RENGOKU

香村

RENGOKU

Prologue

 顔が潰れた女を穏やかな表情で抱き寄せる男の頬に触れながら、彼女は男を見下ろしていた。

 ――あなたの心に私はいないの?



 彼は少年を抱え、村を見渡した。

「もう、俺達を傷付ける奴はいないんだ」

 彼は白い顔の少年の頬を撫でながら言った。

「俺達は2人で静かに暮らそう。な?」

 しかし、返事は返ってこない。

 ――お願いだから独りにしないでくれ……っ!!



「どうして……どうしてよ。2人共……信じていたのに……」

 女は血で染まった2人を見下ろしていた。

「私のどこがいけなかったの?そんなに魅力ない女だったの?」

 ――神に誓ったあの言葉は嘘だったの?



 1人、教室の隅で少女は震えていた。

「いやああああ!!!」

 少女は近くにあった椅子を少年に向かって投げた。

「なにこれ、なにこれ、なにこれ、なにこれ、なにこれ、なにこれ、なにこれ、なにこれ――」

 ――ただ守りたかっただけなのに。



 ゴギッ

 太い何かが折れたかのような低く鈍い音が部屋に響いた。

「そ、そんな……じょ、冗談はよせって……」

 ――違う……違うんだ。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」



 彼女は眺めていた。真っ赤なソレを。

「なんて綺麗なの」

 真っ赤なソレはどんどん大きく広がり、彼女を包んでいく。

「もっと。もっと大きくなって。私を包んで」

 ――そして、私をアナタと同じにして。

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