第33話:襲われている村⑦

「それでは、村を救ってくれた英雄様達と、新たな村の門出ついでに新村長の就任を祝いまして。乾杯!」


「「「かんぱーい!」」」


その副村長の音頭と共に村人がドッと湧き、あちらこちらで村人は陽気に歌を歌ったり、その歌に合わせて楽器を鳴らしたり、踊ったりとまさにお祭り騒ぎと化していた。

その光景は収穫祭や年初めの祭り以上の盛り上がりを見せており、村の真ん中には色とりどりの野菜や香ばしい匂いの肉、更には高級食品のカラメルハニーですら贅沢に置かれている。


大人達は浴びるように酒を呑み、大声で笑いながら語らい、そして踊る。

子供達も年に数回しか味わえないお祭りのような雰囲気を大いに楽しんでおり、数こそ少ないもののその声は大人達に負けず劣らずの声量だ。


そして、そんな宴の特等席、より一層豪華絢爛な食材が所狭しと並ぶ場所のいわゆるお誕生日席には、白けた目のユートが座っていた。


「盛り上がりすぎだろ.....」


ポツリと漏らす本音はすぐ隣でドカドカと食っているアリアにも届かず、静かに食べているフィアとティファ、それにシスルスにも届かないまま、喧騒に溶けていった。





時は遡ることほんの6時間ほど前まで遡る。

丁度その時は村長邸に残っていた微かな呪やら人に害を為す悪魔の残り香を祓い終え、証拠品を携えて広場に戻ってきた時であった。

まるで見計らったように上がる歓声と拍手。

見やると村人が輪を作っており、その中央には儀礼用に装飾が施された槍(俺貸与)をカルデラが天へと掲げていた。


「どうやら....上手く受け入れられたらしいな」


一応予防線は張っておいたが、問題は無かったようだ。


「ユート様」


「ティファか。どうした?」


「結果報告です。改めて周囲に怪しげな魔力の動き、風の動きは観測されず、悪魔の浄化跡にはもう一度聖水を撒いておきました。それと村長のことは滞りなくカルデラに決定、新たな役職としての副村長にはローソに決定です。他にも徐々に代表を決めてユート様が示した通り議会制をとるようです」


「村なら直接民主制でもいいけど....了解した。報告ご苦労」


「はい。それと早速、副村長の提案によりこの後に酒宴をやるようです」


「.....気のせいだろうか?不穏な言葉が聞こえたぞ?」


「続けますね?その酒宴ですが、生まれ変わったという意味で村の生誕祭兼、ユート様方を讃える宴だとか....」


「やっぱりか....」


酒宴と聞けば大概はいいイメージかもしれないが、人によってはおおよそそうは言い切れない。

まあ末端の参加者で行動が縛られないのならいいが、今回催されるという酒宴の主役はもちろん新村長であるカルデラ、副村長であるローソ.....と俺らだ。

しかも下手をしたら村の伝承にまで祭り上げられるレベルのことを今回、客観的に見ても俺らはやってしまっている。

.....どうしよう。全力で拒否したい。


「拒否は無理だと思いますよ?アリアさんが喜んではしゃいでいましたので」


「ですよね〜.....はぁ....」


お酒が呑めないわけではない。むしろこの世界に来てからは割と普通に飲んでいる程には呑める。

が、酒宴というのは得てして呑みすぎてしまうものであり、翌日あたりに二日酔いで苦しむものだ。

そしてたぶんアリア辺りは酒を呑んで飲まれかねない。

それに酒癖悪いし......身内の恥を晒したくはないのだが、喜んでいるとなるとアリアはテコでも動かん。


仕方ないけど.......たまにはいいかな。


「了解した。だがくれぐれも呑みすぎるなと釘は打っておいてくれよ?特にアリア。あいつには明日帝都に転移してもらわないかんのだからな」


「わかりました。それで....ユート様はこの後はどうなさるのですか?」


「特にないが....強いて言うなら労いだな。特にリグリットには報酬渡さないかんしな。功労者として」


今回の作戦において一番の功労者はリグリットだろう。

無論、戦闘をしたフィアとティファ、村人を守っていたアリアなど他にも候補者はいるが、俺の中ではリグリットが一番働き、相応の結果を出してくれている。


ぱっと見地味でも諜報というのは大切なのだ。


一つ例を挙げると我が国が誇る三英傑が1人、第六天魔王 織田信長は対今川義元戦である桶狭間の合戦において多勢無勢という数の差を奇襲という形で翻した。

その際に一番の功労者に義元に一番槍をつけた服部 一忠でも義元を打ち取った毛利 良勝でもなく、今川軍の本陣の場所を伝え奇襲を成功させた簗田 政綱を選んだという。


そういうことを踏まえ、功労者はリグリットだと選んだのだ。


「報酬ってのも他人行儀な気もするが、まあいいだろう。お前らもいるか?」


「....そう言われると困ります」


「冗談だ。全員にお疲れ様として大概は好きなものをやるさ。今回は久しぶりに半分くらい本格的なものだったしな。さて、戻ろうぜ」


自分でも何が愉快かはわからないがくつくつと他人から見たら不気味な笑い声をあげ、皆の下、馬車へと歩いた。

後はまあ、休憩時間だ。

これから準備をしてそんなに盛大な酒宴をできるとは思わないので、たぶん大丈夫だろう。


「おっしゃあ!盛大なのやるぞ!」


「「「「おぉー!!」」」」


......たぶん。





とまあ、こんな事情もあり、いくら6時間あるとしても復興とかは何故か後回し、無駄に手際よく男衆は力仕事、女衆は大量の料理を作り続け、驚くことに俺らが馬車で駄弁ったりしていたら復興の前段階である片付けと酒宴の準備が共に終了していた。


