!」


そんな声がかかったので受付へと進む。

俺の試合は第三試合。相手は槍使いらしい。

そんな感じで何気なく相手となりそうな槍使いを探しつつ受付での手続きを待って、数分後にようやく俺の番が回ってきた...のだが、受け付け係が俺を、正確には俺の服装を見るなり少し不思議そうな顔をした。


「えー...ミヤさんですよね?」


「ええ。そうです」


「その服装で出場するのですか...?」


「そのつもりですが、何か問題がありましたか?」


そう言ってその場で回って不正がないかを強調する。

その行為に受け付け係が少し惚けたような感じになったが、きちんと許可されていることを確認すると手続きが完了した。


...まあ、受け付け係が戸惑うのもわからないでもない。

なんで俺の今の服装はこの世界どころか地球でも二度見されること請け合いだ。

白い和装、陰陽師の服装をより動きやすくしたものに顔の上半分を覆う狐面、とコスプレ感物凄い品で、いつだったかつい思いつきで作って十二将、特にヒスイあたりに好評だった余興用衣装のようなもので不思議感を出すのにはこれ以上ないものなのだ。ちなみに草履。

武装は持ち込みの白鞘の直刀と短刀。

感じ的にイラスト化した宇迦乃御魂うかのみたまといった感じだ。


「.....」


さっきは声を出したがここからは声出しは無しで覆面選手と言った感じで行こうと思う。

そんな状態で選手控え室に入ると中にいる選手達がいた。

俺は最後に受付をしたので9人。全体的に剣が多いが槍も2、3人はいた。魔法師はやはりこういった試合は不得手なようで見当たらなかった。


とりあえず準備運動等は必要ないので端の椅子の方で選手の方を観察しているとこちらへと近づいてくる者がいた。

槍持ち、おそらく対戦相手だ。


「....なああんた」


優男、といった感じの面持ちだ。

そんな男が何の用だろうか?とりあえず声は出せないので顔だけそちら向ける。


「....」


「あんたは女か?男か?」


お、おう...突然何を言い出すかと思えば....


「男だったら容赦はしないが....俺は紳士をだからな。女ならば棄権をしてくれないか?」


「.....」


よし決めた。ボコろう。瞬間的に八連撃ぐらいしてボコろう。もっと時間をかけたいけれどそれで拮抗したなんて思われたら癪だ。瞬殺だ。


「なんだ?喋れないのか?ああそうかだからそんな変な覆面なわけだ。あー...じゃあこうしよう。女だったら右手を出してくれ」


無論出さない。ただ睨むだけ。

というかもうその場から立ち去ることにした。身長だけはいっちょまえにあるので上から目線がうざいが、知るか。

試合始まるまで隠形して絡まれないようにしておこう。


何も言わずに去っていっていつの間にかどこかへいってしまった俺を少し探していたようだが、第1試合が始まるとそちらを観察するように見ていた。

それから順調に試合は終わり、ついに第五試合目、つまり俺の番が来てしまった。

来てしまったのなら姿をあらわすほかなく、仕方がないのであいつが入場してから入ることにした。


「さあでは、第五試合の選手入場です!」


魔法道具で実況でもしているのか実況者の声が響く。

その声を聞き俺の対戦相手がなんかドヤ顔で入場していった。


「まず入場しましたのはケール・マクレミッツ選手!武装は槍。その甘いマスクの下にはどのような苛烈なる攻めが眠っているのか!前評判は堂々の5位、優勝候補の1人です!」


え、まじで?

というか前評判なんてあるのか...さしずめ前評判1位は圧倒的な差でルークなのだろう。そしてたぶん俺は無い。

あるいは12、3票入ってるかもしれない。


「さて、そんなケール選手の対戦相手は....?え?情報が一切不明なの!?...失礼しました。対戦相手はミヤ選手です!」


雑な紹介だったがそのようにしたのだから文句を言わずに入場する。一瞬だけ俺の姿を見てシンとなったが、まあ予想通りの反応なのでどうでもいい。問題は目の前の優男だ。

先ほどの押し付けなのか近づいて来て左手を差し出して来た。


「互いに健闘を祈ろうではないか。仮面の者よ」


ニコッと笑いかけてくるのに観客からは黄色い歓声があがっているがもう何度目かの男からの笑顔。本当に気持ちが悪いのだけれども吹き飛ばしてしまってもよろしいですか?


