ぶかつのしょーとすとーりー
恵口桜菜
お題『ツンデレババア』
祖母の誕生日。当時お裁縫が大好きだった私は祖母にうさぎのぬいぐるみをプレゼントしました。赤いワンピースを着た、白いうさぎさん。耳に付けた花の飾りが可愛さの見せ所。どうしても目が可愛く縫えなくて、何度も何度も解いては縫い直し、解いては縫い直し、一生懸命作った。祖母は間違いなく気に入ってくれると思っていました。
「下手くそかねぇ。かがり縫いの大きすぎっし玉留めもようできとらん。いらん」
元々毒舌な人だということは知っていました。だけど、いらん、はあんまりじゃないの?
その日から私はお裁縫が嫌いになりました。
祖母のことは大嫌いになりました。
祖母のお葬式。出棺を見送った後に祖父が懐かしいものを見せてくれました。
「これって」
「覚えとったかあ。ばあさん大事に財布の中入れとったばい。下手くそか、下手くそかって財布ば開けるに幸せそうな顔ばして言いよった」
「ばあちゃんが……?」
祖父は嘘をついているのだと思いました。そう自分に言い聞かせました。
「冗談でしょう? うさぎさんは、じいちゃんが持っていてくれていたんでしょう?」
「冗談やなかあ」
「だってばあちゃん、いらん、って言いよったし」
「ツンデレやったけんね。うちのばあさんは」
間違いなく最近覚えたであろう単語を得意気に使う祖父。ツンデレって。そんな……。悔しさというか申し訳なさというか、切なさというか、そんな感情が私を蝕み始めました。
私は泣いていました。
少し黒ずんだうさぎさんが、私の手のひらの中で万華鏡のように輝きました。
嬉しかったなら素直に嬉しいって言えばいいのに。そしたら私、もっといっぱい下手くそなぬいぐるみばあちゃんにプレゼントしたのに。
祖母の1周忌。お仏壇には、下手くそか、と不機嫌な顔をした遺影を囲むようにして、私の作ったぬいぐるみが溢れ返るくらいたくさん置いてあります。
天国の祖母が喜んでくれているといいです。
〈感想〉おばあちゃんの御冥福をお祈り申し上
げます。
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