そして更に予想外なのが、ちょっと村の料理舐めていたことだ。

焼きたてのパン、具沢山のスープ、狩りを生業にしている者たちが狩ってきたジビエ、数多くの酒類の中には貴重なカラメルハニーを使ったミード、つまり蜂蜜酒までもが所狭しと並んでいるのだ。

そのせいでさっきからアリアはドカ食い、浴びるように貴重なミードを飲みまくっている。

フィアとティファはそれなりに丁寧に食べているのだが少しお酒の減りが早い気がする。

シスルスは刀だけあって正直食事はあまり必要ではないらしいのだが、今は果実酒と甘いものを静かに食べている。

リグリットは基本的に肉を食べ続けた結果早めにギブアップ。ハピアとクラーリは奴隷根性が身についているのか一応栄養を考えつつも肉や魚などの手っ取り早く栄養が取れるものを結構な量食べている。


まあ端的に言えばみんな楽しんでいるのだ。相当。


「ムグ.....ユートのやつに比べると劣るが.....ンク、量食えば問題はない」


「食べながら失礼なことを言うな!というかお前は明日もう一仕事あるんだからな?そこらへん頼むぞ」


「問題....ンク、ふぅ〜...ない」


おもくそ心配だよこのヤロー!

明日、アリアには俺と共に帝都へとロックの家庭魔法教師を探しに飛んでもらわないかんのだ。

いくら帝都が近いとはいえ馬車で休憩も入れればおよそ3日程、運よく前のようにスムーズに行ければ2日と言ったところだ。それならアリアに空間転移でもしてもらって一瞬で行って見つけてきた方が楽である。


「酔って埋められても困るしな.....まあ、さしもの馬鹿アリアも元魔王としてそんな失態はおかさない....と信じたいから信じるようにしよう。俺も食べよっと」


明日には明日の風が吹くというものでいくら考えても未来なんて読めないのだから気にしても仕方がないだろう。

俺はそうして考えを放棄、手近にあったミードに手を伸ばす。


「......おぉ....すごいなカラメルハニー」


カラメルハニーのミードは口に含んだ瞬間、口内いっぱいに強い甘みが広がるにも関わらず引きはよく、アルコールの微かな苦味もあいまってかすぐに2口目に行きたくなる味だ。

更にその甘みは程よく空いた胃に食欲という名の衝撃を食らわされる。


まあ特段我慢する必要もないため手近な野菜や肉、パン、時に果物類を口にしつつ無作法にならず失礼にもならない程度に箸を進める。


それからしばらく食事を進めていると、ふとトントンとテーブルがノックされるのに気がついた。


「ミヤ...じゃなくてユートなんだっけか?我らが英雄様は」


「.....随分と馴れ馴れしいんだなお前」


ミード片手に気障ったらしい口調で話しかけてきたのは新たな村も代表者、カルデラであった。


「俺の美点だよ。それにそっちも俺のことをカルデラって呼んでるだろ?だからノーカンだ。いいだろ?」


「......まあいいか。それで、何か用か?」


「個人的なお礼だよお礼。面と向かって言うのは恥ずいが、この村を救ってくれてありがとう。お前さんには感謝してもしたらないが、この村の村長として感謝する」


以外と真面目なカルデラに若干驚きつつ、カルデラの持つ杯に自分の杯をぶつけて応えた。まあ最初に気障ったらしかったからその仕返しだ。

するとその時背筋がゾクッとする感覚、具体的には誰かの目の内でここら辺に薔薇が咲き乱れてそうな悪寒がしたがそこはまあ気にしたら負けだと思うので気にしない。

そんな少し離れた位置で女子数人がこっちを見ながら「グ腐腐腐」とか笑っていたのなんて見ていない見ていない.....


「まあ礼もこれくらいにしよう。お前と話したいという奴がいてな、会ってやってくれるか?」


「ん?まあこのままでいいなら構わんが?」


「ん、そうか。いいってよ!さて....頑張って死ねこのモテ男!」


「.....は?」


カルデラが頭上で大きく丸と示したと思えば唐突にカルデラの表情が嫉妬か何かの色で染まり走り去ってしまった。

そして.....数秒後、いくら索敵していなかったとはいえ先ほどまで全く感じていなかった複数の気配が、甲高い歓声と共に突然周囲に現れた。


「「「「英雄様!」」」


.....そのあとの記憶はあまり思い出したくない。





悪魔事件報告書


今回の事件において証拠品として押収した悪魔召喚の報告書と実際悪魔召喚に使われたと思われる魔法陣を調べた結果、『村長は何者かによって唆され、"自身の身体を触媒とした"悪魔召喚を行い悪魔に身体を奪われた故の凶行』と結論付けることとする。

能力や魔法陣より悪魔の種類を人体を依代としたフェロモンを使用する吸血型の上級悪魔と断定。その他悪魔が生み出した下級の悪魔は2匹以外に見当たらず、その2匹も駆除済み。


悪魔による死者は奇跡的なことに村長1人だが、村長邸に仕えていた侍女4人は長い間吸われ続けていたのか中毒症状があり、更に戦闘直前に多く吸われた影響により身体は衰弱、貧血と悪魔の瘴気にあてられた呪いの症状があるが命に別状なし。今後要リハビリ。


悪魔となった村長に唆された男3人のうち、1人は死亡、残りの2人は村人からの温情により村からの追放処分となった。


その他、村長を唆したと思われる人物、異世界の者或いはそれに関する者と思われるがその者の詳細は不明、事件自体は解決したが、今後もこの者が暗躍する可能性が高いため、この人物を最高警戒人物と設定する。


以上



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