「.....」


「あ、ちょっと」


無視して距離を取る。

それで馴れ合うつもりはない事がようやくわかったのか優男の方も下がって槍を構える。

俺の方も剣を半身で左手に構える。

それを合図ととる、審判が俺らを見る。


「では、第五試合、初め!」


「はぁっ!」


審判の合図と同時に優男が地を蹴って飛んでくる。

腕の長さと槍のリーチを上手く使っての先手必勝の技なのだろう。脚力を魔力でブーストしているので瞬間的な速さは相当なものだ。


が、残念ながらその程度の速さは寝起きでも捌ける。

俺は当初の予定を遂行するべく、一度剣を右に引いてから地を蹴って迎え撃つ。

槍のリーチの長さは中距離からの戦闘に適しており、相当な使い手でなければ近距離の戦闘に切り替えるのは難しい。

故に優男は片手での最大限離れた位置からの攻撃に出たのだが、まさか突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。一瞬戸惑ったようで隙ができた。


「....!」


魔力で剣の道筋を作って腕を高速で動かす。

狙ったのは両肩、両肘、両手首、両膝の八箇所。

決意した通りの八連撃だ。死なぬように峰打ちではある。

ついでに当てると同時に魔力も流し込んでやったので一時的に関節は使い物にならなくなり、酔った風な感覚に襲われるだろう。


何も言い残さないまま優男は沈んだ。


「....しょ、勝者、ミヤ選手!」


一瞬静まり返った会場だったが審判のその声により今度は割れんばかりの歓声が会場中に轟いた。

俺はぺこりとその場で一礼して控え室へと戻る。

これで今日の俺の試合はあと一試合あるが、それは午後3時からであるためしばらく時間が空いた。


その間は相変わらず別日にやると決めていた仕事のようなものを消化しつつ街の声に耳を傾けていると少し良くない噂を耳にしてしまった。

なんでも近くの村で病が猛威を振るっているそうで農業が全滅どころか死人こそ出ていないものの感染して重症化した者もいると言う。


「流行病か.....それとも新手の病か?どっちにしろ手を打っておく必要はあるか」


それから試験薬と呼ばれる解析のスキルを付与した薬を手早く調合する。これ自体に体力を少しあげる程度の治癒効果しか無いが病状を診るのにはうってつけだ。


「エレメンタリア、いるか?」


そう虚空に問いかけると一瞬でそこにエレメンタリアが現れた。


「お呼びですか?」


「ああ。悪いけどこの薬を近くの村に持って行ってくれないか?病気が流行っているらしいからその対処をしなくちゃいけなくてな。エレメンタリアなら病気とは無縁だろ?」


「ええ。喜んで。では」


薬を渡したらエレメンタリアはすぐにその場から消えた。

これで明日には統計結果が出ているだろう。とりあえずこれで安心というわけでは無いが布石は打っておいた。

本当は仮眠でも取れればベストなのだが、残念ながら色々やってるうちにあと30分もすれば試合となってしまった。

仕事も意外と進んだので俺は着替えてから騒ぎになるといけないので隠形状態で会場へと向かった。

そこではちょうど、ルークの試合のようで会場は熱気に包まれていた。


ルークが扱うのは長い両手持ちのロングソードで対する相手は片手剣と防御用の短剣の二刀流。

丁度ルークが鍔迫り合いに持って行ったところだった。

そうなると重い両手もちの斬撃を軽い2本で受け止めねばいけなくなり、それは次第に崩れていった。

一瞬対戦相手が攻撃に転じようかと逡巡した時には既にルークは動いており、無駄のない動きで双剣を巻き上げていた。

そして、そのまま剣を首元につけて勝負はついた。


さすがに上手い。

鍛錬と経験に裏打ちされた動きというもので詩的に表現するならば丹念に折り返し打たれた日本刀、といった感じだ。

俺のような努力否定ノーワークスではない。いわゆる努力の天才であり、天性の才能を持つ者でもある。

それは異世界からの勇者なんていなければ確実に勇者に選ばれていたであろう実力と気質。


