孤高の艶文ヒューリスティクス -The Algorithm of Closed-

葱羊歯維甫

プロローグ

―――もし科学的に根拠のある知識に基づいて行動することができるとすれば、別々の投資家が同じ時点で同じ銘柄の株式を買ったり売ったりすることはないはずである。市場参加者は天体の運行を予測する科学者のように結果を予測することはできない。社会的事件に特有の不確定要素が入り込み、結果は予想を外れがちである。


ジョージ・ソロス








 規則的な電子音。

 十秒毎に流れる合成音声。

「午後、二時五十二分二十秒、をお知らせします」

 ポジション、

 ニュートラル。

 発注端末、

 板を見る。

 二ミリ秒ごとに、

 更新される注文数量。

 六百二十三円買い、

 四円ヤリで売り買い交錯。

 微少な増減。

 引成はトントン。

 引指は七円に、

 四十二枚買い物。

 情報端末の、

 チャートを確認。

 右上がり。

 今日の高値。

 綺麗なトレンド。

 買いが激減。

 発注端末に集中。

 約定履歴。

 同じ枚数で、

 大口の売り三発。

 追加の売り。

 三円ヤリ。

 売りを詰められる。

 下が付く。

 空売りが乗る。

 発注端末に、

 五十三枚セット。

 動転売り。

 買いが減る。

 マウスのボタンに、

 指をかける。

 約定履歴。

 小口売りが、

 一斉に出た。

ひっくり返る。

 直前に、

 二円に買いを差し込む。

 売りが、

 止まらない。

 細かい約定。

 連続して返ってくる。

 売りに、

 押される。

 三十一枚、

 追加でセット。

 二円ヤリ。

 まだ出さない。

 売りが乗る。

 引成の売りが増える。

 一円が付く。

 二円に売りが乗る。

 三円から値下げ。

 動転売り。

 別にもう三十一枚セット。

 電話機のスピーカー。

「午後、二時五十四分四十秒、をお知らせします」

 引成、

 トントン。

 息を一つ吐いて。

 発注。

 二円を全部買い。

 四十枚約定。

 残り二十二枚。

 一気に買い物。

 引成が、

 六十七枚、

 買い物。

 一瞬で、

 三円買い。

 残った二十二枚を、

 取り消し。

 先物は動かず。

 売りに、

 十枚セット。

 四円が、

 付かない。

 三円買いが、

 五十一枚。

「午後、二時五十六分ちょうど、をお知らせします」

四円に、

 一枚約定。

 四円に不成で十枚出す。

 引成は、

 まだ買い物。

 三十一枚、

 売り物セット。

 四円に、

 三度約定。

 三円に、

 約定無し。

 七円買いに、

 二十枚引指。

「午後、二時五十七分十秒、をお知らせします」

 成行買い。

 四円に約定が、

 返ってくる。

 五円に、

 約定が付く。

 五枚に減らす。

 断続的に、

 五円に約定。

 追い切れない。

 五円に、

 不成で、

 売指。

 枚数が一瞬で減る。

 十枚売り乗せ。

 四円買いは、

 七十八枚。

 五枚約定。

 十枚約定。

 引成は、

 八十枚買い物。

 先物が買い。

 四円から値上げ。

 ポジション全てを、

 反対売買にセット。

 反転。

 五円買い。

 即座に六十八枚、

 不成で五円売り。

 五十二枚約定。

 引成一気に売り物。

 四円が付く。

 引成十八枚売り物。

 四円の買いが薄い。

 値下げセット。

 引指は、

 変わらず。

「午後、二時五十八分三十秒をお知らせします」

 四円に連続して小口約定。

 先物は変わらず。

 五円が五枚約定。

 マウスから指を離す。

 二枚約定。

 先物を見る。

 変わらず。

 三枚約定。

「午後、二時五十九分三十秒をお知らせします」

 ポジション確認。

 一銘柄、残り六枚。

 残り注文は一つ。

 不成が付いていることを確認。

「午後、二時五十九分五十秒をお知らせします」

 板に戻す。

 一枚約定。

「午後、三時ちょうどをお知らせします」

大引け。

 結局五円で引け。

 最後にポジション確認。

 ニュートラル。

 電子音が途切れる。

 ディーリング室内にざわめきが溢れ始めた。


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