Ⅵ.2004/08/03

 直も加わって、もっと賑やかになった朝食を済ませ、私はタイムマシン造りを再開した。

 てか、直と食事なんていつ以来だろう。ママが居た時はよく一緒に食べていたけど……。

「はぁ……」

 さてと、始めよう。



 食事を済ませた俺は、家事を手伝うと直美さんに言ったが、断られた。


『お嬢様のお世話は私がします!浜中様はお客様なのですから、ゆっくりしていて下さい』


 だとさ。それに、俺の部屋まで用意してくれた。


『え?!ガレージでお休みになるのですか?そんな!今すぐお部屋を用意いたしますから!』


 それに対して香澄は滅茶苦茶反対してたけど。


『何言っているのですか!たとえ見ず知らずの方とは言え、ここに居る以上、お客様はお客様です。お嬢様はお客様に対してそんな冷たい方ではなかったはずですよ?それに、ガレージに寝かせるなんて……体調を崩されたらどうするのですか?』

『う゛……わ、分かったわよ!けど、勝手に他の部屋に入ったりしないようにしてよね!』

『その辺は抜かりありません。特にお嬢様のお部屋は……ドアに触れようとでもしたら…ふふふ……』


 入ろうなんて思いもしないけど……もし、入ったら殺される気がするのは俺だけか?

 つーか、この2人、仲良いな。香澄は何だかんだ言って直美さんの言う事聞くしさ。まるで親子みたいだな。

「香澄の両親って、仕事が忙しいって訊いたんですけど……?」

 食器を洗っている直美さんに訊いてみた。

「ええ、まあ、旦那様は社長で奥様は秘書をやっていらっしゃいますから……」

 ……あれ?直美さん、今まで香澄のお母さんの事『幸恵様』って呼んでたよな?なんか……意味でもあんのか?……考えすぎ?

「直美さん」

「はい?」

「考えすぎなのかもしれないんですけど、香澄のお母さんの呼び方変わりました?」

「……え?」

「あ、いや、別に何でもないです。俺の気のせいですよね。ははは」

「……気のせいではないですよ。と言うより、よく気がつきましたね。お嬢様の前で『奥様』と呼ぶのはあまりにも酷な気がして……流石に旦那様や幸恵様が共にいる場合は『幸恵様』と呼べませんが……」

「何で香澄の前では『奥様』って言わないようにしているんですか?親子の仲があまりよくないんですか?」

「それは、その……」

 直美さんは言い淀んだ。絶対何かある!

「私の口からは言えません。その理由は私1人の問題では済まないので……」

 なんか、訊いてはいけない事っぽい……。

「すみません。気になりますよね?けど、今は訊かないで下さい。いずれ話せる日が来るかもしれないので、それまでは……」

「……そうですよね。他人に触れてほしくない部分って誰にでもありますよね……。こっちこそ、余計な事訊いてすみません」

 やっぱり、あそこまで聞いたら気になるけど……直美さんの背中から『訊くな』ってオーラがバンバン出てるから……訊けねぇよ。きっと相当な理由なんだろうな……。

「……そうですよね」

 呟くように直美さんは言った。

「ここには奥様は居ないわけですから、『幸恵様』と呼んでも構わないわけですよね!」

「は、はあ……?」

 なんか、やけにテンションが上がった気ぃするのは気のせいか?

「私、少しでもお嬢様と同じ位置に居たいんです!少しでもお傍に……♪」

 直美さんはメイド兼母親って感じで仕えてんのかと思ったけど……危険な芳りがするのは気のせいじゃないと思う……。

「お、俺、香澄の様子見てこよっかなぁ……」

 さり気なぁ~く、直美さんの所から離れようとした。

「浜中様?」

 ビクッ

「お嬢様は2・3年もすればお美しいレディーになります。『今のうちに俺のものにしておこう』などと思って、手を出したりしないで下さいね?」

 や、やばい……。顔は笑ってるけど、心は笑ってねぇ……。もし、これで手を出したら……『死んだ方がマシ』って思うような地獄を味わわせるされる……絶対!!いや、手出すつもりなんてこれっぽっちもないけど。

「な、なに言ってんですか?香澄とはまだ会ったばかりだし、なにより、小学生に手を出すほど困っていませんから」

 内心ビクビクしているのを必死に抑えながら言った。

「なら良いんです。このまま、お嬢様の魅力に気付かないで帰って下さいねw」

 こ、怖い……。



 リビングから香澄が作業しているガレージに来ていた。

 そう言えば、『祭り、行ってない』とか言ってたよな。それって親が忙しすぎて行けなかったって事か?でも、だったら、友達と行けばいいのに。まさかとは思うけど、友達がいないわけじゃねーだろうな?

 いろんなコードを繋げてる香澄を眺めながらそんな事を考えていた。

「さ、さっきから何よ!じっと見られてると集中できないんですけど!」

 香澄に言われて、じっと見ている事に気付いた。

「あ、ごめん」

 ビクッ

 な、なんか、悪寒が……。まさか、直美さん?!

 思わず辺りを見渡したが、直美さんの姿は見当たらない。気のせいだと思うようにしよう。



 もう!なんで、じっと見るのよ!気になるし、恥ずかしいし……もう!てか、なんで挙動不審になってるのよ。意味分かんない。

 私は大きく息を吐いて、作業を続けた。

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