MAGIMAGI☆パンでみっく
ありい みやび
第0話:プロローグ
空を飛びたいという願望。
皆にちやほやされたいという願望。
世界を如何としても牛耳りたいという願望。
願望は、何に宿る。
願望は、意思なる《もの》に宿る。
人間は望む生き物――存在そのものが器。
夢は見るものではなく――腕で伸ばし掌で掴むもの。
煮るなり焼くなり燻すなり。何か一つでも二つでも、手を加えてやらなければならない。
夢を細工する。
夢が器から零れることはあるだろうか。
ある。いや――否、無い。
零れたとしたら、それは夢ではない。
夢ならば、壊れなければならない。
欲を注ぎすぎた器は、朽ちなくてはならない。
夢は彷徨う。しかし、夢が悶えることはない。
悶えるのは――――人。
逝くのも夢ではなく、人。
夢は宙を漂うことは無く、地上にいつだって転がっている。
それならば、地上に星は、あるのだろうか。
輝く星が天蓋に散りばめられてりるのなら、地上に蔓延る人間は星という存在に値するのだろうか。
否――――値しない。
星は、煌びやかでなくてはならない。
外殻だけ煌びやかでは、万一外殻を剥がされては中身が筒抜けになってしまう。
それではいけない。
覚悟を持った人間こそが、夢という名の馬鹿げた業を背負うことが出来るのだから。
そんなことを、誰かが唄っていたか。
今はその歌手の名を思い出すことが――――
出来ない。
星をつかみたいという願望を右手に握っていた。
僕は、星が好きだ。
でも愛しているという感情は抱いてなかった。
星が少し明るいか、暗いか。
目が悪い僕には、分からない話だった。
しかし――好意以上の感情を胸の内に秘めていた。
空は、普段は青い。
銀世界にだって姿を変えるし、紅紅葉と澄色景色へと変貌もしてみせる。
空はイリュージョニストだ。
掛かった夜に白い吐息を吹きかける時もあれば、夏の夜には鈴虫のオーケストラをBGMに天体観測を行うことが出来る。
みんなが吐息を立て羽を休める時間帯に、星はきらめき、点々と輝く。
それが美しくて堪らない。
それは、誰しもが知っていること。
天に、一日一度の華が開く。
それは、日常だ。
その日常の扉は、昼ではなく夜にある。
それを知った瞬間、僕の世界がちょっとだけ広がった気がした。
僕が初めて星を見たのは――――
僕が、六歳になったちょっと後のこと。
偶然だった。
テレビで流星群が見れるという吉報もなければ――
クラスの間で流星群が話題に上がるということもなく。
望遠鏡を担いでマンションの屋上に昇っている子でさえ、その日に限って黙々と読書に耽っていた。
綺麗だと思っていた流れ星は、綺麗ではなかった。
僕が住んでいた一つの町は――――死んだ。
それから僕は星が少し嫌いになった。
花は人を殺さない。
人の住む街を――大切な人を有象無象に殺めたりはしない。
殺めるとしたら、何だ。
人が人を殺さない限り、人が病に侵されない限り。
己が己の生を断ち切らない限り――
言葉は紡がれ。
大地には足跡が映り――――
吐息が止むことは、ないはず。
流星群は、何だ。
天災。
災害。
「……ァ」
「…………」
「あぁああああああああああああああああああああああああっ!!」
独り身となった僕の頭上に、一羽の青い鳥が羽ばたいていた。
《流星豪雨事件》
《死者:不明 行方不明者:不明》
《生存者:?????名》
《被害状況:不明》
《美佐蔵町生存者:八王子隆丸》
《豊島光彦》
かつて――美佐蔵町という町があった。
東京都北東部。
埼玉県南東部に属する《美佐蔵町》という場所は。
流星群の被害によって、町ごと消し飛んだ。
爆心地と称されるようになったクレーターは。
いつしか巡礼地となった。
魔法を司る地として。
魔法を持たぬ者が、魔法使いになれると。
未知なる力を手にすることが出来ると。
そんな不謹慎極まりない噂を垂れ流しにしたのは――――
メディアか。はたまたユーチューヴァ―か。
それとも、野次馬の中で魔法の力に目覚めたうつけか。
どちらにせよ、美佐蔵町で住んでいた者としては、あまり気分はよくない。
扇動し、爆発させ、拡散させる。
それが有効手段。メディアの上等手段だ。
でも、奇しくも魔法使いになれるは事実だった。
いや――それはメディア様の印象操作に近しいものがある。
実際は、魔法が使えるようになる。だ。
《汝……夢を叶える器也》
これはある魔法少女が紡いだ唄を、少し捩ったもの。
ことの始まりは、そのワードが紡がれた旗が、美佐蔵町跡地にぽつりと立ててあった。
《汝……夢を叶える器也》
《あなたは、夢を叶えられる。
あなたという存在は、可能性という希望で満ち溢れている。
いつか――夢という場所へ辿り着ける》
この唄を聴いたのは、神楽歓楽街という地に身を置いてから数日が経った頃。
街灯がやたらと照りつけるようで、やや肩身が狭いまま道端を闊歩していた最中――
その唄は。
その眼差しは。
その唄声は。
星と呼ぶに相応しいものだったのかもしれない――――
それからを期に、俺は星が少しだけ好きになった。
嫌いになった頃より、ほんの少しだけ。
だから今も、《天体観測》は欠かさない。
二週に一度行われる《ライブ》に。
今日も――タオルを額に巻き、ありったけのペンライトをバッグに詰め込み。
夜の街を掛ける。
今宵も、《天体観測》が始まる。
MAGIMAGI☆パンでみっく ありい みやび @urayaan
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