蒼星へのザイオキスタ
鶴来絵凪
第1話 蒼い惑星
超能力、超自然技能、悪魔の技、サイキック、第六感、オカルト。人々はその力を様々な呼称で呼んだ。
ある人々は、この力の到来を歓迎した。新しい時代の幕が上がると期待する人々、好奇心から彼らを肯定する人々、理由は様々あれど、EXAホルダーたちは好意的に受け入れられていた。
―――しかし。
それは、あくまで一部の人間だけだった。あるいは、最初のひとときだけだった。
進化した彼らは、あまりにも優秀すぎた。EXPホルダーは普通の人間とは比べ物にならない、力と頭脳を持つものが大半を占めていたのだ。そんな彼らが社会に出れば、普通の人間の立場がなくなるのは必然だっただろう。
始めに持たれた期待は、次第に嫉妬に変わった。好奇は畏怖に変わった。そうやって肯定は否定になって、歓迎は忌避に変わった。
「異物だから」「ありえない存在だから」「気味が悪い」「生物的にも、物理的にも道を外れている」理由は様々に作られた。けれど、本当の理由はきっと一つだったに違いない。
「新たな強者の登場は、同時に己の淘汰を意味するから」―――それは当然といえば当然の自然法則で、それゆえにEXAという進化は、進化しなかった人類にとって脅威となる存在に変わった。
そして―――多くの人々が彼らを追いやり、差別した。日の当たらぬじめじめとした世界で、彼らを奴隷のように扱った。生まれてきたEXAホルダーを、忌み子として捨て、時に殺した。そうでなくては、誰もが不安で仕方なかった。
―――いつか、自分たちが滅ぼされてしまうのではないか、と。
そして、不安は現実のものとなった。
ぴりり、ぴりり……ぴりり、ぴりり……
「……んん」
機械的なアラームが耳元で鳴り、坂上将磨はゆっくり目を覚ました。
時刻は六時。いつもならまだ寝ている時間だ。そして、普段ならこんな時間に自分を起こした目覚ましを黙らせ、二度寝に入るだろう。
だが、将磨はそうしなかった。
今日は彼にとって、重要な日。
この鬱屈とした世界から飛び出し、新天地へと……いや、正しくは故郷へと向かうための特別な日だ。
その特別な日のため、むくりとベッドから起き上がり、布団をたたむ。
「とりあえず腹ごしらえでもしておくか……。向こうに着くまでは飯にもありつけないらしいし」
食料庫を開けて、そこから二種類のチューブを選び中の液体を別々の皿に出す。それをそのままオーブンへと放り込むと、飲み物と調味料を取り出して食卓に置いた。
そうしているうちにオーブンから調理が完了したことを伝えるアラームが鳴る。
流石はインスタントと言うべきか、、完成するのに大した時間もかからない。
アラームが鳴り終わる前にさっさとオーブンを開けると、中でベーコンエッグとコッペパンが湯気を立てていた。
「今日の天気は晴れ、午後より雨量20mmの雨が農業地帯に降る予定です──」
適当にテレビのチャンネルを弄りながらパンを頬張る。どうやら、今日の天気の様子を伝えているようだが―――この天気予報というのが、将磨には茶番に見えて仕方がなかった。
……ここでは、雨すらも人工で降らせているのだから。今のニュースは天気予報というより、天気予定といった方が正しいだろう。
かつては天気予報と呼んでいたらしいから、そのままの名前を使っているようだが……そろそろ変えるべきではないだろうか、と不味いパンに顔をしかめながら将磨は考えていた。
パンの味をごまかすために調味料を大量にかける。ベーコンエッグにも同様に、そして念入りにかける。
これらインスタントのパンやベーコンエッグは、栄養価を重視するあまり味というものを度外視しているようだ。本来のパンやベーコンエッグの味を知っているものが食べれば卒倒するくらいに。
しかし、こんな料理とも今日でお別れだ。
将磨は事前に準備していたキャリーバッグの中身を確認し、時計を見る。
時刻は7時。集合時刻は7時30分だったから、そろそろ出る頃合いだろう。
もはや戻るつもりのない部屋の、最後の整理を済ませる。そして最後にベッドの横の目覚ましもキャリーバッグに積めると、窓の外を覗き込んだ。
―――眼下に青い惑星と呼称された星がある。
人類の故郷にして、その大部分の土地を奪われた、敵地。
蒼の輝きに目を細めると、将磨は大規模宇宙ステーション内の、自宅を後にした。
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