Ⅷ.2004/08/05
昨日、あんな事があったから食事中も静かで……。
私の気持ちを知っていた直でさえ、口数が少なくて……。直の場合、何を話せばいいのか分からないんじゃなくて、私の気持ちを察して喋らないんだと思う。
今の私は、あまりお喋りする気分じゃない。話したら、また泣きたくなるから……。
「ごちそうさま」
そう言い残し、ガレージへ向かう。直が何か言ったけど耳に入ってこなかった。
…………。
黙々と作業を続ける。もうすぐ完成する。
これが完成したら、勝平は帰っちゃうんだよね……。そうしたら今までの幸せな時間は……もう……。また、あの冷たい日々に戻るのか……。ううん。もっと、今まで以上に冷たい日々になると思う……。私、ヒドイ事、沢山言ったから。けど、後悔してない。
「あ」
気付けば、もう、ほぼ完成していた。あとはここにプレートを貼って穴を塞ぐだけ……。それで終わり……。
そう思うと身体が思い通りに動かなくて……肩が震えて……涙が溢れて……。
「香澄……」
「!!」
ゴシゴシ
慌てて涙を拭った。
「な、何?」
「昨日はごめん。俺、香澄が嫌がってる姿見たら……ややこしくなるって分かってたのに……気付いたら飛び出してて……って、これは言い訳か……。とにかくごめん」
なんで謝るのよ……勝平は悪くないのに……。
「ううん。あの時、飛び出してくれた事には感謝しているの……。すごく嬉しかった。ありがとう」
「お、おう……」
「…………」
話が続かない……。言葉が浮かばない……。
「……私こそ……昨日はごめんなさい……すごい事暴露して……驚いたでしょ?」
昨日の事を蒸し返す事しか出てこなかった。
「……あ、ああ……」
控えめに答える勝平。
「昨日言った通り、あの人、本当のお母さんじゃないの。私の本当のお母さんは6年前に病気で死んじゃったの……」
涙が一筋、頬を伝う。
「香澄……言いたくないなら、言わなくていいから。俺、訊かないから……」
「……うっぐ……」
辛い……。とにかく辛い。
ママの存在を思い出した事と、勝平が居ないこれからの日々を思うと涙が次から次へと流れ出てくる……。
「香澄……」
勝平は私に近付き、頭を優しく撫でてくれる。その優しさが温かくて、これから来る冷たさが怖くて……涙が止まらなくなる……。
「ねぇ……もう、帰って……」
「え?」
「もう、タイムマシン出来ているの……。あとはこれを付けるだけで……」
最後のパーツを見せる。
「…………」
勝平は黙り込んで……。
お願いだから黙らないで……。『わかった』って言って……。早く帰って……。もう……辛いの……。冷たい日々が来るって分かっているのに、温かい時に『嬉しい』って思っちゃうのが辛いの……。
私は震える手で最後のパーツをマシンに付ける。
手が思い通りに動かない……。
お願いだから、言う事を聞いて!
涙が止まらない……。
…………。
……終わった……。これで、タイムマシンは完成した。だから、勝平がここにいる理由なんかない……。
震える身体を必死に抑えて声を出した。
「タイムマシン、完成したよ」
必死に抑えたけど、声は震えていて……。勝平は俯いていて……。
「……約束」
「え?」
「約束したろ?一緒に祭りに行くって」
忘れるはずない。すごく、すごく楽しみにしてた。ずっと、ずっと待ち遠しくて……。あと2日……。
「だから、帰るのはそれが終わってから。ダメか?」
ダメなんかじゃない!けど……辛いのよ……。
「…………」
勝平は私の返事を待っている。でも、私はどうしていいか分からず、黙っている。だから、沈黙がどこまでも続く。
『辛いから早く帰ってほしい』と思う反面、『帰らないで、独りにしないで』と思っている。どっちの気持ちも強くて、どっちを選ぶべきなのか、分からない……。
「お嬢様」
直がガレージに入ってきて、私達の元に来る。
「明日、温泉に行きましょう」
……え?
「さっき予約しました。3名で予約入れたので、浜中様も御一緒に。そして、一泊して、帰ってきたらお祭りに行く。いいですね?」
私と勝平は何が起きているのか理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。そして、いつの間にか私の涙は止まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます