強がりくんの四苦八苦

@rikukoudu

AM6:50

AM6:50 IK〇Aで買った安物の時計が鳴り叫びきます。

強がりくんは今日も朝に向かって文句炸裂です。

「全く僕の都合なんてお構い無しに毎日毎日来やがって朝はどうしてこうも自分勝手なんだ!!!!!」

強がりくんの朝はだいたいこんな風に始まります。ここ数年彼が望んでやってきた朝なんてありませんでした。ため息まじりに布団から脱出。寝ぼけた顔を冷たい水でパシャっと洗い、洗面台の鏡に映る切れ長の目、高い鼻、主張のない唇、シャープな輪郭、透き通るような白い肌、そうです強がりくんはすこぶるイケメンなのです。リビングにおはようと挨拶をしました。しかし返事はありません。置き手紙と冷めた朝食と夕食代の2000円がテーブルの上からこちらを覗くだけです。置き手紙は言いました。

「朝ごはんは昨晩の残りのカツ丼です。 母より」

朝からこんな重いもん食えるかぁあ!!!!!

強がりくんは心の中で叫び散らしました。

強がりくんがこんなに文句タラタラのひねくれ者になってしまったのはきっと私のせいかも知れません。

おっと紹介遅れ申し訳ない。私は強がりくんの父、笑福亭五郎丸です。私は6年前死んでしまいました。6年前忘年会でよじれるほど酒を飲んだ私は悪いことだと知りながらも飲酒運転をしてしまったのです。泥酔の私はとてつもないスピードで歩道に突っ込んでしまいました。1人の男性を巻き込みそのまま電柱にぶつかり、私はもちろんのこと巻き込んでしまった男性も殺してしまったのです。私の人生はこんな風に終わってしまったのです。

さらに私が引き起こした悲劇はここで終わらないのです。私の妻は遺族に多額の損害賠償を支払わなければいけなくなってしまったのです。ここも私の愚かなところです。事故なんておこさない!保険会社に金なんて払ってられるか!と思い保険に入らなかったのです。

もっとつらいことに強がりくんが学校でイジメられるようになってしまいました。人殺しの息子だとみんなから無視され、そのイジメは日に日にひどいものになっていきました。

私は罪を犯し、家族に多大な迷惑をかけてしまった後悔から死んでも死にきれずこの世にしがみついているのです。

損害賠償のため身を粉にして働く妻、そんな忙しい妻に迷惑をかけたくないとイジメられていることを告白出来ず1人耐える息子。

死んでしまった私にはどうすることもできませんでした。せめてこの子が大人になり幸せだと笑えるようになるまでは成仏できないと6年経った今もこうして彼を見守っているのです。しかしながら6年が経っても妻と息子の暮らしは暗いものでした。6年で変わったものと言うと強がりくんが小学生から中学校、そして高校に上がったことくらいです。強がりくんは小学校ではイジメられ、中学校ではうまく馴染めず孤独を抱えていました。そんな小中学校時代の孤独が彼の心に淡い闇を産んでしまったのです。この話は強がりくんが歩む人生とそれを見守る私の話です。また度々私は現れるかと思います。その時はみなさん愛想よくしていただきたいです。私の話はこの辺にしときましょう。ではまた。


「おい!人殺しの息子は学校来んな!!!!!」

「俺らのことも殺す気だろギャハハハハ」

悪い夢から目覚まし時計が僕を救う。

僕は強がりくん、高校1年生の16歳だ。朝からカツ丼をかっ食らい少し気持ちが悪い。まだまだ眠いが学校へ行かなければ。誰もいない家に鍵をかけ駅まで猛ダッシュ。ギリギリ電車に飛び乗りました。目の前のカップルのいちゃつき具合に相当なイラつきを覚えます。過酷なイジメを乗り越え、高校に入ればイジメのない楽しい毎日が来ると思っていました。孤独な中学時代はその孤独を紛らわすために必死に勉強しました。頭の良い高校に行けば何か変わると思っていたが、現実は思った程面白いものではありませんでした。イジメもなければ特別楽しいこともない。あるのは満員電車、退屈な授業、退屈な友達、少しだけ辛いバイト。イジメられていた僕からは考えられない程退屈な毎日だった。そんなことを考えていると、

「おはー強がり!昨日のテストどーだった?俺全然できなかったわー」

友人Aだ、朝から面倒だなと思いつつ

「おはーおれも全然できなかったわータハハハ」

実は余裕のよっちゃんでした。しかしここは空気を読まなくては。強がりくんが高校に入ってからうまくなったものと言えば、バイトのレジ打ちと愛想笑いだけでした。友人Aのくだらない話は上の空に、今の僕が家電になったら空気清浄機が良く似合うなぁなんてくだらないことを考えます。いつも通りの道、いつも通りのチャイム、退屈な授業の始まりです。正直言うと中学生の時勉強しすぎたせいか、高校の授業は簡単すぎてよだれが出そうでした。休み時間の合間も毎日毎日スマホゲームの話や昨日のテレビの話、そんなことしかお話できない友人達を心の奥でバカだなんて思ってしまいます。夕方やっと学校が終わりました。家に帰る途中コンビニで1番安い弁当を買い、バイト前に食べました。愛の欠片もない食事にため息が出ますがそんなの慣れっこです。さぁダルいバイトの始まりです。家の近くのコンビニでバイト。レジでぼーっとしていると、

「あのどーやったらこのチケット買えるんですかー?」若いギャル風のケバイ女が話しかけてきました。

小さい舌打ちと若干のダルさといっしょに客に言いました。

「ああ僕一緒にやりますよこちらへどうぞー」

ちょー無気力にしっかりとお仕事こなしました。今日も3600円ゲットー。缶コーヒーを買ってお家に帰ります。今日も母の帰りは遅いです。たまに帰って来ない時もあります。強がりくんはしゃっとシャワーを浴びて、睡魔と仲良く布団に入りました。寝ようとしてると突然の着信音。誰だと思い開くとただの通販の広告でした。そのメールは開かず、マナーモードにして眠りに着きました。こんな感じで毎日を消費する強がりくんでした。


AM6:50今日も悪い夢から目覚まし時計が救ってくれました。今日もリビングには置き手紙と一万円だけがひっそりとテーブルの上にいらっしゃいました。置き手紙は、

「今日は友達のところに泊まって来ます。よろしくお願いします。」

テメーは楽しそうでなによりだな!!!!!!

心の中で叫びました。

強がりくんはかれこれ数ヶ月ろくに母と会話していません。その代わり置き手紙とは仲良くなりました。

コンビニで朝食を買って電車に乗りました。

今日も友人Aが話しかけて来ます。

「おはよー強がり~!昨日のシムタクのドラマみた~?」

「嘘!昨日やってたの?バイトで見れなかったわ~」

ホントはシムタクなんて興味ないし、友人Aについてはさらに興味がありませんでした。

遅刻ギリギリで学校に着き急いで下駄箱を開けると上履きの上に見慣れない手紙が1通。僕は一瞬過去のイジメの記憶がよぎりました。手紙を盗むようにカバンに押し込み教室に向かいます。僕の退屈な日々は終わり、再びの地獄が待っているのではないかと朝のホームルームは落ち着ませんでした。ホームルームが終わると僕は誰にもバレないようにそっと手紙を開来ました。そこには、

「話したいことがあります。今日の放課後体育館の裏で待ってます。 阿部まお子」

阿部まお子?正直僕には心あたりませんでした。しかし退屈な毎日に突然現れた異常。僕は心が踊っているのを隠せませんでした。きっとこの子はバリバリに可愛くてきっと僕のことが気になっているのだろう。そんなキャピキャピの希望をぶら下げ退屈な1日を鬼のような早さで終えました。高まる胸を抑え、平静を装い体育館裏に向かいました。日が暮れた薄暗い体育館裏にいたのは、髪の綺麗な色の白い女の子だった。思っていた以上に可愛い女の子だった、僕は焦りを隠せません。僕は荒ぶる気持ちを抑え紳士ぶってこう言いました。

「こんにちは強がりくんです。少し待たせちゃったかなごめん、話って何かな?」

色の白い少女は振り返りました。満面の笑顔しかし目は恐ろしく冷ややかなものを感じました。彼女は、

「今、来たところです。私が阿部まお子です。」

そして少しの沈黙、彼女は私にゆっくり詰め寄ってきた、僕は緊張と興奮とわずかな恐怖で動けずにいました。近づいたその顔に笑顔はなく、氷のように冷たい印象を受けました。そして彼女の薄ピンクの唇がゆっくりと動きました。

「私、強がりくんのことずっと気になってた。好きなの。」

僕はついついニヤけてしまった。耳が熱くなるのを感じました。人生初の愛の告白を受け、まさに有頂天。僕はなんて言えばいいかわからず言葉を探していると、彼女は半笑いで突然言いました。

「あなたのお父さん交通事故で死んだんでしょ?」

一瞬で僕の顔は色を失いました。有頂天からの突然の落下、僕の頭の中はピンクと黒のモヤモヤで混乱に陥っていました。彼女は続ける。

「私、あなたの全てになりたいの。」

僕は訳がわかりません。彼女は僕に詮索の余地を与えずさらに続ける。

「あなたイジメられてたんでしょ?誰にも言えず、誰にも頼れず、苦しかったでしょ。私ならあなたの苦しみを癒してあげられる。だからあなたは私を信じて。」

今日出会ったばかりの女が僕の7年もの孤独を一瞬にして打ち壊しました。もはや僕の思考は完全にに停止。崩れ落ちる僕を彼女は抱きしめ、耳元でこうつぶやきました。

「もう離さない。」

その声は愛の告白と呼ぶにはあまりにも冷たく一種の怨恨のようなものさえ感じてしまいました。しかし6年もの孤独からの解放、それがもたらした喜びに僕の頭はいっぱいになっていました。



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