努力を知らない俺からしたら羨ましくもあり、同時に理解できないものでもあるが。


まあ、何はともあれルークの試合が終わったと言うことは時間的にそろそろ俺の試合だろう。

次の相手は初戦とは違い剣使い。それもルークと同じ大剣を使う大男で腕の立つ戦士だ。

なんでも元犯罪者として有名で今では傭兵や警護の仕事についていると言う。街中では人食い虎とも呼ばれていた。


「では二回戦第四試合の出場者。バウティスタ選手、ミヤ選手は受付へお願いします」


そう係員からの声かけがあったため、今度は無用なアホを生まないようにさっさと受付を済ませて控え室の隅にて出番を待つ。今やってるのが第三試合のためその次だ。


ちなみにこの武闘大会の参加者はふるいにかけられた32名。

現在が2回戦なので16名。決勝に行くためには2回戦目合わせてあと4回は戦わねばならない。幸いなのかわからないがルークと当たるのは決勝のみとなっている。

それとどうやらこの試合での賭け事が行われているようで、前評判はそこから来ていたらしい。

故に俺のオッズ超高い。2倍以上あった。反面ルークは1.2倍とさすが1位だった。


しばらくして一際大きな歓声と共に第三試合が終了した。

第三試合は剣士対魔法師だったらしいのだが、どうやら魔法師が勝ち進んだらしい。限られた場所での接近戦において魔法が勝つ、ということはかなりの凄腕だったのだろう。

これを機に魔法の世界がより発展することでも望もう。


「さて、次の試合は一回戦第二試合勝者 人食い虎の異名を持つバウティスタ選手!対する相手は一回戦第五試合において圧倒的な実力差を見せつけた謎の仮面を被る者、ミヤ選手!」


実況の声を聞いてから姿を現してとっとと入場する。

選手入場に際して観客から歓声が爆発するがあまり気にしないようにして開始位置にスタンバる。

今回の相手は大柄で厳つい顔を恐怖を感じさせる笑みを浮かべている。その名の通り人食い虎のようだが、無闇に喋りかけてこないのは好都合だ。変な因縁付けられたり優男みたいなのだったらウザいからな。つい消したくなる。


「では、試合を始めましょう!第2回戦 第四試合、始め!」


「....!」


大剣を相手取る際に最も有効なのは大剣の届く範囲外からの攻撃なのだが、今回は大剣の間合いの中の中に入る。

大剣はその重さと大きさ故に取り回しは不得手とする。

相当な腕がないと内に入られた途端に攻撃どころか防御すらできなくなる。

今回はその正攻法を取ってみたのだ。


「ハッハー!甘いんだよ!」


なんだかやたらテンションが高くなった大男が剣を横に振るう。どうやら筋力だけではなくそれなりに扱い方をわかっているようで、横降りから器用に俺の進路を潰してきた。

その状態からすでに身体は次の攻撃につなげる体勢をとっているのだからかなりのやり手だ。まだ荒い部分はあるがおそらく才能があるのだろう。故に、搦め手には弱い。


俺はあえて振られる大剣を剣で受け止め、その場で軽く跳ぶ。すると横降りの剣によって上方向に弾かれたため、跳んだことも合わさってその場で逆さとなった。

曲芸じみた、というよりもこれは曲芸の域だ。

悲しいかな比較的小柄故にできる芸当だが、不意は打てたらしい。


「なっ...がっ!?」


逆さの状態で短刀を取り出し大男の側頭部に叩き込む。

すかさず反対側の側頭部には蹴りを打ち込んでやると一瞬耐えたが大男はぐらりと体勢を崩し、地へと伏した。


相変わらずの速攻試合。

観客からしたら終わるのが早すぎて何が起こったかあまり理解できなかっただろうが、あいにくとこの程度の相手ならばこのくらいの時間でも遅いくらいだ。

まあでも、ある意味観客は盛り上がるのでなんの問題もない。


俺は今日の試合を全て終えたのでとりあえず一礼だけして帰ることにした。エレメンタリアからの報告も聞かねばならないしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る